第33話

「これから席替えをしようと思う」


 そう木野先生は言った。


「えっ?」


 ひかりが驚いた声をあげる。他のクラスメイトも「先週したばかりじゃないですか⁉」と疑問とも批判とも言えない声を上げてる。実際僕も急すぎる展開に驚いて一瞬硬直してしまった。


「……確かに先週したばかりなんだが、伊東さんが来たから伊東さんも含めて席を決めたほうがいいと思ってな」


 なんだか無理やり感がある気もする。大人の事情とやらがあるのかもしれない。


「かげくん……」


 ひかりが不安そうな顔でこっちを見てくる。ひかりみたいな人気者がそんな不安そうな顔をする理由はないはずなのに……どちらかといえば問題なのは僕のように影が薄い人だと思う。今回は、ひかりが積極的に話しかけてくれたおかげで、席になじむことができたが、次の席によっては孤立する可能性もある。


 ていうか、席替えをしたらひかりとの関係性も0に戻ってしまうんじゃということに思い至ってしまう。家が近いと分かってここ数日は一緒に帰るようになり、関係性も深まってきたと思っていたのだが……それも隣の席になったことによる副産物なのでは、と思い、悲しくなってきた。


 僕は、傲慢なのかもしれない。学校のアイドルに対してこれからもお弁当を作ってほしいし、一緒に帰りたいし、遊びたい、何より、まだまだ話をしたいと思っているのだから。


「……席が変わっても仲良くs」

「こちらこそよろしく」


 だから、ひかりにそう言われたとき僕はうれしさのあまり、食い気味に反応していた。ひかりは一瞬「へ?」という顔は浮かべたが、そのあとで顔をほころばせた。


「……まあ今は、今回も隣の席になれることを祈っとこ?」


 そう言って顔を覗き込んできたひかりに対してドキッとしたのは内緒だ。








 席替えはくじ引きで行われた。そして、当たり前のことだが僕はひかりの隣の席ではなかった。しかし、席が変わったからといってひかりと疎遠になるなどということはなかった。逆に、それまで以上に話すようになったかもしれない。いつも通りに食堂に行くし、そこで光の手作りのお弁当を食べる。一緒に帰るし、最近はひかりがスーパーに行くのについて行ってみたりもした。とにかく、席が変わったからといって、ひかりが僕から離れていくなんてことはなかった。これが僕は何故かとてもうれしかった。


 ちなみに、優とリーナは隣の席になった。最近は、授業の合間の休み時間も二人で楽しそうに話しているので今回の席替えは悪くなかったと思う。





 ◆◆◆


 前回のミーティングから一週間。また、『ひかりちゃんファンクラブ♡』の幹部ミーティングが開催されていた。


「くそ……席を変えてもひかりちゃんと月野影の関係は相変わらず密だ……」

「なんでひかりちゃんはあんな奴と……」


 いつもより活気がない。


「……何かいい案はないか?」


 そう、優が聞いても誰も案を出さない、いや出せないのか……


「……では、来週また同じことについて話す。何か案を出しておいてくれ」


 このまま今日ミーティングをしても意味をないと判断した優は次週に対応を見送ることにした。議題の次週見送りはファンクラブ始まって以来初めてだ。


 優のミーティングに対しての熱が冷めて言っていることに気が付いていたのはほんの数人の幹部だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る