第5話


 レスターが率いる30人の近衛隊と共にトランスヴァール皇国へ向かっていた。


 隊長であるレスターを先頭に、その後ろにアルフィンが、隊の真ん中に俺が乗る馬車がいる陣形になっている。怪しまれている俺を監視、もしくは逃がさない様にと配置しているんだろう。


 アルフィンは俺が怪しいものではないと言ってはくれたが、上級魔物を一人で倒した俺はこの世界の常識外なんだろう。


 その辺はしょうがない城に行けば疑いが、はれるというし。

 それまでは我慢だな。

 城へと向かう道中意識の中で、ユーリに声をかけているが一向に反応がない。魂だけの存在でさっきあれだけの力を消費したのだ消耗も早いのだろう。



 トランスヴァールまでは、馬車で40分程の距離とアルフィンとレスターが話していたからそれまでは今後の行動をどうするかも含め考えとくか。



  さっきのアルフィンの話では、邪神ハーディーンの下に幹部が四人いて、それぞれが上級魔物、その上の特級魔物を従える事が出来る。幹部連中もこの事からかなりヤバイ存在だと分かるな。



  対して、現状こちらの戦力は俺とアルフィンだけ……。


 俺はまだまだ魔法の事を知らない。先程の戦闘でコツは掴んだ感触はあるが、それでいきなり邪神を倒せるとは流石に思っていない。アルフィンも治癒魔法やサポート系の魔法は使えるが、攻撃系の魔法は使えないと言っていた。



 俺が好きだったRPGでは大体パーティーは、前衛二人、後衛二人は基本だった。

 俺は前世ではケンカは強かったし、この世界でも通用するのは確認できたが、近接戦闘も同時に鍛えていく必要がありそうだ。


 魔法を極めて、砲台としてもいいがユーリ曰く、身体能力も高ければ、魔法剣士がいいらしいからその方向に今後鍛えていこう。


 俺がいる位置からはアルフィンとレスターとの距離はそんなに離れていない。今のうちに二人のステータスも見ておくか。


 先にアルフィンを。



 アルフィン・ライゼ・トランスヴァール


 トランスヴァール皇国王女


 レベル12


 スキル 治癒魔法、サポート魔法




 次にレスターを。



 レスター・クールデイズ


 トランスヴァール皇国近衛隊長


 レベル30


 スキル 剣術、戦術、中級魔法



 なるほど。アルフィンが思っていたより意外とレベルが高いのは、王女として訓練もしてたのかもしれない。


 レスターは役職が近衛隊長だから、多分強い方なんだろう。

 この世界の一般レベルを知らないから何とも言えないが。



  次にこれからの目的としてはまず、この世界の事を詳しく知りたい。

 アルフィンがある程度の状況は教えてくれたが、世界地図も欲しいな。それを参考にある程度のルートを作って、次に仲間を集めつつ、俺自身の強化だな。


 実践経験も当然ながら足りていない。

 魔物を狩り、レベル上げもするが、実践経験もしていかないとダメだろう。

 先ずは、城に行って、疑いをはらすのが最優先だな。世界を旅するにはこのままではやりずらい。



  ある程度当面の目的が定まった所で、大きな坂を登った所からは広大な街並みが見えてきた。


 あれがトランスヴァール皇国かな。まず城門が見え、その奥には城下町、最奥には王宮が見えた。


 街全体を囲う結界は、三層にもなり、街の大きさはかなり広い。よくドーム何個分とか広さを表現するのに使うが正に60個程だろうか。王宮も金色に輝き、よくゲームとかで出てくる、街や城の姿が目の前にはあった。



  そして、王宮から距離は少し離れているが、ざっと目算で500メートルはありそうな巨大な樹木が見えた。


 一目見ただけで、あれが普通の樹木ではないと分かる。

 ……あれが聖樹ユグドラシルか。この距離からもはっきりと分かる目映い光を放ち、圧倒的な存在感を感じる。


 あれが破壊されると、元いた世界が、俺の家族、友人が……。

 何が何でも護らないとな。

 改めて自分が異世界に来た実感と、ユグドラシルを護り抜くと決意した。



  入り口の門には10人程の門番がいた。

 門から少し離れた所で、隊の先頭にいたレスターが馬を停め降りた所で門番の3人がこちらに駆けてくる。

 門番の一人がアルフィンとレスター達の姿を見て、安否を確認をする。



「アルフィン王女!レスター隊長おかえりなさい。ご無事でしたか!」



「お迎えありがとうございます。わたくしは無事です。道中レスター隊とも合流できましたので。それよりもお父様と魔法大臣はいらっしゃいますか?」



「はい。陛下は今は王宮で職務をされております。魔法大臣も今日は城にて魔法の講義をされております」



「そうでしたか。至急お伝えしなければならない事があります。お父様と魔法大臣に伝えてもらってもいいですか?わたくしもすぐに謁見の間へ向かいますので」



「ハッ!!かしこまりました!」



 門番はアルフィンに一礼すると駆け足で駆けていった。


 アルフィンと門番達のやり取りを見ていた俺の所に、アルフィンとレスターが来る。レスターは少し後ろで控え、警戒の目線を向けていた。



「タクトさん。お待たせしてすいません。これからお父様と魔法大臣にお会いしていただきたいと思います。


 その場で改めて今回の状況報告と魔法の鏡を使用し、タクトさんの疑いをはらしたいと思います。道中窮屈な思いをさせてしまい申し訳ありません。レスターたらタクトさんが怪しい人ではないと何度説明しても信じてくれなくて……」



