第4話 ストーカーな先輩の趣味は盗撮です

「あれ? 翔也?」


 とある日の休日。コンビニに向かう途中、公園のベンチで長い足を組んで座っている翔也を見かけた。無駄にイケメンなせいで、公園に子供を連れて来ていたお母様方から注目を集めてんな。


「よっ、何やってんだよ」

 

 せっかく見かけたのに声をかけないのもどうかと思ったから、近づいて声をかけた。

 いや、大体何やってるかなんて想像つくんだけどな……。


「ああ、大地。見ての通りだよ」

「なるほど。公園に遊びに来た幼女を眺めてたんだな? 予想通りだ」

「流石。よく分かってるじゃないか」

「分かりたくもなかったし、予想が外れて欲しかったよ!」


 信じられるか? この昼下がりの休日にこのイケメンはあろうことか幼女を観察する為だけに公園に赴き、長い足をこれ見よがしに組んで、肘掛けに手を置いて座ってるんだぜ? 格好だけ見れば完全に貴族のそれなのに中身がクソ残念過ぎる……。


「お兄ちゃーん! いっしょにあそぼ?」

「ああ。僕でいいなら喜んで」

「ちょい待てや」


 このロリコンさらっと遊びに誘われた上にナチュラルに抱きかかえたぞ!? 事案だろこれ!


「ん? どうしたんだい?」

「お前が幼女に触れるのは絶対にまずいだろ!」

「はははっ。流石にここまで小さな子に性的な興奮を覚えるほど、僕は節操のないロリコンじゃないよ」

「節操のないロリコンっていうパワーワードは置いといて、お前……YESロリータ、NOタッチの精神じゃねえのかよ」


 こいつのことだ。本当に節度を守って遠くから幼女を眺めるだけで満足してるんだろうけど。……それも普通にアウトじゃね?


「そうだったんだけどね。大地、僕の将来の夢は小学校の先生か、保育士だって知ってるよね?」

「ああ、それを知った俺は必死で止めたよな。もう1年ぐらい前か……今となってもいい思い出でもなんでもねえな」


 小さい頃からの友人のロリコンという性癖を知った上で、その友人の将来の夢が子供に関わる仕事だという。そりゃ止めるだろ。子供が好きの意味が違うんだから……。


「子供に関わるってことは触れることも多くなってくる。その時に、YESロリータ、NOタッチの精神なんて持ってるのはまずいだろ?」

「まあ確かに触れ合うのも仕事の内だしな。お前ならちゃんと線引きして仕事をこなすだろ」

「だから僕は思ったんだ。その職を目指すロリコンの僕が抱えるのはYESロリータ、GOタッチであるべきだと……!」

「いい話かと思ったら結局お前の願望の話かよ!? 台無しじゃねえか!」


 それロリコンが1番抱えちゃダメな精神だろ!?


「やっぱり合法的に触れられるっていいよね」

「アウトだろ! 倫理的に!」


 こいつ開き直りやがった! 


「まあ冗談さ。僕を信じて」

「……長い付き合いだしな。じゃあ、俺もう行くけど……くれぐれも何もするなよ?」


 分かってるよ、という翔也の言葉を背中に受けて、俺は公園をあとにしようと歩き出す。


「……ん? ああ、やっぱり見間違いじゃなかったか」


 公園を出ようとすると、見覚えのある姿を見つけて、俺は近寄った。


「あー……翔也君は今日もカッコいいですね……」

「先輩、今日もストーキングですか?」

「ひゃあっ!? あ、雨宮くん!? 気付いていたんですか!? あと違いますよ! 今日は本当にたまたまです!」


 物陰に隠れるように、カメラを構えていた小柄な人影がびくっとして跳ね上がった。

 

「まあ、さっき視界に入って気のせいかなと思ったんですけど……俺の方もたまたま気が付いたって感じですよ」

「そうですか……あ! 見てください! 翔也君がとてもいい笑顔で笑っています! シャッターチャンスです!」


 パシャシャシャッ! と連写でロリコンを撮り始めた先輩の作業が終わるのを俺は黙って待つ。

 

「何度も言いますけど、普通に話しかければいいじゃないですか。友達になれれば、先輩ならまだチャンスはある方だと思いますよ? 先輩年齢を除けば翔也の好みなんですから」

