第3話

side 春宮紫苑

カナートの森はラックルス都市国家の西に広がる魔境だ

かなりの広さがあるが、危険度はDランクと魔境の中では低い

主に出現するのはゴブリンやコボルト、狼や毒蛇、スライムなどで稀に熊やオークと聞いている

現に入ってから遭遇しているのはほとんど狼やゴブリン、コボルトだった

一匹、一匹はそこまででも数が多いので面倒くさい

あ、あと一応コボルト討伐の依頼は成功した


「しかし、結構稼げたな。コボルト討伐も終わったし、そろそろ帰ろうぜ」


先程倒した魔物の解体と荷物の整理を終え、ベルに提案する


「いや、せっカク魔境に来たんだもう少し粘ろウぜ」

「まあ、それもそうだな。…しかし、魔境に入るならギルドで貸し出している道具袋借りればよかったな」

「確かにあれはあれば便利だけど有料で高いから、借りナクてよかったんじゃないか?」


道具袋とはファンタジー系のラノベでチート持ちが序盤でよく手に入れる定番のチートアイテムというイメージだろう

この世界では別にそこまで、まあピンキリといった方が正しいだろう。そのため、ベテランや一人前の冒険者は自前のやつを持っている人が多い

道具袋は空間魔術や錬金魔術などを用いて作られた魔道具のことだ

内容量が多いことや、どれだけ軽く持ち運べるかで価値が変わる

ちなみに高価な物では中には入れた物の時を止める物もあるらしい

ギルドで貸し出している物はだいたいリュック一つ分の荷物が入るくらいで半分以下の重さで持ち運ぶことが出来る

しかし、2000ゴルドと低ランク冒険者の僕達からしたら少し高い値段となっている

一日の稼ぎがだいたい3000~5000ゴルドの僕達からしたら2000ゴルドの出費はかなり痛いのだ


 ▼△▼


時刻は昼を過ぎた時間帯、だいたい三時くらいだろうか

昼が過ぎたため日が陰り、もともとから薄暗かった森はより暗くなり、不気味さが増している

……そろそろ帰った方が良いかもしれないな


「なあ、そろそ――


急にドシン、と音がした

同時に揺れを感じた

今まで遭遇したものからは絶対にしなかったものだ

恐る恐る音がした方向を見るとそこには豚の頭を持つ大男の姿をした魔物、オークがいた


 ▼△▼


「やばい、オークだ!逃げるぞ!」


オークはD-ランクの魔物だ。E+ランクが二人ならギリギリ勝てるか勝てないかだ

しかし、仮にもここは危険な魔物や猛獣が跳梁跋扈する魔境

ここでオークと戦い、倒したとしても絶対に余力は残っておらず、その状態で他の魔物に遭遇したら殺されてしまう

そして、魔境の魔物は魔境の外に住む魔物よりも強いことが多いらしい

もともとでも勝てるか勝てないかなのに、それより強いとなったたらどうしようも無い


「よっしゃ!シオン、大物だ!これ倒してサッさと帰ろうぜ!」


何言ってんのこいつ


 ▼△▼


「いや、何言ってんのアンタ。危なくなったら逃げるって話だろうが」

「はぁーー?!何言ってんだよ。オークはD-で俺達はE+だろ?ちょうどいいじャネぇか。それに、コボルト討伐は終わっテルし、オークの肉は高値で買い取ってもらえるぜ。……それにアイツも逃がしてくれそウニなさそうだ」


よく見ると、オークの息は荒く、傷が多い

それにオークは普段群れで行動する

おそらくあれは群れから追い出されたはぐれだろう

群れで行動する生物が群れから出て行った場合満足な食事や睡眠、安全なすみかを得ることは難しいだろう。そして目の前には美味そうな獲物が二つ

……なるほどな。これは逃がしてくれないな


「大丈夫だ」


ベルが僕に言う


「俺とシオン、お前ならやれる。なんてたって今の今まで無傷なんだからな。たかだかオークの一匹くらい余裕だよ」


一体どこからそんな自信と信頼がが湧いてくるのだろうか

こいつと組んでまだ半日しか経ってないというのに

…しかし、やれる気がした

うまいこと説明できないが、なんとなくこいつが言うなら出来る、という感じがする

……覚悟を決めよう


「あーー!もう、分かったよ!今回の取り分増やしてくれよ!」


 ▼△▼


「はあっ!」


ベルの放った矢が空を切りオークに刺さる

しかし、オークの皮膚は硬く、矢は深く刺さらない

まあ、想定内だ。オークの皮膚は皮鎧に使われるくらいだ。簡単にダメージは与えられないだろう

ベルも気にせず矢をつがえ、次々と矢を放っていく


「ブモォォォ!」


オークが目の前にいる僕めがけて豪腕を振るう

スピードは遅く、余裕を持って回避ができた

オークの腕が木にぶつかり、木が揺れる

これがオーガだったら折れていただろう

パワーはオーガ以下でスピードは遅い

何とかなるかもしれない

……まあ、一発でも食らったら全身複雑骨折だろうけどな


盾を捨て、ひたすら回避に徹する

どうせ防御したって意味がないだろう。なら、少しでも軽くした方が良い。今の攻撃役はベルだからな


「ブモォッ!ブルルルッ!」

「!!チィッ!」


オークが僕を狙うのを止め、ベルに襲いかかる

どうやら先程から放たれているベルの矢がなかなか厄介だと感じたらしく、ベルを先に潰す気らしい


「させるかッ!」


後ろからオークの頭めがけて石を投げ、後頭部に直撃させる


「ブモォォォォォッ!!」


勢い良く放ったつもりだがたいした威力はなかったらしくダメージを負ったそぶりは無い

しかし、石を投げられたことは彼の気に触ったらしくベルを狙うのを止め、こっちに目を向け、襲いかかる

馬鹿め、お前の踊る相手は僕だがお前の死神は僕じゃない


「プモォッ?ブモォォォッ!!」


オークが間抜けな声を上げ、膝をついたと思ったら急に絶叫し、悶絶し始めた

よく見ると膝をついた足のかかとに矢が刺さっている。それも深く

どうやらアキレス腱をやられたらしい

チャンスだ

オークは足の痛みに気をとられ、こちらを気にした様子はない

剣を抜き、突っ込む

あと一歩というところでオークと目が合う

攻撃を防ごうと動く

しかし、ワンテンポ遅い

槍を突くように体重を前にかけ、眉間めがけてまっすぐ突き出す

肉と骨を貫く感触がした。今までのどの生き物よりも硬い感触だった

そしてそのまま全力で剣を振る

オークの眼球と血と脳と肉がぶちまけられ、オークが前のめりに倒れた

……自分でやっといてなんだが、すごく吐きそうな光景だ


 ▼△▼


「ほら、ヤれたじゃないか!言ったトオりだろ?俺達なら出来るって!」


ベルが嬉しそうな顔をして僕に駆け寄って来る


「まあ、そうだな。でもこんなのはもう勘弁だぞ。さっさと解体して早――

「危ねぇ!!」


急に突き飛ばされた。何なんだ一体


「痛いな…。何しや…」


ベルの方を見ると弓を構え、臨戦態勢だった

まさか、と思いベルが目線のさきに目を向けるとそこには黒いコボルトが、僕が先程までいた場所には複数のコボルトがいた

一難去ってまた一難か……

笑えないなぁ…

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