第4話


「ふぅっ」



 初めての高レベル魔物との戦闘を何とか終えられて一息吐く。



 女神より異世界転生して邪神を倒さなくては、元居た世界、前世の家族、友人が危機にみまわれると聞いてアルフィン王女と邪神を倒すことを了承した。



 アルフィン王女の治癒魔法と、何の因果かここトランスヴァール皇国初代国王だったユーリの魂が、魔法の使い方を教えてくれてカイザーベアを倒せたが危うく死にかけるところだった

 これからはあれぐらいの魔物を難なく倒せるぐらいに魔法の修行頑張らないとな。




「あ、あの……」



【おい。姫さんがさっきから読んでるぞ】



 ユーリから頭の中で声をかけられる。

 様々状況の整理と、考え事をしているとどうやら何回かアルフィン王女に声をかけられていたみたいだ。



(え?……ああそうか。戦闘を終えてからまだ話してなかったな)



【とりあえず俺は少し眠る。しばらく反応ないと思うが、起きたらまた声をかける】



 そういうと、ユーリの声が遠ざかり、聞こえなくなった。どうやら意識の底で眠りについた様だ。



「助けて頂き本当にありがとうございます。

 申し遅れましたが、わたくしはトランスヴァール皇国王女アルフィン・ライゼ・トランスヴァールと申します。旅の方かと存じますが、貴方が助けてくださらなければわたくしは魔物に殺されていました。本当にありがとうございます」



 アルフィン王女が頭を下げお礼を述べる。


 改めて見たアルフィン王女は金髪のストーレートで瞳は綺麗な青色、一つ一つの顔のバランスが奇跡的に整っている。

 醸し出す雰囲気も姫様らしいオーラも感じられる物凄い美少女だった。



「いや、何とか撃退出来て良かったよ。その……亡くなったお仲間達は……残念だったけど」



 俺自身人の死に慣れていない分、こういう時なんて言葉をかければと考えてしまう。この人達はアルフィン王女を助けるため、自分の命を賭けて護っていた。

 人の為に、そこまでできるのは忠義を持って戦えるのは本当に凄いと思う。



「はい……クルーゼ達、護衛の10人はわたくしの命を護ってくれました。盾となり、貴方が駆けつけて下さる迄。本当に皆には感謝しています。せめて、魂が安らかに天国へと行けるように祈るしかわたくしにはできませんが……」



 アルフィン王女は下を向いて、必死に涙を堪えているようだった。



「わたくしは、クルーゼ達が護ってくれた命で必ず世界の平和を勝ち取ります。必ず邪神を倒し、魔物がいない世の中にしてみせます。わたくしには……泣いている暇などありません……」



「大切な人達なんでしょう?その時は思い切り泣いたっていいと思う。一国の王女だからと泣くことが許されていないなら、俺は何も見てないし、聴こえていないから。

 例え一国の王女だろうと、同じ人間だ。

 辛いのを我慢しても良いことは無いし、溜め込むのも体に悪い。誰だって悲しいときは悲しいと思っていいんだ」



「……ぐすっすいません……御言葉に甘えます……うぅ……皆本当にありがとう……」


 王女が声を出して思い切り泣き出したのを合図に俺は後ろを向く。

 泣き顔を見ないように。元の世界の親や友人も俺の死を悲しんでくれているかなと、暫く野原を向いて考えていた。



「……もう大丈夫です気持ちの整理がつきましたありがとうございます」


 目元は若干赤く腫れてはいるが、もう大丈夫だろう。


「俺は何もしてないよ。自分の考えを言っただけさ。でもこれからどうするの?」


「はい。それで貴方にはわたくしの命を救って頂いた、御礼をさせていただきたいのですが。ご足労かけてしまうと思いますが、トランスヴァール城に一緒に行ってもらえないでしょうか?」


 御礼は別に貰わなくてもいいんだけど、俺にはアルフィン王女と一緒に邪神を倒さなくてはいけない目的がある。

 この世界がどういう世界かも分からないし、色々と情報が必要だ。城に行けば必要な情報も手に入るだろう。


「分かった。そういうことなら一緒に城に行かせてもらうよ」


「はい。よろしくお願いいたします。その前に少しだけお待ちいただいてもいいでしょうか?クルーゼ達の遺体を馬車に乗せて城下町で埋葬してあげたいのです」



「俺も手伝う」


「ありがとうございます。助かります」



 女の子一人では大の男の体を持ち上げるのは大変だろう。

 それに、俺もこの人達の遺体はこんな所に置いて行くのは嫌だった。生まれ故郷かは分からないが、親しい人達がいるかもしれない城下町で静かに眠ってもらいたかった。


 二人で10人分の遺体を馬車に乗せて、トランスヴァール皇国の方へ動き出した。城に着けば様々な情報を得られると思うけど先にいくつか少しこの世界の事や状況を聞いてみたい。と思いアルフィン王女を向くとこちらを見つめていた。


