第2話


 わたくしは、トランスヴァール皇国の王女アルフィン・ライゼ・トランスヴァール。



 今日は、隣国のクリスタまでお父様(トランスヴァール国王)の名代として、護衛のもの達と御使いに出掛けていた。



 現在馬車で護衛達10人と移動中だ。

 今日は晴天で、風も心地よく、野原の花達も美しく咲いている。



 お城で御仕事をしていると、たまにはこうして、外に出たくなりますね。仕官の人達もよい人達ですし不満はありませんが、本来わたくしは、お城に籠っているより外に出ている方が好きだ。

 そのお陰か、周りからは、お転婆姫と呼ばれたりするけど。


「うーん!やっぱり外は気持ちいいですね。風がとても気持ちいいです」



 馬車の中からうーん!と身体を伸ばし、深呼吸する。



「姫様、最近はエデン王国とルーデウス帝国で、上級魔物が次々と出現しているとの報告もあります。わが国ではまだ、中級魔物が出るくらいで、被害はそこまで甚大ではありませんが、油断されませんよう」



 馬車の外から護衛隊長のクルーゼの声が聞こえてきた。

 たしかに、お父様や仕官から、そのようなお話を聞きましたね。トランスヴァールにもいつまた、上級魔物が出現するか、わかりません気を引き締めていきましょう。



 30分ほど馬車で移動した時だった。



「ん?あれは……馬車を止めろ!」



 クルーゼが叫んだ。



 何かあったのかしら。クルーゼが声を荒げるのはめずらしいのだけど、そこでまたクルーゼが叫ぶ。



「前方に、魔物がいる。……あれは……カイザーベア!何でこんな所に、こんな魔物が!」



 カイザーベア?


 魔物の中でも上級魔物に位置していたはず。なぜ、こんな所に。この辺りにはレベル2~6ぐらいの魔物が出ることがあっても、高レベルなカイザーベアが出るなどあり得ません。まだ最前線は北大陸のはず。

 それこそ召還してこの場所に呼び出されない限りは……ですが、そんなこと……。



「姫様!我々が魔物の対処に当たります!万が一に備えて、すぐにお逃げになる準備をしてください!!カイザーベアが相手では我々の戦力では、お護り出来ぬかもしれません!」



 トランスヴァール皇国でも10本指に入る、実力者のクルーゼがここまで自信なさげに言うなんて、よほどの魔物なんだろう。



「分かりました。武運を。クルーゼ死なないで!」


「姫様ありがとうございます!わが命に代えても!」



 そして、クルーゼが護衛隊を率いて、カイザーベアに向かっていく。



「者共、何としても姫様をお護りするのだ!」



「おおぉぉ!!」



 10人がかりで、カイザーベアに向かっていくクルーゼ達

 しかし、一人また一人とやられていく。



「やはり……ここまでの相手か……。仕方ない。…バレッド!


 今すぐ、姫様を連れて逃げろ!ここからなら、そこまで皇国から離れていない。そして、国に知らせるため信号弾を打ち上げろ!この距離ならば近衛隊に護ってもらえる」



「了解しました!隊長武運を!」



「ああ、武運を!姫様を頼む!」



 そんな二人のやり取りが聞こえ、バレッドが信号弾を打ち上げ馬車までやってきた。



「姫様!私と皇国まで、避難しましょう!」



「嫌です!皆を見捨てるなんて!」



「姫様!!今は一大事です!もし、姫様の身に何かあっては、皇国の民達が、皇国が、世界が、危機に陥ります!御自分の力の重要度はご存知でしょう!」



「……分かりました……」



 バレッドが馬車を走らせようとしたが。



「クソっ強い!何て力だ。この化け物め!」



 カイザーベアと戦っていたクルーゼがこちらに吹き飛ばされてしまう

 鎧もほとんど原型がないほど、凸凹になっていた。



「ガハッ」



 クルーゼの口から血が。



「クルーゼ!」



「姫様!行ってはいけません!早くお逃げになってください!」



 バレッドの言葉を背に、クルーゼの元へ駆け出す。

 わたくしには、戦う力はないけど、傷を治す事はできる。


 幼い頃より、治癒魔法が得意だった

 魔法大臣からも、ここまでの、治癒魔法は世界でもいないと言われた。そしてこの力は邪神を倒す力になると。



 皆はわたくしを護る為に、身を犠牲にしてくれている。


 クルーゼもバレッドもわたくしが幼い頃より、忠誠を尽くして、護ってくれた。たとえ、一国の王女として、相応しくない行動だとしても、皆を見捨てて逃げ出すなど出来なかった。



