第3話 彼女の匂い
日が落ち始めたが、なおも夜行列車がゆっくりと北に向かって走っていた。僕はあれからずっと本を読んでいて、彩芽さんは本を読んでいたが時々窓の外の景色を眺めていた。列車は3時ごろからずっと海岸線沿いを走っていて、冬の荒々しい海がずっと続いていた。西京の一件以来彩芽さんはずっと気遣ってくれていて、怪我は少し痛むが怪我をした甲斐があったと言うものだ。しかしせっかくの旅を彩芽さんと楽しめないのは、少し嫌だったので、食事に誘うことにした。
7時を回っても彩芽さんはずっと本を読んでいた。
「彩芽さん、もう暗くなってきたし、食堂でも行きませんか?」と言うと少しビクッとしてこっちを見、小さな腕時計をチラッと見た。
「もうこんな時間なんですね、全然気付かなかった。」
「どうですか?ここの食堂結構美味しいらしいですよ。」
「そうね少しお腹も減ったし、行きましょうか。」
と2人で客室を出て、食堂車に向かった。食堂車は洋風で落ち着いて暗めの照明に、木材彫刻で装飾された梁やカウンターはピカピカに磨かれていた。テーブルはガラスの仕切りで分かれていて、ガラスはすりガラスでアールデコ調の模様が描かれていた。テーブルにはテーブルクロスが弾いてあり、布のナフキンが三角形に立てられてお皿の上に置いてあった。ウェイターは皆白シャツに黒のベストで蝶ネクタイをしていて、彩芽さんは着物で浮かないが、私は一応ジャケットを着ているがこんなにフォーマルなレストランはあまり入ったことがないため、少し萎縮してしまった。
ウェートレスに案内され窓側の2人用の席に案内された。テーブルの上には小さなアールデコ調のかさ傘が、百合の花の形をしたランプが置いてあり、電球色の淡い光は 彩芽さんの顔に映ると、儚げでとても美しく見えた。
席に座るとウェイターがメニューを持ってきてくれた。メニューには魚と肉のコースがあり、それ以外にもアラカルトがいくつかあってお酒の種類は結構多めだった。ここはバーとしても営業している様で奥の方にあるカウンターには、バーテンダーやお客が何人かいた。
「彩芽さんどうします?」と聞くと。
「お魚のコースにしようかな。あなたは?」
「どっちも美味しそうだからな、でも彩芽さんが魚なら肉にしよっかな。」
「なら少し分け合いっこしましょ。私も少しお肉食べてみたいわ。」
「じゃあは飲み物どうします、僕は少しお酒を飲もうと思うけど。」
「お酒は嫌いじゃないのだけど、あまり強くないから少しだけ頂こうかしら。白ワインを。」
注文が決まり、テーブルのベルを鳴らして、ウェイターに注文をした。グラスワインが運ばれてきた。私達は赤ワインと白ワインをチリンと乾杯して少し飲んだ。
サラダや前菜を食べながらいろいろ話をしメインディッシュが運ばれてきた頃には2人ともワインがなくなっていたので2人とも二杯目を頼んだ。
「そういえば、彩芽さんって目的地を決めてないって、言ってましたよね。」
「うん、そうよ。」
「明日、仙城で降りてみませんか、そのあとのチケットは私が払いますから。」
「仙城?」
「国内最大級の浮島が有るらしいんですよ。浮島って、僕見たことなくって行ってみたかったんですよ。」と言うと一瞬間が開いたあと。
「いいですよ。」お酒が回ってきた様で、きれいな白い頬が少し赤みを帯びていて「やったー決まり。」と喜ぶと。
「ふっふっふ。」と彼女は笑っていた。
食堂では思いのほか会話が弾んで、好きな作家が似ていたり映画が好きだったりと少しづつ彼女の事を知っていった。食堂から出ると彩芽さんの足取りは少しおぼつかなくなっていて部屋に戻り席に座ってペットボトルのお水をゴクリとのみ、「こんなに楽しくご飯を食べたの久しぶりだな。」と独り言の様に言った。腕時計をみると9時14分だった。
「一輝さん、私シャワーを浴びてくるわね。」
「あ、そうですか、じゃあソファーをベットにしときましょうか?」
「えっ、でも悪いわよ。」
「いいですよそのくらい。明日は僕の頼みを聞いてもらうんだし。」
「そお?じゃあお願いしちゃおうかしら。」と言ってバッグからポーチみたいなものを出し客室に準備をしてあったタオルを持って、別の車両にあるシャワー室へ向かっていった。心なしか、彩芽さんが酔っ払ってフランクになってる様に感じた。
室内に貼ってああるステッカーの指示に従ってソファーを動かしていると、ほのかに彩芽さんと同じ香りがした。彼女の座っていた場所を少し眺め、顔を近づけ彼女の座ってた場所の匂い嗅ぐとても悪いことをしてる気分だが、すこし興奮した。
自分のベッドも作り終えて、自分だけがいる部屋に静かに待っている。裸でほっそりとした彩芽さんのきれいな肌にシャワーから出たお湯が当たる場面を想像してしまう。女性と同じ部屋に2人で眠る。何もないのはわかっているが考えてしまう。彩芽さんが早く帰ってこないかと待ち遠しい時間がゆっくり流れた。20分程で彩芽さんが帰ってくると少し恥ずかしそうな顔で畳んだ着物を手に持ち白い襦袢だけを着た彼女が小さな部屋に入った瞬間石鹸の香りが部屋にほのかに満ちて、彼女は少し湿っぽく艶やかだった。
彼女はベッドを見ると。「あ、一輝さんベッドありがとうね。お湯、すごくあったかくて手足の先っぽがポカポカだわ、一輝さんも早く入ってくるといいわよ。」と屈託なく言いながらベッドに上がりベッド周りにあるカーテンを閉めた。やっぱり酔ってるんだなと思いながら「あ、分かりました」と答え彼女の匂いを感じた。静かな部屋の中でカーテンの中から紐を解くシュッと言う音がきこえ襦袢がベッドにバサと落ちる音が聞こえた。後ろ髪を引かれたが、彼女に勧められたので着替えとタオルを持ってシャワー室に向かった。彼女が使ったシャワー室でシャワーを浴びるのだと考え、背徳感を感じつつも少し楽しみで足早に向かいシャワー室についてみると部屋が男女で分かれていて、男性用はまだ使用中だった。
「ですよね。」と独り言をいいながら妄想が崩れてる最中男性用のシャワー室のロックがガシャと開き、中から身長190センチはありそうな太ったおじさんが出てきた。サンタの様なモジャモジャの髭が生えたおじさんは、こちらを見るなり少しニコッとして何処かへ行ってしまい彼の体からは彩芽さんと同じ石鹸の匂いがし、何となく落ち込んだ。
シャワーを浴びて部屋に帰ってくると、ベッドに白いネグリジェを着た彩芽さんが座りながら眠っていた。なんて可愛くて神々しいんだと一通り目に焼き付けるように感動したあと、彩芽さんの方を揺すりながら、「彩芽さん、彩芽さん、風邪ひきますよ。」と彼女を起こす。
彼女は眠そうに、「先に眠りますね。」言って横になって布団も掛けずに眠ってしまった。彼女の寝顔はとても綺麗でずっと観ていたかったが外れそうな理性を働かせて布団を掛けてカーテンを閉めた。
私はそのあと本を読んで12時過ぎに眠りについた。同じ部屋に彼女がいると思うと何故か安心して眠ることができ珍しくぐっすり眠った。
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