第23話 エプローグ
十一月下旬。定例の職員会議が開かれています。小森教頭は渥美先生から出されたeスポーツクラブ設立の件で要望書について説明しました。そこで渥美先生から少し細く説明をお願いします。
「この要望書は十月に準備委員会の名目で出されました。そこでは進学校にテレビゲームは必要ないという意見に勝るまでの準備が出来ていませんでした。
そこで彼等が考えたのは、実はeスポーツを皆が楽しんでいるのですが、改めて言われないと気がつかなかったことに気が付きました。
わが校は進学校ですが、プヨプヨeスポーツ大会の選手を募集したら、全てのクラスから団体戦と個人戦で十名の参加申し込みがありました。それは一クラス十名に制限したからです。
その為にその十名に選ばれる為にクラスの中で選考会が行われました。ほとんどの生徒がスマホを持っています。ガラ系の生徒は非常に少ないのです。
だからこの企画は大当たりしました。その後の文化祭までは先生チームも参加して盛り上がりました。全ての生徒がeスポーツをすでに楽しんでいるのです。
そして、校長から文化祭が終わったら、ゲームモードから受験勉強モードに、切り替える用に指示を受けました。
そのことを準備委員会の六名に徹底させました。それが表彰式の後の高橋の受験勉強ガンバロウ三唱に繋がりました。そして、文化祭が終わりました。
不思議です。あれほどプヨプヨをしていた生徒が誰もいなくなりました。全校生徒は自分たちが何をしなければいけないのかを知っていました。
生徒達は文化祭でプヨプヨをしてガス抜きが出来たのです。ずるずると勉強することからメリハリのある勉強をすることを学んだのではないでしょうか。
私は、プヨプヨeスポーツ大会は大成功だと思いました。そこでこの要望書にありますクラブ設立に向けて協議をお願いします。私はこの文化祭の企画し実行に移した彼らを誇りに思っています。
その準備委員会のメンバーは六名です。その内三名は九月一杯不登校で引きこもりになっていた生徒です。
彼らは十月から学校に復帰してきました。三人は学校でテレビゲームのeスポーツクラブを作るのだという信念で学校に戻ってきました。
当校は進学校ですが、不登校生など墜ちこぼれになった生徒が現実に何名もいます。その彼等がもう一度学校に戻るキッカケをこのクラブが作ってくれました。
そんな彼らが全校生徒や先生までを一つにまとめてくれました。彼らは勉強しました。大勢の人を動かす術を学びました。
そして、組織を作り、ルールを作り、計画を作り、予実管理をして一ヶ月で見事な大会を成功させてくれました。もちろんこの為に各クラスから一名とパソコンクラブや写真部と応援団の応援を得ました。そのことは先生方の知るところです」ここで渥美先生は少し間を置きました。
「これら彼等がeスポーツクラブを作りたいという熱い気持ちの表れです。彼らは高橋が二年生の内にクラブを設立したいと私に言ってきました。
私もどうせ作るなら全校生徒の胸の中に熱い気持ちを蘇らせた高橋の功績を認めて、彼等の思いで今回の要望書になりました。
この中にもう一人優秀な生徒がいます。一年生の桃山健太君です。今回の要望書や文化祭のプヨプヨ大会の企画から実施まで彼が裏方になって高橋たちを動かしてきました。
その企画力の勝利と私は思います。高橋と桃山がいればクラブとして上手く立ち上げてくれると信じています。長くなりましたが、宜しくお願いします」
「渥美先生の熱い気持ちは伝わってきました。ところで春日井北高にはeスポーツクラブが二年前からあると聞きました。そこに視察に行ったのですね」
「はい、同じ県立高校で近くの学校ですからアポを取って生徒を連れて視察にいきました。
そこでパソコン五台でモニターが十台、ノーマルパソコンが一台ありプロジェクターでスクリーンに映しだしました。クラブ員は十六名で女子が三名いました。
北高の機材は三年間のリース契約で二年間は無料の発足支援プログラムを活用していました。当校もこれを活用する予定です。そうすれば初期費用が安く済みますので検討します」
「分かりました。皆さんにeスポーツクラブの賛否を聞きたいです」
「私はプヨプヨ大会の前まではテレビゲームのクラブに反対でした。でも大会の模様を見ていて驚きました。
私は、文化祭で普段勉強で暗い顔をしている生徒達の嬉しそうな表情をみて嬉しくなりました。勉強も遊びも生徒達が主人公です。先生が主人公ではいけないと思いました。
そして、文化祭が終わったら、生徒達の中でばたっとゲームの話しが止まりました。渥美先生の言う受験勉強モードに切り替わっていました。
私はこれを知って素晴らしいと思いました。これではeスポーツクラブ設立を反対できないと思いました。
私はeスポーツクラブ準備委員会のメンバーが生徒達のガス抜きをしてくれたことに感謝したい気持ちです」三年生の担任の遠山先生が言いました。
「ありがとうございます。プヨプヨ大会に参加した十名の先生は反対しないでしょうから、その他に意見はありませんか。いや反対の意見があればこの場で言って下さい」
