襲来

 わかった。


 話には聞いていたが、どれほど竜が番に執着するのか、身を以て体験した。

 竜の別離に対しての過剰な反応も。


 ……手が握り潰されそうだったし。


 あとからあとから出てくる、ヒースの痩せ我慢の話も、そうと気が付かずに、優しいな、などと流してきた事が申し訳なくなる。


 トムズさんは最初から分かっていたのかもしれない。

 いや、トムズさんに限らず皆はヒースの状態を分かっていたのかも。

 なんだかんだで、ヒースを婚約者にする話で纏めてもらって本当に良かった。

 酷い分家にでも嫁いでいたら、私が死ぬ前にヒースが死んでいたかもしれない。


 今帰ったら確実に泣いたのがバレるとヒースがゴネるので、私たちはしばらく林の中の小径を歩いていた。

 泣いたことより、今のでれっとした感じは皆にバレてもいいのだろうか。ヒースの浮かれている気配で気づかれると思うので、黙っていても無駄だとは思うが。


 気が散ることに、さっきから鳥やらウサギやらにやたらと出くわす。


「ねえ? どうしてさっきから、動物が寄ってくるの?」


 また、リスが一匹目の前を横切って行った。


「よく分からないが、食料にするためじゃないのか?」

「食べる為? 疑わしい話ね」


 それでは、落ち込んでいる時はさっぱり獲物がとれないではないか。


「竜の血に応えないようにして生活していた時は見なかったな。……浮かれていると多少多い気はする」


 気がする、ではないのよ。

 みんな気がついているから。


「エミリアさん、鹿を見ると笑うのよね」


 あの、淑女然とした赤く塗った唇から、高笑いが出た時は、目と耳を疑った。


「ああ……俺が子供の頃、鹿に囲まれて、舐めまわされて帰れなくなった事があってな……」


 それは、 泣いていて、塩の代わりに舐められたのだろうか?


「それを思い出して笑っていたのね」

「エミリアとハウザーは俺の事を息子か何かだと思っているんだろ」


 迷惑そうに言う。

 でも、ヒースが二人を大好きなのを知っているので、照れた反抗期の息子のようにしか見えない。


「息子に恋人が出来たらお祝いするタイプよ、あの二人」

「……想像がつくな」


 本当に祝われたらどうしよう。

 成人を祝われるのとは意味が違うし、いたたまれないのだけれど。

 ハウザーとエミリアの満面の笑みを想像して、どうやって回避しようか作戦を立てていると、急におかしな感覚に襲われる。


 私、去年の今頃は何をしていたっけ?


