第15話

「伊東さん、更衣室の場所わかる?」


 僕はそう伊東さんに尋ねていた。

 伊東さんは、急に話しかけられたことに対してちょっと驚いだ顔をしたあとで「いいえ」と首を横に振った。


「じゃあ、一緒に行こう」


 そう提案する。

 1時間目は数学で移動教室はなかったが2時間目の体育は移動教室をしなければならないから案内してあげようと思ったのだ。

 先生にお願いされたからにはちゃんと案内してあげないと……

 更衣室まで連れて行ってあげるだけなら楽なものだ。




「じゃあ、私も一緒に行く……女子更衣室は月野くん入れないから私がいた方がリーナちゃんにとってもいいよね?」


 突然日野さんがそう言って僕の顔を覗き込んできた。

 近い。

 急にどうしたんだろう……


 優が「え⁉︎」って顔でこっちを見てる。


 そして、すぐに「お、俺も一緒に行ってやるぜ」とか言って近づいてきた。


「日野さんが一緒に行ってはうれしいけど、優は別に……」


 僕がそう言うと、優が「……固いこと言うなって!」とか言って背中をバンバン叩いてくる。


 ちらっと見ると、伊東さんがじっとこっちを見ている。

 表情からは、何を考えているかわからない。


 もしかして一緒に行きたくないのかもしれないと思い、「この2人も一緒に行って良い?」と聞いておく。


「はい。もちろんです」


 伊東さんはそう言ってまた、こっちをじっと見る。

 本当にどうしたんだろう?


 急に現れて僕の背中を叩いているのを見て驚いているのだろうか?


 とにかく、僕たちは四人で体育館の横にある更衣室に向かうことにする。



 ◆



 ざわざわと他の男子が同様している。


「な、なんて大きさだ……」


 声に出してしまった残念な奴は女子にじろっと睨まれている。

 彼らが見ているのは、伊東さん。


 体操服を着た彼女の胸は飢えた男子の視線を独占するのには十分すぎた。


 あまりそういうのに興味がない僕でも見てしまうくらいだ。

 伊東さんは、少し嫌そうな顔をしている。


 流石にじっと見るのも悪いので、視線を横にずらすと、日野さんが不安そうな表情で自分の胸を見ていた。


「……大丈夫……だよね?」


 と小さく呟いている。

 日野さんの名誉のために行っておくと、彼女の胸はまな板などでは決してない。


 日本人としては立派な部類に入るのではないだろうか。

 でも、今回は相手が悪かった……


 とか、僕が珍しくそんなことを考えていると、何かを察したのか日野さんがこちらをじっと見てきた。


 変なことは考えていませんアピールのために僕もじっと見つめ返す。

 先に視線を外したら負けだ。


 しばらく視線が交差する。


 結論から言うと、先に視線を外したのは日野さんだった。

 視線を合わせた瞬間からどんどん耳が赤くなっていったと思ったらぷいっと違う方向を向いていた。


 なんか可愛い。


 あまり女子に興味を持つことのない僕も、少しドキッとした。

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