第2話 俺の友達を紹介しよう、ロリコンだ

「あははは! 毎朝大変だね、大地は」

「笑い事じゃねえよ……」


 今朝あったことを話すと朗らかかつ爽やかな笑い声を上げたのは高塚翔也こうづかしょうや、俺の小学校からの友達で腐れ縁のイケメン優男。

 所謂幼馴染ってやつだけど、男の幼馴染に需要は全くない。どうして俺には幼馴染がいるのに男なんだ。


「まあまあ、役得だと思いなよ。噂の奏多さんと一緒に住んでるんだし」

「……お前は朝起きる度に自らの貞操の心配をしないといけない状況を役得だと思うのか?」


 マジで洒落にならないからな? 特に一緒に暮らし始めての1週間は叫ばない朝なんてなかったし、お腹擦りながらパパは酷いね、なんて言われた日もあった。

 寝起きなのに心臓止まって永眠するところだったんだぞ……。


「でも、大地にだって得してる部分はあるだろ? 好きだって言われてるわけだし」

「そりゃあいつは料理上手いし、基本的には聞き上手だし、家事だって基本的には隙がない。が、それを全て台無しにしてるのがあいつが変態だってことだ」

「にわかには信じられないけどね、あの子がそんなやばい子だってことは」


 そりゃ俺だって人から言われただけなら信じない。信じないだけじゃなくやばい奴だって思う。でも、今俺が経験してることは現実だ。驚き過ぎて心臓痛いし。残念なことに痛みがあるから夢じゃない。


「そろそろ俺のクローゼットの俺の下着が入ってる段に鍵かけようかと思ってる。よく2~3枚ほど姿を消すんだよ」

「それは下着代もバカにならなそうだね」

「盗まれて結局は時間が経ったら返ってくるんだが、盗まれる度にあいつの下着が代わりに入ってるんだぞ? どうしろってんだよ……」


 自分の下着があいつの手に渡ってる間一体何をされてるのか考えるだけでもゾっと出来るってのに、何で律義に自分のやつを置いていくんだよ……!