 綱渡りの生活で、金策と妹のこと以外はあまり考えないで生活していた。

 あの時の私は、自分の人生に明るい続きがあるとは知らなかった。

 これから起きる楽しい事に想いを寄せる時間が持てるなんて想像もつかなかっただろう。

 あのままだったら、誰かを好きになったりしないまま死んだのだろうか。

 考えに沈むのを、立ち止まったヒースに中断させられる。


「手をつないでも?」


 愛らしい申し出だが、遠慮なく目を光らせている人が訊くような事だろうか。

 確かにヒースが言うように、獲物として狙われているのだろう。

 こういうギラギラ感を隠すのをやめたのね。

 分かり易くてこっちの方がいいわ。


「恋人に触れるのに、いちいち許可が必要なの?」


 恋人というところが気に入ったのか、笑いを噛み締めるように唇を一文字に引く。


「サリの口から許可が欲しい」


 寄りかかるほどの距離で囁く。

 その距離の方が手を握るよりよっぽど許可が必要なのではないだろうか、という程近いわよ。


 どこまで受け入れられるのか試しているのか、ぐいぐいと私との距離を詰めてくる。


 甘い。

 甘い上に遠慮がない。


 しかし、いつ唇が触れてもおかしくないこの距離が、ちっとも苦ではないのだから、私もすっかり恋に理性を奪われてしまっているようだ。


「別に、許可がなくたって、ヒースになら何をされても嫌じゃないわ」


 苦笑して言うと、そんな近くまで来ていて、一歩、仰反るようにさがる。


「なっ……なん、でもって?」


 なんでもって、改めて問われると、いかがわしいわね。


「……そういう意味じゃないわよ」

「そういうってどういう意味だ」


 だから、そこに食いつかなくてもいいのに。


「……やっぱりそういう意味かも? 恋人で、婚約者なわけだし」


 片眉をあげると、何を想像したのか、頭を抱えて崩れるようにしゃがみ込む。


「サリ、もうやめてくれ。死にそうだ」

「すぐに死にそうになるのね?」


 手を差し出して茹だったような顔のヒースを助け起こす。


「ええと、なんだった? 肩を抱いたり、手を握ったり、だった? クララベルを追い返すなら、少し練習しておいた方がいいんじゃない?」


 手を引いただけでは足らなかったようで、指を絡めとられる。


「俺がどれだけサリに死にそうにされてるかサリはわかってない」


 それは理解するのが難しいとおもうけど。


「私がヒースをすごく好きだと思うのと、どう違うの?」


 何かの限界が来たのか、がばりと抱き込まれぐりぐりと頭を擦り付けられる。

 大きな犬に懐かれたみたい。

 無理とか、辛いとか、幸せだとか耳元で悶えながら囁かれるのに応えて、大きな背を撫ぜる。

 未練になる持ち物は、家族の縁も、命さえ要らないと思っていたけれど、この大きな体躯が丸ごと私のものになるのなら、これは相当の覚悟で生きなければならないな、とむず痒く思う。

 安易に死を選ぶなんて、今はもう出来そうにない。


「さすがに、こういう感じだと、クララベルもげんなりしそうよね」




 クララベルは、間をおかずに再びバロッキー家にやって来た。

 私達はその日、ノーウェルさんの家に招かれていた。

 次の鉱山での仕事の打ち合わせと称した鉱物談議を聞かされに行く所だったが、訪問の延期の知らせを持たせた速馬を出さなければならなかった。


 前回の物々しさから一変して、目立たない馬車で、レトさんだけを連れてきたクララベルは、ちょっと裕福な町娘のような格好でバロッキー家に降り立った。

 お忍びで来たのだろうか。


 昼間の忙しい時間だったので、皆それぞれの仕事場に散っている。

 ジェームズさんも留守にしている。

 レトさんはおそらくジェームズさんと顔見知りなのだろう。

 妹たちの護衛をしてくれた時もジェームズさんのいない時を把握して現れていたのかもしれない。


 アルノは今日は特に忙しそうだったし、ミスティは自室で絵を描いているだろうが、前の険悪な様子では顔も出さないかもしれない。

 私とヒースとイヴさんで出迎えたが、お茶を勧める間も無く、早々にヒースを連れて散策に出かけていった。

 慌ててレトさんがついて行こうとすると、付いてこないでと、客室に置いて行かれてしまう。

 ヒース、一人で大丈夫かしら。


 仕方なく私たちは、客間で二人の帰りを待つことにする。

 レトさんは、騎士の甲冑ではなく、妹たちを連れてきてくれた時のような傭兵の格好だ。


「レトさん、その節はお世話になりました。今、妹たちは寮から学校に通っていています。妹共々、改めて感謝しております」


 クララベルもいないことだし、レトさんの事情を聞かねばなるまい。


「妹さんたちの留学のこと、聞き及んでおります。このような形での再会になってしまい、申し訳ありませんでした」

「レトさんは騎士様だったのですね」

「はい。今はクララベル様の近衛騎士を任されております。以前こちらにお邪魔させていだいた時は、傭兵の真似事をさせられていたのです……その、サリさんの身辺を探るように命じられまして。密偵のような振る舞い、恥じ入るばかりです」