「失礼でなければお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


 そういえばまだ名乗ってなかったな。



「俺はタクト。冒険者……みたいなものかな。ちょっと遠くの国の田舎からこちらに来たんで世界の事とかあまり知らないんだ。教えてもらってもいいかな?」



 本当は異世界から来たんだけど。

 いきなり転生者です。君を護って邪神倒します。って言っても怪しい奴だよな。

 俺が転生して女神からギフト貰ったり、アルフィン王女を護る様に言われていることはまだ黙っていた方がいいかもしれない。

 正直に話したいけどしかるべき時に話した方がいいだろう。



「タクトさんと言うのですね。遠くの国というと……エリス王国やバラガン公国とかでしょうか。そうですね今この世界は、邪神ハーディーンが魔物を従え各国に侵略しようとしています。ここトランスヴァール皇国はまだ、そこまでの被害は出ておりませんが、ハーディーンの根城暗黒大陸に近いエデン王国やルーデウス帝国は戦いの主戦場として、甚大な被害を受けています。邪神は全世界を支配するのが目的。その為、各国が精鋭部隊を作り、救援に向かっています」



 邪神はハーディーンというのか。

 いかにも敵キャラみたいな名前だな。

 暗黒大陸か、これもゲームとか漫画でもよく聞く名前だな。

 まぁ実際はゲームとかより生ぬるいものではないだろう。

 さっき本当に死にかけたしな。

 こんな世界各国に戦争仕掛けられるなんて邪神はヤバそうだ。

 ユーリも魂だけなのは邪神のせいだと言っていたし。



「邪神は一人で戦争仕掛けているのか?」



 いかに魔物を従えていようと一人で全世界を敵に回すなんて出来るんだろうか。



「いえ。邪神の下には四人の幹部がいます。

 それぞれ強大な力を持ち、先ほどのカイザーベアの様な上級魔物、更には上位の特級魔物をも従えています」



 さっきのカイザーベアでも魔法無しの俺も殺されかけたのに、更に上の特級魔物がいるのか……それらをも従える四人の幹部。

 そして邪神……敵さん強すぎないすかね。

 俺もこれから修行して、魔法や近接戦闘もレベル上げて強くなっていくとしてもキツイよな。

 邪神に対抗出来るだけの仲間を集めることも必要になってくるだろう。

 ましてアルフィン王女を護りながらとなると。

 だけど、何としてもこの子の力になってあげたい。可愛いからとかではなく、さっきの泣き顔も一緒懸命さも見た、その上で力になってあげたいと思う。



「あ、あの……」



 アルフィン王女の頬が綺麗な桜色になっていた。知らずアルフィン王女を見つめていたようだ。



「あ、ごめん。女性の顔をマジマジと見つめるなんて失礼だよね。まして王女様のを」



 慌てて謝罪する。

 前世ではほとんどこういう女性との会話もなかったからなぁ。

 失礼の無いように気を付けないと。うん。



「いえ……その……貴方に見つめられるのは嫌ではないです……逆にうれし……ゴニョゴニョ……」



 最後のほうは聞き取れなかったけど、嫌がられてなかったみたいだ。


「あと、アルフィンと読んでくれませんか?貴方は命の恩人ですし貴方には名前で読んでもらいたいのです」


「えっと……失礼でなかったなら。よろしくアルフィン。俺もタクトと読んでくれ」



「はい!よろしくお願いしますねタクトさん」


 うん。可愛い。めっちゃ可愛い。普通でも可愛いけど笑顔もヤバイ。

 前世でもこんな可愛い子いなかったよ異世界転生スゲーな。




 話を戻そう。



「なるほど。邪神ハーディーンかとんでもない奴だな。その下には四人の幹部か。アルフィンはこの状況を打開する方法とか知っているの?」



「現在状況的には劣勢です。全世界の連合軍を組織して各部隊が各方面で何とか押し止めてますが、この状況もいつまで持つか分からないと、御父様が仰っておりました。」


 そうだよな。これだけの戦力差があるんだ厳しいんだろう。



「ただ、この世界の古き予言に「この世界窮地に立たされし時、世界の理外れし者、魔導を極め世界を救わん。その者魔王を名乗る者なり」とあります。今からおよそ400年前。ここ初代トランスヴァール皇国ユーリ・ライゼ・トランスヴァール陛下が命と引き換えに邪神を倒し、封印しました。ユーリ陛下は大魔王の称号持ちでした。