「斬新な物々交換だね……」

「ついでにたまに生温かいのがあるからな? もうお前引き取ってくれよ、イケメン」


 翔也はルックスも性格もいいからかなりモテる。小学校からこいつがバレンタインのチョコに困ってなかったのを傍で見ていた俺はよく知ってるからな。

 俺より僅かに高い身長に切れ長の目、常に微笑みを浮かべているような柔和な顔付き……見てたらムカつく要素しかない。


「――大地だって知ってるだろ? 僕にそれは無理だって」


 遠い目をして窓の外を見る翔也。その仕草でも絵になってしまうのが腹立たしい。

 こいつはモテるが、彼女がいたことはない。その理由も俺はよーく知っている。

 別に恋愛にトラウマがあるわけじゃないけど、こいつの恋が成就することは恐らくない。というかあってはならない。


「はいはい。12歳以上は恋愛対象として見れない、だろ? このイケメンロリコン野郎」

「最高の誉め言葉だね。というわけで、奏多さんがいくら可愛くても僕の琴線に引っかかることはないというわけさ」

「俺は自分の貞操よりもお前の将来の方が心配になることがあるぞ……」


 高塚翔也、16歳。好きな女性のタイプは12歳以下の子。

 こいつがモテるにも関わらず、未だに彼女が出来た事がないのはロリコンという性癖を抱えてるから。残念なイケメンとはこのことだ。


 翔也が遠い目をして窓の外を見たのは意味深な理由なんてなく、ただ単にここから見える小学校に思いを馳せてるだけに違いない。というか100%そうだ。

 そんなロリコンイケメン野郎こと、翔也の将来の夢は小学校の教師か保育士らしい。いかんでしょ。


「……俺の周りの奴ってなんでこうも歪んでる奴ばかりなんだ?」

「類友ってやつじゃないか? 少なくとも、普通じゃない僕や奏多さんと文句を言いつつ根気強く付き合ってる大地は普通とは言えないと思うよ」

「全然嬉しくねえ……」


 げんなりしながらため息を吐いた。


「せんぱーい! お昼ですよー!」

「……助けてくれ、奴がきた」

「幸運を祈ってるよ。僕はもうちょっとここで桃源郷を眺めておくから」

「昼休みで女児が走り回ってる小学校のグラウンドのことを桃源郷とか言う奴初めて見たぞ……行ってくる」


 もうダメだ、こいつ。


「せんぱい、ろりこん先輩と一体何を話していたんですか? はっ! まさかわたしとのらぶらぶ同棲生活のことですか!?」

「変態と生活すると大変だってことだよ……ってか毎回教室まで迎えに来るのやめろよ」

「だって行かないとせんぱい来てくれないじゃないですかあ」

「行くのめんどいし、お前と飯食う理由もないだろ」

「イクのが面倒だなんてせんぱいは我慢強いんですね……」

「お前と話してると日本語で会話してる気がしねえよ」


 言語が同じでも意思の疎通ってままならないものなんだなあ。

 

「ところでせんぱい……」

「お前、黙ってれば俺の好みだぞ」


 そう言うと、奏多は口をチャックの仕草をして、沈黙した。これで変態の鎮圧は完了だな。大分扱いが分かってきたような気がする。

 一緒に暮らし始めてまだ2週間ちょっとだってのになあ。こいつの口から飛び出るのは大体下ネタだし、恥ずかしいことにこいつはどうにも俺の好みに合わせようとする節がある。

 

 まあ本当に黙ってれば好みなんだけどなあ……。


「むーっ! むーっ!」

「飯食う時ぐらい口開けろよ。どうやって食うつもりだ」

「ぷはあっ! せんぱいせんぱい! 今の口開けろのところだけ録音させてもらってもよろしいでしょうか!?」

「よろしくねえよ! いいからとっとと食え!」


 この美味い弁当もこいつが作ったんだよなあ……どこで道を踏み外したんだよ。

 神様、こいつのステータスを容姿と技能に振り過ぎて性格に振れるほどポイント残らなかったのか? 是非振り直しを要求したい。


「はあ……そういやさっきお前何を言おうとしたんだ?」

「さっき? ああ! わたしがせんぱいに黙ってれば好みって言われて興奮した時の話ですか!」

「要らん情報を付け加えてリターンしてくんな!」


 あのまま黙らしておけばよかった! 


「実はですね……わたしぃ、いまぁ……履いてないんですよぉ?」

「なんでだよ!? というかそういう重要な情報はもっと早く言え!」

「せんぱいがわたしを無理矢理黙らせたんじゃないですかぁ。あ、無理矢理黙らすって単語で今ちょっとゾクッとしました」

「だから要らん情報を付け加えるな! ってそんなことはどうでもいい! 問題は何でお前が履いてないかってことだ! ……一応聞いておくが、靴下を履いてないとかってオチは?」

「パンツです!」

「クソがっ!」


 というか見れば靴下を履いてることはすぐ分かるっつーの! バカか俺は!

 あとそんなハキハキと答えるようなことじゃねえよ! 一瞬清々し過ぎて許しそうになっちまったじゃねえか!


「まさかお前……今日1日それで過ごしてたのか!?」

「はいっ! 家から今に至るまで常に解放されてます! せんぱいがいつ求めてきてもいいように!」

「俺がお前に求めるとしたら今すぐ下着と恥じらいと常識を身に付けることだけだよ!」


 こいつにとってリスクは快感でしかないのか!? どういうメンタルしてやがる!


「とにかく今すぐ下着を買ってこい!」

「残念なことに購買にそんなものは売ってないですよ? もし売ってたら今頃購買は性欲に塗れた男子生徒の巣窟になってると思いますし」

「まるで男子生徒が性欲でしか動けないみたいな言い方はやめろ! じゃあ体育用の短パンでも履いてろ!」

「今日体育無いので持ってきてませんよ? いやー困りましたねえ」

「さてはお前確信犯だな!?」


 あーもうっ! 仕方ないか! こいつをそのままにして放置するよりもマシだろ!


「じゃあ俺の短パン貸してやるから! あとでもう1度俺の教室に来てもらうぞ?」

「えっ!? いいんですか!? 家宝にして神棚に飾りますね!」

「履けぇ!!!!」


 渾身のシャウトが学校内にこだまして、虚しく反響して消えていった。

 無駄に疲れた昼休みだった……休みって付いてるのに休めないのは詐欺だろマジで……。

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