 アルフィンが唇を尖らし、むくれた様に言う。

 うん。可愛い。めっちゃ可愛い。

 ……じゃなくて。道中俺が考え事している間も何度か説明してくれたんだろうけど、状況が状況なだけに仕方ないよ。

 レスターだってアルフィンを護りたいからだろうし。


「まぁ……仕方ないよ状況的にはさ。俺は気にしていないから大丈夫」



「ですが……」



「ほらほら早くいかないと王様が待ちくたびれちゃうぞ?庇ってくれてありがとな」


 まだ少しむくれていたが、俺の言葉を聞いて機嫌を直してくれた。



「そうですね。それでは向かいましょう」



 アルフィンとレスターを先頭に俺は少し後ろを歩きながら門を抜けて、城下町に入る。


 街は真ん中に広い石畳で出来た道が王宮まで続き、その脇を民家、商店が立ち並ぶ形になっている。

 水が透き通っている川も流れていて、橋はこれまたセンスのいい造りになっていた。一つ一つの素材もきっと良いものを使っているんだろうな。

 雰囲気的にはヨーロッパ、イタリアに近い感じかな。



「城下町はどうですか?わたくしはこの街並みの雰囲気が好きで、子供の頃から何度も何度も王宮を抜け出して遊びに来ていました。その度にお父様やルフト宰相に怒られましたが」



 アルフィンが子供の頃の話をしてくれた。見た目によらずお転婆姫だったのかもな。嬉しそうに街の事を話している顔を見ると、本当にこの街が好きなのだと分かる。


 街中を歩いていると、アルフィンの姿を見た、国民達はお帰りなさいとか、無事で良かったと安堵の声を漏らしていた。


 アルフィンも声を駆けてきた人々や、目に入った人達に手を降って応えている。それだけのやり取りでアルフィンは国民達に好かれていると分かる。


 きっと信号弾が此方まで届いていたはずだから心配したんだろうな。



  城へと行く前に、墓所に向かう。

 クルーゼ達を弔うことになった。

 墓所の役人達が、棺桶に亡骸を入れて、土に埋めていくのを全員で手を合わせ、冥福を祈った。

 隣のアルフィンやレスターからは哀しみと寂しさを感じた。

 真剣にクルーゼ達の事を祈っていた。

 戦いが長引けば、邪神軍を倒さないと、こうしてたくさんの人達が死んでいく。

 俺には邪神を倒す使命がある。

 一日も早く、世界を平和にするために。



  やがて、城門前に着いた。

 城門の作りはかなり頑丈な作りで、材質も前世では見たことがない物で出来ていた。


 この世界のオリジナルの鉱石で作られてるかもな。あと、特徴的なのが門の中心に複雑な形の紋章が刻まれている。


 レスターが城門に近づくと、こちらに敬礼をした後、門番が左手に魔力を集めるのが分かった。そのまま左手を門にかざすと、「ガゴゴゴ」と音が鳴り、門が開いていく。



 おおー流石、魔法がある異世界は違うな。

 レスター達の姿が見えて直ぐ行動してくれたのを見ると、先程の先行していた街の門番が伝えてくれていたのだろう。



「開門しました。どうぞ」



「ああ。ご苦労」



 そのまま門をくぐり、城へと入った。

 街の外の丘からも見えていたが、やっぱり城もかなりの大きさだな。

 中もきらびやかな金色を主体とした色で、床もレッドカーペットになっている。

 城内には、沢山のメイド達がカーペットの袖に立ち、侍従長(現代で言えば宮内庁長官)が真ん中で到着を待っていてくれたようだ。



「姫様どうぞお帰りなさいませ。」



 声をかけてきた、侍従長は40代ぐらいの中年の男性だ。



「マードックお迎えありがとうございます。御父様達はどうですか?」



 名前はマードックさんか。



「はい。既に陛下と魔法大臣、ルフト宰相方は謁見の間へ集まっておられます」



「そうですか。それではこのまま謁見の間へ向かいましょう」



 そのままアルフィンを先頭に謁見の間へ向かう。


 向かう通路は、床は大理石で、所々に色とりどりの花が入った花瓶や、おそらく一つ一つが高級な坪、見たことない生物が描かれた絵画が飾られている。掃除も行き渡り、とても綺麗だ。

 謁見の間へ到着すると、扉の外からアルフィンが声をかける。



「御父様。アルフィンです。ただいま帰還致しました」



「うむ。入れ」



 中から声が聞こえる。あの声が国王様かな。


 やっぱりと言うか、扉には紋章が浮かんでいる。アルフィンが左手に魔力を集め、手をかざすと扉が開いた。



「さっそれでは中へ入りましょう」




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