 そんな前からクララベルは私を見張っていたのね。


「そうだったんですね。でも、妹たちを警護して無事にバロッキーまで連れてきていただいたのは、レトさんの善意によるものですよね? 私が単独で国を越えられたのはバロッキーの誓約書があったからです。例え姉を追ってきたと言っても、妹たちには国境を越えることは不可能でした。父ですら入国する許可が下りるまで暫くかかったようですし。レトさんは何か特別な許可があったのだろうとは思っていたのですが。国の騎士様だとは露知らず……無礼をお許しください」


 レトさんはクララベルの指示を曲げて妹たちを助けてくれたのかもしれない。


「サリさんの境遇も、妹さん達の想いも知った後でこの様な立場で物を申すのは心苦しいのですが。その……クララベル様に少しだけ時間をいただけないでしょうか?」

「ヒースをお渡しする事はできません」


 間髪を入れずお断りする。

 これに関しては譲る気がない。


「誤解なさらないでください。ヒースさんをクララベル様に差し出せという相談ではありません!……少しだけ、姫様が諦めるまで待っていただきたいのです」


 レトさんは、膝の上に置いた拳に力を込めて、強い視線でこちらを見る。


「それは、どういった事情なのですか?」

「姫様に来ている縁談ですが、なかなか受けると仰らないので、王は手を焼いておいでなのです。サリさんは王家の事はご存知ですか?」

「いえ、不勉強でお恥ずかしいですが、ついこの間ジェームズさんから少し教えてもらっただけです」


 外国からいらっしゃったのなら仕方のない事ですと、微笑んで、レトさんは続ける。


「御生母が違うのですが、クララベル様には一つ歳下の妹君がおられるのです。アイリーン様はとても愛らしい方で、クララベル様によく懐いていらっしゃいます。クララベル様と縁談の持ち上がっているサルベリア国の第二王子はアイリーン様の母君と遠縁にあたります。幼少の頃から顔を合わせる事もあったのでしょう、アイリーン様の初恋の君でもあるのですが……」

「姫様は、縁談をアイリーン様に譲りたいのですね」


 私は余計な事情を知ってしまったことに心の中で舌打ちをした。


「そうなのです。王家にバロッキー家から婿を、というのは計画としてはあったのですが、クララベル様ほどバロッキー家に友好的に接する姫がいらっしゃらないので、実現されない計画だったのでございます。王はクララベル様にサルベリア国との縁談を推していらっしゃいますが、クララベル様が頑なですので……変更の条件を、バロッキーから婿を取る事となさいました」

「期限内にバロッキーから誰か連れてこなければ、サルベリア国との縁談が進むと……」


 為政者とは恐ろしいものだ。

 娘の自由にさせているようで、その実、国の利にならない事は何も許さない。


「左様でございます」


 クララベルも必死なのだ。


「姫様は、ヒースを本当に好いている様ですけれど……」

「ジェームズさんもヒースさんも美しい方達ですし、憧れ半分、甘え半分といった所でございましょうか。立場として姫様の我儘にお付き合い頂いているのがお分かりにならないのです。二人ともご家族や婚約者がいる事が分かれば、少しは身に染みるかと思って、今日もお止めせずにお邪魔させていただきました。現実を知って目が覚めるとよいのですが」


 レトさんは、イヴさんの方を向くと少し頭を下げる。


「ジェームズさんも、クララベル様の我儘に付き合ってばかりでお気の毒でございます」

「クララベル姫の状況は存じておりますので、ジェームズも強くは言えないのでしょう。カヤロナ家の子でなければ、ここに置いて、うちの子たちと一緒に躾け直してあげたいくらいですわ」


 イヴさんが、過激な事を言っている!

