第11話

 かげがひかりちゃんと一緒に食堂に行った日の夜の8時。

 暗闇の中で三十人ほどの男が会議場に集まっていた。


「……これから、幹部ミーティングを開始しようと思う」


 議長が言う。


「拍手」


 パチパチ、いやバチバチと拍手が会議場に響き渡る。


「辞め」


 一斉に拍手が止む。

 まるで、軍隊のようだ。


「今日の議題はただ一つ、月野 影について……」


 議長がそう言う。

 だが、少し乗り気ではなさそうだ。


「あの男は危険だ!」


「確かに、ひかりちゃんに挨拶をしてもらった上でのそっけない返事……許されるわけがない!」


「隣の席という立場を利用して、ひかりちゃんのやってきた英語の宿題を見せてもらっていた、という情報も入っているぞ」


 議長の様子に気づくことなく、男たちは興奮して口々に話す。


「静粛に……この『ひかりちゃんファンクラブ♡』の幹部ミーティングは落ち着いて議論する場だ」


 そう、この集会は『ひかりちゃんファンクラブ♡』の幹部ミーティングなのだ。


「挙手をしてから発言するのがあたりまえだ」


 すぐさま、手が上がる。


「会員ナンバー3150番」


「はい。今日の昼休みに月野がひかりちゃんと二人で食堂に行っていたという目撃情報があります」


「許せん!」という声が飛び交う。


「そこで今回のミーティングでは、月野に今後どのように対応していくかを決めていこうと思う」


 手が上がる。


「なんだ? 会員ナンバー18782番?」


「月野を監禁して、二度とひかりちゃんと話せないようにしてはどうでしょう?」


「18782番……お前は幹部になったばかりだったよな……ヒラからやり直した方がいい。ファンクラブ規則第7条補則『ただし、ひかりちゃんが心配するため、例え誰であっても暴力的な手段に訴えてはならない』これを忘れるようなやつは幹部にはいらない」


 議長は、愚かなことを言った会員に容赦のない沙汰を下す。


「ま、待ってください! では、こんなのはどうでしょう……」


 18782番と呼ばれたメガネが何やら提案をする。


「……うん。お前の性格の悪さが滲み出る案だが……悪くはないな……」


 議長が思案する。


「校長……いや、931番。できるか?」


「おそらく」


 加齢臭がキツそうな男が頷く。


「では、この案に反対の人は? いないか……」


 沈黙。


「では、この案でいく。……18782番、今回はこの案を提案したことに免じて見逃してやる。規則を読み返しておくように」


「ありがたき幸せ」


 こうして、今夜の集会はお開きとなった。

 しかし、議長は幹部が会議室から出払った後も、何かを考えているようにじっと動かなかった。


「仕方ないな……」


 そう言って議長が立ち上がったのは数十分後のことだった。

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