第8話 変態後輩と放課後
「……はぁ」
「どうしたんだい、そんなに大きなため息を吐いたりして」
「いや、俺がこの学校で彼女が出来る可能性が0になったなって悲観してただけだ」
あの昼休みの一件があってから放課後になった。
奏多が叫んだ愛してる宣言は瞬く間に学校中に広まり、俺と奏多は全学年公認のカップルになってしまったわけだ。
別に俺たち付き合ってないのになぁ……逃げるには随分と大き過ぎる外堀を埋められた気がする……。
「あはは、僕からしても羨ましいぐらいだと思うけどね」
「お。遂にあの変態を引き受けてくれる気になったか?」
「僕ロリコン」
「クソッ! その言葉は説得力が違い過ぎる!」
たった一言だっていうのにこれほど納得出来る言葉を俺は知らない!
「そういうわけだから、ごめん。はあ、どこかに僕好みの美少女はいないものか……」
「……だったら今度いい人紹介してやろうか?」
「本当かいっ!? と言いたいところだけど、僕の理想は高いって自覚があるからね。期待せずに待っておくよ」
よし、これで約束は出来た。
あとは咲良先輩を引き合わせるだけだ。
……果たして1番の懸念点である年齢を翔也が妥協してくれるかは分からないけど。
「せーんぱいっ! 愛しの後輩が迎えに来ましたよー!」
「噂をすれば、だね」
「……おう、じゃあ帰るか。翔也、また明日な」
「あれ? 何も否定しないんだね?」
「遂に認めてくれる気になりましたか!?」
否定しないって言うかだな……。
「ここにいるよりも、早く家に帰った方が周りの目線が無い分、楽だと思っただけだ」
流石に俺を見ながら次々と鈍器を用意し始めてるクラスメイトの野郎共に囲まれたままじゃ居心地が悪すぎるし生きた心地がしないからな……。
「なるほど。奏多さん、大地をよろしくね。捻くれてるし、素直じゃないけど、悪い奴じゃないから」
「はい! だいじょぶです! そこがまた可愛いって言うか……」
「おいこら話聞けや」
両頬に手を当て、奏多はいやんいやんと首を横に振り始めた。
現実でそれやる奴本当にいたんだな……。
「クソッ! 何で雨宮の奴が……! あいつのボールペンのインク切れかけのに変えといてやる!」
「憎しみで人を殺せたなら! 替えのシャー芯全部中途半端な長さに折っといてやるぜ!」
「これは夢に決まってる……! あのクズがモテてるなんて悪夢にもほどがある! シャーペンに付いてる消しゴム使っといてやるわ!」
どれも陰湿ぅ! でもシャー芯が1番困る!
血の涙を流し始めたクラスメイトたちがそろそろ暴動を起こし始めそうだし早く逃げよう。
「ほら、行くぞ。これ以上ここにいたら俺の命が危ない」
「はい! ではろりこん先輩、失礼します!」
「バッ!? おい、くっつくな! 腕を組むな!」
奏多が俺の腕を胸に抱くように組んだせいで右肘に幸せな弾力が……!?
「「「うがぁぁぁぁあああああ!!!! 奴を殺せ!!! 今すぐにィ!!!」」」
どうしてこうなるんだよ!?
俺たちは教室を飛び出した。
◇◇◇
「お前ほどほどにしとけよ? あまりやり過ぎるとマジで敵だらけになるぞ?」
「だいじょぶです! わたしは慣れてますから!」
「俺が大丈夫じゃないんだよ! さっきのクラスメイト見ただろ!? 暴走寸前のエヴァにみたいになってただろうが!」
「有象無象のことなんてどうでもいいです! せんぱいはしにません! わたしがせんぱいを守りますから!」
「まるで俺がシンジ君ポジみたいに!?」
守って欲しいのは俺じゃなくて文房具だけどな! 狙いがそこに集中してるし!
というかお前よくこのネタに付いてこれたな!?
「あ、せんぱい! せっかくですし、寄り道して帰りませんか? でーとですよ! 下校でーと!」
「嫌だめんどい無理」
「なにも3回も断らなくてもいいじゃないですかぁ!」
「金だって限られてるんだから不必要な出費は避けるべきだろ」
「それを言われると……」
「俺の場合、親父からの仕送りがいつ止められるか分からないからな。マジで俺の存在を忘れて仕送りを忘れかねない」
……なんだろう、ちょっと泣けてきた。流石にそれは無いと信じたい。……信じたい。
「もしそうなったらわたしがせんぱいを養います! お金が無くても、愛に溢れた生活を送りましょう!」
「男としてのプライドにかけて絶対に女に養われてたまるか!」
「それはお前は家庭を守ってろってことですか!? 遠回しなぷろぽーずですか!?」
「断じて違う! 相手がお前じゃなくても……って、奏多の目のハイライトさん!? まだ定時にすらなってないのに仕事放棄しないで!?」
「わたし以外のどこの誰と添い遂げようっていうんですかその女をころしてわたしもしにます来世では必ず結ばれましょうねせんぱい」
一息で言い切りやがった!? なんて肺活量してやがる! というか怖えよ! これがヤンデレってやつか!?
「あ、安心しろ! 悲しいことに俺に女子の知り合いなんていないんだからな!」
「あはっ! なんだぁ! やめてくださいよぉ! せんぱぁい! 悪い冗談ですよ?」
「は、はは……気を付けよ……」
上機嫌でにぱっと笑い、隣で鼻歌を歌い出した奏多を見ながら、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
「じゃあせんぱい! クレープ食べるぐらいならいいですよね!? ねっ!?」
「圧が凄い! 分かったから少し離れろ!」
クレープの店の車を指差しながら、きらきらと目を輝かせた奏多がぐいぐいと迫ってきて、いい匂いが俺の鼻孔をくすぐった。
なんで女子ってクレープの匂いよりもいい匂いすんだよ!
「はっ!? す、すみません! つい興奮してしまいまして……もちろん性的に」
「今のどこに性的に興奮出来る要素があった!? そこは性的にじゃないって言って欲しかったわ!」
「せんぱいが傍にいるだけでわたしはいつでもどこでも場所を選ばずに興奮出来ます!」
「お前の変態性ってもしかして俺のせい!? そんな業背負う覚悟ねえよ!?」
奏多の親御さんに顔向け出来ねえぞ!? 同棲してるってだけでもグレーゾーンもいいところなのに!
「せんぱいが傍にいてくれるから、わたしは素でいられるんですよ?」
「その素は隠しておいてくれ……頼むから……」
「せんぱいだけはー、とくべつっ! ですよ?」
全然嬉しくない特別扱いをどうも!
……はあ、クレープでも食って、この苦い現実を緩和しよ……。
甘いはずのクレープは何故か涙の味がした。
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