「そ、それは……やっぱり恥ずかしくて……何度も話しかけようかと思いましたけど……勇気が出なかったんです……」


 先輩はただでさえ小柄な体を縮こませ、俯いてしまった。

 ……それが出来てれば、こうはなってないか。


 この小柄な先輩……咲良真穂さくらまほさんは見ての通り翔也に恋をしている。

 でも、翔也の好みを知っているからこそ、遠くから眺めるだけだった先輩はこうして盗撮をしてしまうようになってしまったわけだ。


 ……少なくとも、俺は咲良先輩なら翔也も揺らぐと思うんだよなぁ。どう見たって高校生には見えない。というか小学生でも通るだろ。

 多分、140cm後半程度の身長に色素の薄い白髪。翔也の大好物である、所謂合法ロリと呼べてしまう存在が、この先輩なんだから。

 

 そんな先輩と俺の出会いは約1年ほど前に遡ることになる。


◇◇◇


「やべえ! 早くしないと購買のパンが売り切れる!」


 くそっ、日直の仕事でスタートダッシュが遅れるなんてついてねえ! 

 この時間の購買は運動部の巣窟であり、帰宅部の俺が抗争に勝てる確率は限りなく0に近い! 


「きゃっ!」

「うおっ!」


 急いでいたせいで曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

 その拍子に相手の荷物が盛大にぶちまけられる。

 相手を見ると、小柄な女の子だった。1年か?


「ごめん! 急いでたから!」

「い、いえ! 私もよそ見していたので……」


 くっ、俺のせいで荷物をぶちまけてるんだし……ここで荷物を拾わないのはクズすぎる! でも手伝っていたら昼飯抜きは確定だ! ……仕方ないか。


「あ、ありがとうございます……お手を煩わせてしまってごめんなさい……」

「いや、俺のせいだから……おっと」


 掴んだ生徒手帳から何かが落ちてきた? ……これは写真? 


「あ、そ、それは!?」


 裏返すと、そこにはよく知った俺の友人、高塚翔也が写っていた。

 しかも……これ……明らかに翔也が気付いていないっぽいな……。

 ん? んんん……? まさか、これって――


「盗撮、とか? いやいやまさかな」

「ごごご、ごめんなさい! ほんの出来心だったんです! 警察だけはどうかご勘弁を! お金なら払いますから!」

「ちょ、ちょっと!? 流石に土下座はやめて!? こんな場面誰かに見られたら確実に俺が黒扱いされるから!」


 15歳にして始めて女子から土下座されてしまった……よく考えなくても女子から土下座される経験なんて生涯であるかどうかだったわ。貴重な体験をした。


「とにかく、場所を移そうか」

「は、はい……」


 これが咲良真穂先輩とのファーストインパクト、もといコンタクトだった。

 その後、翔也のことが好きだってことを知らされて、自己紹介されて……後輩じゃなくて先輩だってことを知った。


 ストーカーや盗撮という行為はともかくとして、本当に翔也のことが好きなんだっていうのは見ていて伝わってきたから、俺はこの先輩に協力してなんとか翔也との仲を取り持とうとしている、というわけだ。


 ……中々進展しないどころか、未だに先輩の存在は翔也に知られてないまま1年が経ってしまってるけど。


◇◇◇


「とりあえず、俺はもう行きますよ? 早く帰らないとうるさい奴がいるんで。先輩、程々にしておいてくださいね?」

「はい! また学校で!」


 協力すると言っても今日は作戦が思いついていないし、先輩もたまたま趣味である写真をしに外に出たら翔也を見かけただけみたいだから、いきなり何かやれって言っても勇気が出ないだろう。


 そう思った俺は先輩の邪魔をしないように、足早に公園をあとにした。

 さて、コンビニ行くか……ん? LINEがきたのか。奏多から?


『せんぱいどこのコンビニまで行ったんですか? もしかして近所のコンビニでゴムが全部買い占められてたとかですか!? それは大変です! 流行に乗り遅れないようにせんぱいも早く買ってきてください!』


 俺は既読スルーをして、最寄りのコンビニでアイスを買って帰った。

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