彼の友人たちと放課後
学校に着いて桜と別れた後、自分の教室に向かう。
クラス自体は昨日の始業式で発表されたが、しっかり顔を合わせるのは今日が初だ。
昨日見た限りでは仲のいいやつもいたし、楽しくやっていけそうだった。
自分の席を確認し、そこへ向かうと、何故かすでに人が座っていた。
「……柊。そこ俺の席なんだけど?」
座っていたのは
「お、春樹やっと来たか。来て早々悪いんだけどさ、俺この席がいい!」
柊はとてもいい笑顔で悪びれもなくそう言った。
「……なんで?」
なんとなく分かっているが一応聞いてみる。
「なんでって、見れば分かるだろ? ほら、お前の前の席」
柊はそう言って前の席を指さした。
俺の前の席は
つまりは、ずっと彼女といたいってことだろう。相変わらず仲がよろしいようで。
「絶対! 嫌だね! お前ら前後なんかにしたらずっとイチャつくだろ」
もちろん俺の答えは断固拒否である。まあ了承したところで勝手に席替えなんてできないんだけど。
「んなことないって。ぼくマジメ。授業ちゃんと受ける」
柊はブーブー文句を言っているが、俺はそれを右から左へ聞き流す。
と、そこで教室のドアが開いた。話をすれば雪音が来たらしい。
「柊おはよー。あ、春樹も」
雪音は黒いポニーテールを揺らしながら近づいてくる。
そして、自分の席の後ろに柊が座っているのを確認するなり、笑顔になる。
「え! 私の席の後ろって柊? やった!」
そう言って嬉しそうに笑っている。
でも残念。お前の後ろは俺だ。
「ちげーよ。柊が俺の席乗っ取ってるだけ」
俺がそういうと、雪音は分かりやすく口を尖らせながら座る。
「えー、春樹かー。……ま、いっか。弄りがいあるし」
こいつらせっかく二人とも美形なのにどうしてこんななんだ。
俺文句ばっかり言われてる気がする。てか、ここ俺の席なのに俺だけ立ってるのおかしくね?
「はいはい、すみませんねー。俺もどうせなら俺に優しい女子が良かったですー」
言われてばかりも癪なので、文句を言い返す。
すると雪音は心底不思議といった表情で言ってくる。
「私はいっつも優しいでしょ? 何言ってるの?」
マジかこいつ。あんなに人をバカにするのが好きなくせに。
──ガラガラッ
そんな風に言い合っていると先生が入ってきた。
もうHR《ホームルーム》か。早いな。
すると、柊が雪音に腕を伸ばしながら手足をばたつかせる。
「えー、まだ雪音と離れたくないー」
わあ! 大きなクソガキがいる! 森へ帰れ!
ここ最近で一番ムカついた。なんでだろう。最近バカップルを見ると異様にムカつく。
180ある柊の身長でそれをやってるのもあるかもしれないが。
そんな柊を雪音がなだめる。
「はいはい、また後で話そ。今年は同じクラスだし、いっぱい話せるって」
雪音がそう言うと、柊は渋々自分の席へ戻った。
柊がいなくなって、俺もやっと自分の席に座れる。
俺が座ると雪音が振り返ってきた。そしてニヤつきながら口を開く。
「私と同じクラスになれて嬉しいかね? 春樹くん?」
最初に言うことがそれか? よろしく、とかでなく。
この自信満々なとこイラッとすんな。ま、でも雪音のそんなところは嫌いじゃないけど。
「はいはい、嬉しいですよー。てか、HR《ホームルーム》始まるから前向けよ」
話を続けるとからかわれそうなので、話題を逸らす。
俺の言葉を聞いて、雪音は、満足したといった表情で前を向いた。
***
HR《ホームルーム》では簡単な自己紹介、その後の授業も初日ということでオリエンテーションで終わった。
ただ今の時刻は四時。
俺は教室に残って柊と雪音の二人とだべっていた。
今日は桜と一緒に帰る約束をしていたが、何やら用があるらしいので俺は教室で待つことにした。
ふと、思い出したように雪音が言う。
「そいえばさー」
雪音がにやにやとこちらを向く。
「今日さ、春樹誰と一緒に来てたの? なんか女の子と来てたよね?」
……どうやら、一番見れたくない相手に見られていたらしい。
雪音に見られるとからかわれると思ったんだよ……。
「彼女ですか? 彼女なんですか? 遂に春樹くんにも春が来たんですか?」
女子のこの恋愛脳はどうにかならないものか。
桜は彼女ではないので、俺はしっかり否定する。
「ちーがーう! ただの幼馴染だよ。別に彼女じゃない」
……言ってて悲しくなってきた。何言わせんだよ……。
それを聞いて、雪音は驚いたような表情で言う。
「へー! 春樹、幼馴染なんていたんだ! 知らなかったなー!」
かと思うと、すぐさま元の表情に戻る。
「でもー、その子と随分と仲良さげでしたよねー? ほんとに彼女じゃないのかな?」
雪音は追求をやめない。……正直本当にやめてほしい。悲しい。
柊に助けを求めようと、横目で見ると、柊はただただ雪音を見つめていた。
話は一切聞いていない様子だ。
期待はしてなかったし、そんなことしてるだろうとも思ってたけどやっぱりウザい。
どうしたものかと困り果てていると、ドアの方から声がした。
「ハル兄!」
桜だ。ナイスタイミング! 解放される!
俺は桜が来たことに安堵し、立ち上がる。
「じゃ、俺帰るわ」
俺がそう言うと、雪音は更にニヤつき手を振る。
「仲良く帰ってね~」
柊もやっとこっちを向いて言う。
「また明日なー」
ああ、もうこれ絶対勘違いされたままだ。明日誤解を解かないと。
桜を待たせるのも悪いし、今日はもう帰るけど。
俺は教室を出て桜に声をかける。
「お待たせー。帰るか」
桜は何故かこっちを見ない。
「……うん、帰ろっか」
なんだか桜の声が暗い気がする。
何かあったのだろうか。
「元気ないけどどうかしたか?」
そう俺が聞くと、桜はパッと笑顔を向け明るく言う。
「んーん! 何でもないよ! ほら、行こ!」
そして、先に行ってしまう。
やっぱり何かありそうだが、本人は触れて欲しくなさそうだ。なら、触れない方がいいだろう。
俺は黙って桜の後をついていく。
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