 ですが、今から1年前突如として邪神が復活をしたのです。

 そしてまたこの世界は窮地に立たされようとしています。

 予言の通りで言えば、また魔王の称号持ちが救世主となり現れ、共に邪神を倒してくれるのを、わたくしは信じ癒しの魔法を鍛えて参りました」



 予言の「理外れし者」そして「魔王」か……。多分俺の事だよな。


 そんな昔から予言があるのか。もしかしてそんな昔から俺がこの異世界に来ることも決められていたのか?……。


 情報も少ない今は考えてもしょうがないか後でユーリにも聞いてみよう。もしかしたら何か知ってるかもしれない。


「タクトさんも物凄い魔力と魔法を使っていました。

 現在あれほどの魔法を使える者を知りません。もしかしたらタクトさんが予言の救世主なのかもしれません。タクトさんが予言の救世主ならばわたくしと共に邪神を倒していただきたいのです」


 アルフィンが真剣な眼差しで共に戦って欲しいと言う。


 俺が異世界から来たこと、まだ駆け出し魔王だけど魔王の称号を持っていることはしかるべき時まで言うつもりなかったが、ここまで真剣な意思を込めた目で見つめられると、黙っているのが悪い感じがする。

 どのみち、アルフィンと邪神を倒すことになるなら、先に話しておいた方がいいだろう。


「実は……」


 そう思い話し始めるとトランスヴァール皇国方向の道の先から30人ぐらいが馬に乗り、こちらに向かってくるのが見えた。

 六芒星に似た、紋章が書かれている旗も一緒に見える。



「あの紋章は……近衛隊の物です。信号弾をみて救援に来てくれたのでしょう」



 アルフィンが説明してくれた。

 途中で話し遮られちゃったけどしょうがないか、後で城に着いたら改めて話そう。

 近衛隊の軍勢がこちらまで来て、馬を降りてやってくる。

 先頭の人が隊長かな。


「アルフィン王女!!ご無事ですか?赤色の信号弾を見て王女の身に命の危険と判断して馬を飛ばして参りました」



「レスター隊長ありがとうございます。わたくしは無事です。


 クリスタに向かう街道にカイザーベアが現れ、クルーゼ隊が対処していたのですが、力及ばず全滅」



「カイザーベア!?こんな街道にまで……クルーゼ達が……クソっもっと速く駆けつけられていれば!姫様その様な状況でよくぞご無事で」


「わたくしも死を覚悟しました。そのときにこちらのタクトさんが、助けてくださり、物凄い魔法を放ちカイザーベアを倒してくれたのです」



「なっ……一人でカイザーベアを……」


 レスターが信じられないと驚いている。

 まぁそうだよね。上級魔物には30人程で互角に戦うことが出来るようだし、一人で倒したなんて、俺でも信じられないよ。

 さっきユーリから、自分がたくさんの魔力を持っていること、魔王の称号を持っていることを聞かされて、尚且つ自分で倒したから信じられるけど、それ以外なら目の前で倒す所見ないとまず信じられないだろう。


「お前が一人で倒しただと?カイザーベアを?姫様の言うことを疑いたくないが、邪神の幹部達は姿形を偽ることが出来ると聞く。お前が本当に邪神の手先ではないとこの場では判断出来ん」


「タクトさんは邪神の手先ではありません!自分の身を危険にさらしながら、わたくしを護りカイザーベアと戦い倒してくれたのです!そんな命の恩人を疑う事は許しません!」


 アルフィンがレスターに俺の事を説明してくれる。

 疑われるのは仕方ないと思うが、どうしたら信じてもらえるだろうか。少なくとも敵ではないと信じてもらいたいが。


「ですが、姫様。今この世界が劣勢の状況で疑わしい可能性は放置できません。我々は陛下、姫様の命を御守りするのが使命。

 城に戻れば真実の鏡があります。そこで真実が分かりましょう。それまで、その者から姫様を御守りさせて頂く。姫様ご理解くださりますよう」


 真実の鏡?写した人の真実の姿が分かるとかか?○ーの鏡みたいなやつかな。


「仕方ありません。分かりました。早く城に戻りましょう」


 そうして、トランスヴァール皇国の城に向けて動き出した。


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