第2話 焼売弁当


 線路は次第に高架になっていき、車窓のさきには瓦屋根が無数に広がっていて、その奥には高層ビル群がちょこんとあった。列車は緩やかに斜めになりながらカーブして、そのビル群に向かっていった。

 いくつかの小さい駅に停まった後、昼前あたりから、周りの景色が都会のビルの間を縫うような線路を走るようになって来て、昼過ぎに、この国一の大都市の西京駅に着いた。

しばらく無言が続いた客室の静けさを破ったのは彩芽さんだった。

「駅弁なんて食べたく無い?」

「えっ、駅弁ですか?」呼んでいた本から目を移し彩芽さんの方を見た。

「この列車って、食堂車とか売店はあるけど駅弁って売ってないのよ。」

「はぁ〜。」

「一緒に駅に降りて買いに行きましょ。」

「時間大丈夫ですかね?」

「この駅だと、10分ほど停まってるんですって。車掌さんが言ってたわよ。」

「じゃあボクが走って買ってきますよ。」

「そんなの悪いわ。私も着いていく。」

「でも、着物じゃ走れないし。」

「確かに…。」と少し残念そうな顔をしてから、再び顔を上げると。

「それじゃあお願いするわ、できれば特製焼売弁当をお願い。」と言われた後私達は乗降口まで向かう。

「行ってきます。」と彼女に真剣な顔で言うと。

「待っています。」と戦争にでも送り出されるかの様に、大袈裟に手を振って見送られた。

 この駅は島式ホームで、一つのホーム両端付近に二つキオスクがあった。一番近くのキオスクに行ってみるが、このホームが長距離特別列車のホームであるためか、目当ての駅弁の人気があるためか売り切れていた。あまり期待しないで反対側のホームに向かうがやはりそこも売りきれだった。その時点で出発までの時間は5分を切る頃で、私は焦り始めていた。足早に高架の連絡通路に向かうが、そこにあるキオスクにも無く、別のホームのに降りてやっと最後二つだけ残っていた特製焼売弁当を買うことができた。その時点で発車まで2分を切っていた。急いで走り元のホームまで向かうが、多勢の乗降客に邪魔をされて、思うように前へ進めない。乗客を避けながらなんとか、連絡橋に登り走って階段まで行き、3段飛ばしでよろよろと降りてゆくと、発車合図のベルがジリジリジリと鳴った。

 階段を降りるときに彩芽さんがチラッと見えた、その瞬間足を踏み外して、体が宙に浮き、空中で一回転した後、地面に落ちた。目の前には列車の乗降扉があったが無慈悲にもバタンと締まってしまった。一瞬扉を見つめると、何故か再び扉が開く、地面から起き上がり急いで車内に入るいと直ぐに扉が閉まった。

小さい声で「セーフ」と心から呟いた。

 急いで彩芽さんと分かれた扉の方へ行くと、彩芽さんが壁に寄りかかっていた。

「彩芽さん?」と声をかけ、こちらを向いた彼女は心配する様に眉間にシワがよった顔をしていた    

「どうしたんですか、おでこ?」と言われて、おでこの左側を触ると、手に血がついていた。

「ああ、階段降りるときにちょっと転んじゃって。」と言うとい彼女は、帯の間から両手で白いハンカチを取り出し額に当てようとした。

「ハンカチ汚れますから。」と手で止めようとするが。

「ハンカチは汚すためのものです。」と手を振り払って、額にハンカチを当てた。

「ごめんなさい私が、お弁当を食べたいだなんて言ったから。」

「そんなっ、気にしないでくださいよ。僕も食べたかったし。」と話した後、ハンカチを受け取って客室に戻った。

 彩芽さんは自分のバッグから、小さなペットボトルの飲みかけの水をハンカチに垂らし、傷口をポンポンと軽く叩き血が出てないか確認した後、バックから出した絆創膏を貼ってくれた。

「すいません、ありがとうございます。」

「やめて、謝るのはこっちの方なんだから。私がお弁当が欲しいなんて言わなければ転ばなくて済んだんだし。擦り傷だからあとは残らないと思うけど。」

「でも、僕もお弁当欲しかったし。あんまり気にしないでください。」

「ごめんなさい。」

彩芽さんの手当てが終わり、やっと落ち着いたあと。お弁当を。出した。箱はどうもなってなかったが、中身を開けてみると。中身が少しずつ端によっていた、ただそれほど崩れていなかった。

「彩芽さん、あんまりくずれてないですよ。」と言うが彩芽さんは少し落ち込んでる様で。

「そうね。」とだ答えてゆっくり食べていた。

 昼食の後、彩芽さんは気まずいのか、ほとんど話をしなかったが、時々「痛くない。」と、ずっと気遣ってくれていた。

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