 笑っているけれど、目が笑っていない。

 これは、相当腹に据えかねているようね。


「あの、姫様はどういったお立場なのでしょうか?」


 私の疑問にイヴさんが答えをくれる。


「クララベル姫のお母様は、身分の高い貴族から正妃としてのお輿入れだったのだけれど、まだ姫が幼いうちに亡くなったの」

「亡くなった正妃の姫なのですね」

「そう。周りが不憫がって甘やかすから……手がつけられない我儘ぶりのようね」


 ジェームズさんも苦労していそうだ。


「私は割とクララベル様、好きですよ、分かりやすくて。高い物を売りつけても、煽ったら買ってくれそうな感じですよね」


 母を失うというのは、幼い子にとって自分を見失うのに十分な理由だとも思う。

 何も失ったことがなくて、妹を気遣うことのないような嫌な姫だったら容赦なく戦えたかもしれないが、どうもクララベルには愛らしさがチラチラと見えてしまう。

 ジェームズさんが手を焼くのは、我儘だけで切り捨てられない根の愛らしさ故かもしれない。


「サリさんからヒースさんを奪うなんて、うちの姫様には到底無理な気がします」


 レトさんが項垂れる。

 この人もそうだ。

 自分の護るべき姫様に対して言ってることが酷い。

 それでもこんな我儘に付き合っているのだから、愛ゆえなのだろう。

 この人も苦労人のようだ。


「サリ、あなた、ヒースを姫と一緒にしておいて大丈夫なの?」


 イヴさんが、心配そうだが、今のヒースには隙はない。


「ええ、大丈夫です。ここから見えますから」


 窓の外を指差すと、エスコートしているくせに素っ気なさの塊りみたいなヒースと、会話もなく、打つ手無しといった様子でまごついているクララベルが見える。

 ヒースは私の見える範囲から遠ざからないことにしたようだ。

 しかし、二人の様子はここから見えるだけではなく、二階のミスティの部屋からも見えたのだろう。

 ミスティが客間を素通りしてドスドスと大股で外に飛び出して行く。


「あ、イヴさん、あれは不味くないですか?」

「まぁ、あの子どうするつもりかしら?」


 遠くて詳細は分からないが、ミスティが、何か不穏な事を言いながらクララベルに近づいて行く。

 怒りを露わにして手を振り回しているのが見える。

 クララベルも噛み付くようにミスティに何事かを怒鳴っているようだ。


 ヒースは……あれ?


