第7話 変態後輩のトラップ

「大地は今日購買? それとも学食?」

「このあと体育だし購買だな。買って教室で食った方がいいだろ」

「それもそうだね。僕も飲み物欲しいし、ついて行くよ」

「おう。ちょっと待ってくれ、スマホと財布を……ん?」


 鞄の中に入れたスマホと財布を取り出そうと鞄を開けると、真っ先に目に飛び込んできた物は淡い黄色の女性用のパンツだった。


「……なあ、翔也。鞄の中に女性用のパンツが鎮座してたんだが」

「それは随分と変わったサプライズだね、それにパンツが入っていたにしてはえらく落ち着いてるよね?」

「正直あの変態と日々を過ごしている俺にとって、パンツが鞄の中に入っていてもそこまで驚くことじゃないからな」

「大地、落ち着いて考えて? それは本来驚かないといけないと僕は思うんだ。変に慣れ始めていることに気付いた方がいい」


 だって全裸でベッドに潜り込まれたりだとか、風呂入ってたら普通に入ってきたりだとかしてるんだぜ? 今更布ぐらいで驚くかよ。って言っても流石に直視は無理だけど。


「今、重要なのは……これがいかにして用意されたかってことだろ……もし脱ぎ立てだったら俺は今すぐあいつの元に走って正しい下着の扱い方を教えないといけなくなるぞ」

「男の大地が女子の奏多さんに女性用下着の着用の仕方を教えるんだね」

「やめろ! 要約するな!」


 自分がとんでもなく変態的な行為を進んでやらないといけないかも知れないって状況に気が付いて絶望しそうになるだろうが! 俺は正しいことをしようとしてるのに!


「とにかく、そういうわけだから……俺は途中で離脱することになる」

「まあ仕方ないよね。僕はいつものようにユートピアを眺めながら1人で食べることにするよ。今日もご飯が美味しく食べられそうだ」

「窓から見える小学校のことをユートピアとか言うなこのロリコン野郎! 幼女をおかずに飯を食うとか字面がやばすぎんだよ!」

「最高の調味料だね」

「うるせえ! もういいわ!」


 ……もうこいつに咲良先輩を紹介して2人が付き合った方が翔也の為になるんじゃねえかな? 早いとこ2人を巡り合わせるか、マジで。


 俺は自販機の前で翔也と別れて、奏多がいる1年の教室に向かった。

 ……あいつのクラスしらねえわ、俺。


◇◇◇


 名前も知らない1年に尋ねながら、なんとか辿り着いた。あいつ2組だったんだな。

 考えてみれば俺、あいつのこと変態ってこと以外は何も知らないわ。

 ……それ1番知らなくてもいい情報じゃねえか。


「あ、司ー。ほら愛しの先輩が来たよー」

「あ、せんぱいせんぱーいっ!」


 友達をほったらかして一直線に俺の方に走ってきた。犬かお前は。


「お前クラスで何を吹聴してんだよ」

「えー? わたしがせんぱいを好きだってことだけですよー? 何か問題ありましたか?」

「大問題だ! 付き合ってるわけでもないのにただクソ恥ずかしいわ!」

「いいじゃないですかー。美少女と噂されるなんて、まるで物語の主人公みたいですよ?」


 あー、周りの目が……女子は好奇心、男子は殺意に満ちた目で俺を見てくる。

 後輩の男子から殺意のこもった目で見られる状況が物語の主人公だって言うなら俺はモブでいい。


「あれが奏多さんの……クソッ、俺のがカッコいいじゃねえか。なあ?」

「あんな美少女の子に好かれるなんて……前世でどんな徳を積んだっていうんだ!? あと、俺の方がカッコいいな」

「塩だ! 塩持ってこい! リア充に汚染された空気を浄化すんぞ! 換気だ換気ぃ! あと俺のがカッコいいっての」

「「「は? 俺が1番カッコいいだろ? やんのかてめえら?」」」


 お前ら全員表出ろや。先輩の恐ろしさを教えてやる。……まあ、俺が手を下すまでもなく潰し合いが始まったけども。バカしかいねえのか。 

 いや、そんなことよりも……。


「……お前さ、今ちゃんとパンツ履いてるか?」

「まさかせんぱいがわたしに履いてるかどうかを確認してくれるなんて、遂にわたしの下着に興味を持ってくれたんですね!? 嬉しいです!」

「お前が鞄の中に仕込んでいたブツを飯の時間を削ってまで届けにきたってだけだ!」


 意識したら余計腹減ってきた……とっとと返して教室に戻ろう。


「あれですか! せんぱいがこうやってお昼休みにわたしに会いに来てくれるなんてわざわざ1枚持ってきておいた甲斐がありました!」

「脱ぎ立てじゃなくて安心したけど……お前わざわざこの為に抜き身のパンツを1枚持参してんじゃねえよ!」

「あははー、やだなーせんぱい! 脱ぎ立てのパンツを鞄の中に入れておくなんてそれじゃまるでわたしが変態みたいじゃないですかー」

「俺が保証してやる、お前は紛れもない変態だ! というかお前自分で変態だって自覚あるんじゃねえのかよ!」


 ってかこんなこと話してる間にどんどん昼休みが過ぎてくじゃねえか。


「俺はもう戻るぞ。次体育だし、飯だってまだ食ってねえんだよ」


 ……購買の人気パンと惣菜パンはもう無いだろうな。いつも余ってるコッペパンとあんぱんで我慢するしかねえか。


「あ、あの……せんぱい。もしかして、怒ってます……よね?」

「……何が?」

「いえ……わたしが、無理にせんぱいを呼んだせいで、時間を使わせちゃって……」

「……分かってんならこんなことするな」

「だって、せんぱいとお話、したかったんですもん……LINEだと、せんぱい確実に来てくれるか分からないじゃないですか……」


 ……あーもう。


「……まあ、あれだ。飯のあとが体育じゃなくて、俺が限りなく暇だったら……顔ぐらい出してやる」

「え、そ……それって?」

「2度は言わないからな。じゃ本当に戻るから」


 俺は踵を返して、購買がある方に足を向ける。


「せんぱーいっ! 愛してますよぉ!」

「なっ!? てめえそんなこと大声で叫ぶな! この恥知らずが! 恥を知れ!」


 バカじゃねえの!? こんな人が大勢いるような所でそんな事叫んでんじゃねえよ! あーくそっ!

 俺は逃げるように廊下を疾駆した。


「「「うぉぉぉぉぉ!!! クソがァッ!!! 羨まし過ぎる!!!」」」


 数秒後、野郎共の咆哮が俺の背中を追ってきた。

 俺は悪くないからな!

  

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