「クルーゼ!しっかりして、直ぐに傷を治します!」



 クルーゼの側で、膝をついて治癒魔法を使う。



「姫様……逃げてくださいと……言ったではないですか……ハァ……ハァ……何故戻られたのです……」



 クルーゼが息も絶え絶え呟く。


「皆を見捨てて、逃げ出すなどできません!貴方達は、兄も同然な人達です。幼い頃より忠誠を尽くし、わたくしを護ってくれた。たとえ、ここで殺されようともわたくしは逃げません!」



 傷を癒した事で、クルーゼが立ち上がった。



「ありがとうございます。ですが、やはり姫様には逃げて頂かないといけません」



「まだ、そんなことを言うのですか」



「アルフィン様貴方の力が、途絶えてしまえば、邪神に対抗出来るものは、いなくなります。そうなれば、トランスヴァール皇国だけでなく、世界が邪神に滅ぼされてしまう。それだけは、防がねばならない。どうか、どうか!!私の最後の願いです!逃げて、世界をお救いしてください!大丈夫です心は常に、御一緒に!!バレッド姫様を連れて逃げろ!!」



 そういうと、クルーゼは駆けて行った。



 バレッドがわたくしを抱えて、走り出す。

 クルーゼ今までありがとう。皆すいません。貴女方の忠誠に感謝を。

 クルーゼが戦う音を背後に、皇国の方角へ逃げる。



 しかし、現実は残酷だ。



 やはり、カイザーベア相手ではクルーゼ一人で戦える相手ではなかった。治癒魔法で回復していも万全ではない。

 まして上級魔物に対抗するには30人でやっと対抗できるレベルと言われている。


 クルーゼがなぎ倒されるのを見た。

 そして、魔物がこちらへ物凄い速度で追いかけてくる。



「クソっ隊長がやられた!魔物め!やられた皆の仇をうつ!」


 

 バレッドが、ベアに向かっていく



「グルルガオオオオ!」




 ブンッ


 グシャッ!



「ぐあぁぁぁ!!」



 バレッドが、鮮血を撒きながら倒れた

 治癒魔法を使おうにも、即死だった。

 ベアがこちらに、ゆっくりと向かってくる



「……ここまでの様ですね……」



 信号弾を打ち上げてもトランスヴァール皇国からここまでくるにはまだ時間もかかる。



 皆最後まで、護ってくれて、ありがとう。

 御父様わたくしは、どうやらここまでの様です。

 16年間大切に育ててくださりありがとうございました。

 最期の瞬間と祈りを捧げていたときだった。



 ガンっ!!



 ベアの顔に石がぶつかるのを見た。

 どうやら、石を投げつけたのは、男の人だった。

 今まさに、わたくしを殺そうとしていた、ベアが男の人に向かっていく。



 男の人は道端に落ちていた、護衛隊のロングソードを手にベアに速いスピードで駆け出す。

 剣で切りかかる。二度三度と切りつけていくとベアに、ダメージが増えていく。



「凄い、クルーゼ達ですら、まともに傷を負わせられなかった相手に……」



「グルルオオオオオオ」




 カイザーベアが怒りの咆哮を上げた。


 その時だった

 カイザーベアが光に包まれていく

 そうだ、カイザーベアは一段階進化することができると、文献に書いてあった。



「なんだ?熊が光だした」



 青年が言う

 進化をすると、傷が癒え、力も増すことを伝えた。

 青年がびっくりしている内に、進化が終わる。



 今度は、ベアが青年に駆け出す。

 先ほどとは比べ物にならない速度で。



 ガンっガガンっ



 青年が何とか、ベアの攻撃を剣で防いでいるが、明らかに劣勢だ。遂に、均衡が崩された。

 青年の剣が弾き飛ばされ、ベアの爪が、青年の右胸を抉る。



 わたくしは、弾き飛ばされた青年の元へ駆け、治癒魔法を使う。

 淡い光が、青年を包み傷を治した。



「傷が治っていく…これは」



 青年が不思議そうに呟いた。

 これが魔法であること。

 この魔物には敵わないこと。

 青年だけでも逃げるよう伝えた。

 青年は、それでも逃げようとしない。

 だけど、このままでは二人とも殺されてしまう。


 何とか、何とかできないか、と考えていたときだった。



 ブウン!



 魔力の波が溢れだすのを感じた。

 急に、目の前の、青年の雰囲気が変わる。

 そして、青年から魔力のオーラが溢れだした。


 近くにいるだけなのに、魔力の奔流に弾き飛ばされそうになる。

 こんな、こんな、魔力は感じたことがない。


 青年が立ち上がり。

 右手をベアに向けた

 その右手から、黒いイカヅチが流れ、ベアに当たる。



 ガカァン!!


 ドオンッ!!!



 黒いイカヅチをくらい、カイザーベアが吹き飛んだ。




 sideアルフィン

 out


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