 興味がなさそうに、二人のやり取りを見ていたが、ふとこちらを向いた。

 あの距離から客室の中が見えるはずがないから、自惚れではないが、私の気配を探っているのだろう。


 モゴモゴと口が動いているから、サリに会いたいとかなんとか言ってるはずだ。


「行った方がいいですか?」

「どうしたものかしら」

「あ、ミスティが掴みかかりましたよ。レトさん、あれ大丈夫ですか?」


 レトさんも困り顔で二人の口喧嘩を見ている。


「大丈夫です。少し荒波に揉まれた方が姫様の為になります」


 止めるのはやめたようだ。


「流石に姫様は取っ組み合いの仕方は知らないみたいね。あれなら、前にサリと喧嘩した時みたいにはならないわ」


 イヴさんも止めない。

 大人二人が見守るというのなら、私の出る幕ではないわね。


 カンカンと大声でやり合って、最終的にミスティに引きずられて、クララベルが客間に帰ってくる。

 お姫様の首根っこを掴んで引き摺るってどうかと思うわよ、ミスティ。

 クララベルは結った髪も乱れて、涙目になっているじゃない。


「サリ! なんでこんな奴いつまでも野放しにしとくんだよ?! ヒースだって、早く追い返せばいいんだよ、こんな馬鹿女!」

「何ですってぇ、余計なお世話よ!」

「姫だか猿だか知らないけどさぁ、目障りなんだよ! この、ブス!」


 謂れのない悪口を浴びせかける。


「ミスティ、姫様は美人だと思うけど?」


 馬鹿だとは思うけど、ブスはさすがに失礼だと思う。


「はっ、どんなに美人でも性格を含めたら価値が地面にめり込むね! 譲れとか代われとか、ヒースは物じゃないんだよ! 騎士様に連れて帰ってもらって二度と来んな!」

「うるさい、うるさい! あんたみたいな、男だか女だかわからないやつに言われたくないわ!」


 あ、それ地雷だわ。


「キャンキャン、うるせェ!」


 あ、ついに王女様の頭をひっぱたいたわね。

 誰も止めないので、二人の喧嘩は続く。



 遅れて客間に帰ってきたヒースがコートを脱ぐのを手伝いながら、クララベルとミスティの舌戦を観戦する。

 出かけるつもりで着た、仕立ての良い黒いコートだったが、同色の刺繍がふんだんに施されていて、見た目より重いのだ。

 中にはベストもきていたし、今日の気候では暑かったようだ。

 いつもなら一人で脱ぐと頑張るのだが、クララベルもいる手前、私に手伝われても大人しくしている。


「ヒース、お帰りなさい。暑かったでしょ、お茶をいれましょうか?」


 お茶の用意をしようと茶道具の方に向かう私の肩に手をやり、軽く引き寄せる。

 ぎこちなさを感じさせない動きで、私のつむじにコツンと唇を落とし、長椅子に押し戻す。

 人前でキスしないと言っていたのはヒースなのに。


「いや、俺がいれる。サリは俺がいれたお茶が嫌いじゃないんだろ?」


 気安い言葉を使うヒースにクララベルが目を眇める。


「ハイハイ、何度でもいうわよ。ヒースのいれたお茶、大好きよ」


 満足そうにくしゃりと笑うヒースの顔を見て、キャンキャンと言い争っていたクララベルが動きを止めた。

 ヒースはクララベルを追い返すなんて言っていたくせに、お茶を褒められた事に気を良くしたのか、鼻歌を歌いそうな様子で手際よくお茶を入れていく。


 私だけじゃなくてみんなにいれるのよ?

 クララベルがいるの忘れてない?

 あの子、泣きそうな顔しているわよ。


「……だって、書類上の婚約者だって……」


 書類上でも誰かの婚約者をくれというのはおかしな事ですよ、姫様。

 ヒースを奪えないと分かったら、妹の好いている人と結婚か――王女の義務と戦うのは辛かろう。


「姫様、書類上でも婚約者同士は後々家族になる予定の人です。多くの婚約者たちは、すぐには愛着がわかなくても、結婚後、円満に生活出来る様にお互いゆっくりと歩み寄るものです」


 生意気な私に諭され、唇をかみしめて下を向く。

 妹の幸せを奪うのは辛かろう。

 しかし、私の本質は、商人だ。

 情に流されてバロッキーの利まで放り出すわけにはいかないのだ。

 何かどちらにも利が出る方法があればいいのだけれど……。


「……サリと、家族か……」


 お茶に視線を落としてヒースがつぶやく。

 ヒース、そこは頬を染める所じゃなくて、何かこう、ビシッと決める所よ!

 目尻が溶けてしまったヒースを、クララベルは驚愕の顔で見ている。

 ほら、ちゃんと断るんじゃなかったの?


「……」


 クララベルはとスカート裾をきつく握りしめた。

 心中を察するに、こんなヒースを見るのは初めてだ、といった所だろうか?

 ここ最近、ヒースは甘くて緩んだ雰囲気を垂れ流している。

 バロッキーの誰もが何も気にした様子がなかったので、私も特に気にしていなかったが、やはりこの甘さは異常なのだ!

 クララベルが青い顔をしている。


 クララベルが顔を上げ、キッと睨みつけた先は、私たちではなく、ミスティだった。

 人差し指を突きつけて、ミスティに吠える。


「あんたなんか禿げてしまえばいいのよ!」


 ミスティに禿げの呪いをかけ、クララベルは帰るわよ、とレトさんの横を通り過ぎて出て行った。

 レトさんも挨拶もそこそこに、慌ててクララベルを追って出て行く。


 ミスティは、しばらくあっけにとられていたが、持ち直したようで、怒りもあらわに窓に近づく。


「うちには代々、禿げの血は入ってないんだよっ!!お前が禿げろ!!」


 乱暴に窓を開けて、馬車に向かって去っていくクララベルの背中に暴言を吐く。

 クララベルは毎回ここまで言われても、ミスティを縛り首にしてやるとは言いださない。


「……ミスティは不敬罪で罰せられたりしないのかしら?」


 クララベルはミスティの活躍により追い払われたのだった。


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