「・・・」
「誰もいませんか。それでは校長線の意見をお願いします」
「はい、渥美先生と遠山先生に私の言いたいことを先に言われていまいましたので少し質問させて下さい。
渥美先生が誉めている企画の勝利として桃山君ですか、どんな生徒なのですか」
「はい、九月初旬までバレー部の先輩からイジメを受けていた生徒です。
その苦しい経験から不登校になっている生徒も同じ思いをしているのではないかと思いました。
そこで生徒の自宅に出向いて彼等の意見を聞き、家でゲームして時間を過ごしていることに気が付きました。
そこで自宅でゲームするなら学校で一緒にゲームしようよ。その為のeスポーツクラブを学校に作ろうと呼びかけて学校に戻してきたのです。
イジメ、家庭問題→不登校→引きこもりのこの負の連鎖を先生たちが立ち切れませんでした、ところが高校一年生の桃山君が立ち切って見せました。
それも三名も学校に戻してくれました。先生なら一人でも復学させればホームランです。それを短期間に三名を戻してきたのです」
「そんなすごい生徒がいるのですか。一年生で負の連鎖を断ったのですか」
「そうです、彼は困っている人がいると助けたいと言っていました。彼には打算ですることがありません。それを感じさせないから生徒達は彼に着いてきたのだと思います」
「素晴らしいですね。その彼が企画力も素晴らしいのですか」
「そうです、要望書も彼の独断で作成してきました。ただ彼は手書きで書いてパソコン入力は彼女が手伝っていました」
「学校に要望書を出すなんて普通は考えられませんよ」
「校長の言う通りです。桃山君は中学で生徒会長をしてライン問題で苦労したと言っていました。そして親から空気の読み方、自分に吹いている風向きを知るのも勉強してきました。本当に不思議な生徒です」
「そうですか。いい生徒なのですね。
分かりました。当校には不登校の生徒が先日の調査で五名います。彼等を落ちこぼれとして切り落とすのではなく救済の道を開くのも必要と思います。
そこで文化祭のプヨプヨeスポーツ大会の成功とその後の受験モード切り替えの功を認めてクラブ設立を許可します。
それで渥美先生は部長か顧問かどちらかになって頂き、予算の見積もりを取って稟議書を回して下さい」
「ありがとうございます」
eスポーツクラブ設立の許可が出たことはその日の内に連絡されました。その日職員会議が終わった時には皆帰路についていました。
そこで渥美は高橋に電話しました。
「高橋君今日の職員会議でeスポーツクラブの設立の許可が出ました。後は予算の見積もりを取って稟議書を発行すれば認可される予定です。
これで新規の部員募集か掛けて下さい。長い間ご苦労さんでした。やっとトンネルの出口が見えてきました。御苦労さまでした」
「先生、電話してくれてありがとうございます。僕から皆に電話連絡します」
「そうして下さい」
「ありがとうございました」
それから高橋は全員に電話でそのことを伝えました。
健太は高橋の電話を切ってから美咲の声が聞きたくなりました。
「美咲、eスポーツクラブの設立が許可されました。最終的にはもう少し時間が掛りますが、新規の部員を募集出来ます」
「健太さんおめでとう、良かったですね」
「これも美咲が手伝ってくれたお陰です、ありがとう」
「健太さんがプヨプヨを大事にしたから文化祭のプヨプヨeスポーツ大会が成功して、今度は要望書を出して正式にクラブとして認可されるのですね」
「そうだね、まるでプヨプヨが三人の不登校生徒を救ってくれたのですね。そう思うと僕のやってきたことは良かったことなのですね」
「そうよ、健太さんが三人を助けたことになるのですよ」
「改めて言われると照れちゃうね。
でもこれで三人のeスポーツクラブでの全国高校大会への出場を目標で部活する夢がかないそうです。」
「健太さんの誘い文句が嘘にならずに良かったですね」
「これも美咲の協力があったからです。改めてありがとう」
翌日の放課後、視聴覚室にeスポーツクラブのメンバーが集まりました。日菜子は昨日の電話があったから美咲を特別に呼びました。そこに渥美先生が来ました。
そして、昨日の職員会議で佐合校長からクラブの認可が下りたことを説明しました。それを聞いて全員がハイタッチして喜びました。
それから陽斗と日菜子がハグをしました。それを見て健太が美咲とハグしました。続いて二人の女子生徒は全員とハグしました。
今まで頑張ってきたことがやっと報われたのです。でもまだクラブに成る為には新規部員の募集を急いでする必要があります。これからも全員が目標に向かって頑張っていきます。
了
進学校の俺たちの高校にもeスポーツクラブを作りたい 尾崎 大活 @aa17176
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。進学校の俺たちの高校にもeスポーツクラブを作りたいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます