第32話

 木曜日の夜。『ひかりちゃんファンクラブ♡』の定例幹部ミーティングが開かれようとしていた。


「……これから、幹部ミーティングを開始しようと思う」


 議長、水野 優が言う。


 そう、優こそがこのファンクラブの議長、そして結成者だったのだ。初め、優はこのファンクラブを部活の仲間と一緒にふざけて作ったのだが、いつの間にか人数が増えて行ってしまい、ここまでの組織に成長してしまったのだ。


 今の優はどこか辛そうだった。それでも、議長としての役割は果たす。優は責任感は強い男なのだ。


「拍手」


 優がそう言うとパチパチ、いやバチバチと拍手が会議場に響き渡る。


「辞め」


 一斉に拍手が止む。


「……今日の議題も月野 影についてだ」

「くそっ……せっかく留学生を月野の席の近くに送り込んだというのに……」

「なぜだ……なぜ月野はひかりちゃんとより仲良くなっている……?」


 口々に男たちは愚痴を言い始める。


「静かに……意見があるときは手を上げろと前から言っている……」


 そう優が言うと、一人の男が手を挙げる。


「……なんだ? 会員番号18782番」


「実は、この前の日曜日にひかりちゃんと月野が一緒に遊んでいるところを見たとの情報が入りました。そしてその場には、その……議長もいたという情報も」


 そこで18782番は一度言葉を切ってこちらを見た。前に自分が提案した作戦が失敗したからか、少しあせった様子だ。


「議長、何故ひかりちゃんと月野が一緒に遊ぶことを止めようともせず、ましてや、共に遊んでいたのですか? 他にも議長が月野やひかりちゃんと一緒にいたという情報がたくさん入っています。これらは何故であるかをお答えいただきたい」


 それに対して、優は疲れたような表情を浮かべて言った。


「それは、ひかりちゃんが楽しそうにしていたからだ……」

「そんなのが理由になるんですか?」


 18782番は少し語尾を強めて言った。


「……ファンクラブ規則第9条『ひかりちゃんの楽しみを奪ってはならない』を忘れたか?」


 それに対して優が静かにそれだけを言うと、18782番はハッとした表情になった。自分の失言に気づいたのだろう。いつもなら、18782番は幹部から降格されていたはずだ。


 しかし、優はもう18782番には興味がなさそうに「……今後の影に対する対応を考えよう」と言っただけだった。


「……830番、意見があるのか?」


 手を挙げていた830番、木野先生を優はあてる。ここでは社会での身分など関係ないのだ。


「はい。月野とひかりちゃんは、席替えをしてから仲が良くなった節があります。なので、もう一度席替えをして席を離してみるのはどうでしょう?」


 周りの幹部も「即効性は期待できないが……悪くないな」と同意する。

 それを優は見回す。


「……では、これでいこう」


 そう優は言った。


 優は最後まで疲れた様子だった。

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