第7話 再会


 手紙を見つけたあの日以来、なんでコートに入っていた手紙を見逃してしまったのかずっと考えていた。確かに私はコートの胸ポケットを使わないが、でも彩芽さんはなんでわざわざコートのポケットに入れたのか。それを考えるとなんだか彩芽さんのせいでこの半年間無駄な時間を過ごしてしまった気がして、少し腹が立った。私は再びあの日と同じ駅から、夜行列車に乗り今度は仙城で降りる事なくそのまま北へ向かい、海峡トンネルを通り室谷へ向かった。

 10時24分定刻通りに室谷に着いた。列車を出ると8月だというのに全然暑くなく太陽の日差しが心地いい。この地域だけまだ春なんじゃないかと思えるほどだった。室谷の駅は思った以上に小さく、まさに無人駅行った場所だったが。駅より少し行ったところには列車の車両基地がある様で、無数の編成が見えた。駅を出ると閑散とした中心街があるがどこの店も看板に灯りが灯っておらず、喫茶店を窓から覗くと、店員と客が話に熱中しており、地元の人以外は入りにくい雰囲気があった。 よく考えてみると彩芽さんの手紙には何処で会うのかってことは全く書いていなかった。彩芽さんって少しドジっ子なのか。一度駅に戻り、半年前にも見た観光用の地図を見てどこかトレードマークになる様なところがないかと探すと。最北の岬という場所があり、その近くにも小さな浮島があった。前に来た時は、眺めを楽しむなんて事は全くできなかった場所だった。

 浮島行きのロープーウェイは仙城の半分程度しかないゴンドラだった。徐々に近づく浮島は仙城のものとは比較にならないほど小さく、小さな裏山がそのまま浮島になった様な感じだった。浮島の地図を見ると建造物は殆どなく散策道が何ルートもあり、全てがロープーウェイ乗り場と反対側にある展望台につながっていた。一番楽な遊歩道を進むと森の中に入ってゆき頭上には木のトンネルが続いていた。歩いて10分ほどでトンネルを抜け、眩しい光を全身で浴びると、視界には地平線まで広大に広がる海が見えた。展望台は広場みたいになっていて誰もいなかった。もしかしてここじゃなかったかなと思いながら、手すりに寄りかかり雄大な海を眺めた。前に来たときよりも少し余裕があった。それは彼女が僕のことを好きだったという安心感からだった。ここにくるまでにやはり、彼女が来なかったらどうしようとは考えたが、その時はそれでいよかったと考えようと思う。何故なら半年前の2日間は私達は間違いなく私たちは愛し合っていたから。

 暫くベンチで本を読みながら待っていると、前日にあまり眠れなかったためか、いつのまにかウトウトしてしまった。

 久しぶりに懐かしい夢を見た、心地よい光の中で誰かが私の頭を撫でている。撫でられると心地よく、何だかこの手の触感はどこかで覚えがある。光の中の人は何かを言ってるみたいだが、よく聞こえない、何かを話したいが声が出せない。近づくために何度も何度も体を動かそうとするが全く動かない。次第に光が陰り始め、私は何かを叫ぼうとする。

「彩芽さん。‼︎」

その瞬間目をさまし、目の前には彩芽さんの顔があった。

「彩芽さん。」

「お久しぶりです。」と少し申し訳なさそうにいう。

 白いワンピースに白い日傘。半年前とは違い洋風の装いにどこか新鮮味を感じる。どうやら眠っている私に日傘を差してくれたらしい。

 私は立ち上がると彩芽さんの正面に立って言った。

「手紙はテーブルに置いといてください。最近まで全く気づかなかったです。」

「ごめんなさい、ちょっと恥ずかしかったから。」少し目を逸らし恥じらいながら言った。

「会いたかったです、ずっと。」と言って私は彩芽さんを抱きしめた。びっくりした様だが彼女も私の体に手を回した。

 終わり

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相席夜行 雁鉄岩夫 @gantetsuiwao

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