第18話 職員会議(2)
十月下旬、放課後に定例の職員会議が開かれました。
小森教頭は最初の議題でeスポーツクラブ設立の要望書が提出されたことを報告しました。
「内容は全員にメールで送信しましたのでパソコンで確認して下さい。
まず要望書の説明を渥美先生からお願いします」
「はい、パソコンは開いたでしょうか。文化祭でプヨプヨeスポーツ大会をやりますのでこの件は除きます。
それでは一読すれば分かる内容は割愛します。そこでポイントを説明します。まずはクラブ設立の目的に付いて説明します。
一つ、国体の競技種目に二〇一九年から採用されました。二〇二六年に愛知県で行われるアジア大会の競技種目に正式に採用されました。そのために本校にeスポーツクラブを設立してその普及に努める。
一つ、テレビゲームの延長戦として考えないこと。スポーツとして取組むこととする。
一つ、不登校生、引きこもり生徒の救済の手段としてeスポーツクラブを通して手助けをする。
この三つですが、三番目の件では、クラブに参加する為に一年生の三人の不登校の生徒をすでに復学させました。
不登校になった生徒は部屋でゲームをして一日過ごしています。その共通のゲームというツールでeスポーツクラブを設立し学校でやろうと呼びかけて戻ってきました。
これも作成者の桃山君の尽力の結果です。このことからしても電話だけしかしていなかった私は反省しています。
彼らを学校に戻すために桃山は、彼らの家に何度も通い一緒にeスポーツクラブで全国大会を目指そうといって彼らの心を開いてきたと言いました。
当校にもいる落ちこぼれや不登校生を受け止めるクラブとしても考え方を変えることが必要と思います。それを受けて賛成、反対の意見を聞かせて下さい」
「まず反対意見をお願いします」
「はい、先日も言いましたが進学校の当校にテレビゲームクラブは必要でしょうか。私は必要ないと思います。
本校の生徒の多くは大学受験生です。受験生の本分は勉強して受験戦争に勝つことだと思います。その彼等の道を迷わすような行為は避けるべきではないですか。それを考えて私は反対します」三年担任の遠山先生が言いました。
「はい、三年生の先生は皆反対です」
「それでは先生方に質問です。クラブ準備委員からの質問を言います。
ゲームはダメだという人がスマホのゲームをしています。今ではスマホで誰でもゲームができる環境下にあるのです。
それでクラブとしてやるのはダメだと言うなら、国体の正式種目になりました。
愛知県でやるアジア大会に正式種目になりました。そこで正式種目にするのは何故ですか。愛知県が主催する行事をその県立高校がそのクラブを作るのに反対する。それは可笑しくないですか。その理屈を説明して欲しいのです。
これだけメジャーになっているモノをダメだというのではなくリスクを顕在化して対応策を教育現場が取るべきだと思います。
私たちは、そのリスク対応に時間が掛るから少し待てというのなら理解できます。生徒たちはすでに反対の意見が出ることを予見していました。
テレビゲームについてこのような意見もありました。そこで紹介します。
進学校だから反対という意見は納得しません。ゲームの世界を否定するような意見だからです。
ゲームの世界は、任天堂とソニーが競争して日本の一大産業に育てました。
そのゲームは世界で進化しています。それをまず認識したら進学校だからこそゲームをやらなければ次代のリーダーが育たないと思います。
考え方を生徒目線で考えるか先生目線で考えるかで大きく変わります。ゲーマーの世界は若者中心で大学を出てからでは遅いのです。
この生徒達の質問に、反対する先生は答えられますか」
「・・・」
「どうですか、誰か答えられますか。
私は答えられませんでした。まず先生たちは、生徒がこれだけ考えている事実をまず知って下さい。私からは以上です」
「今述べた渥美先生の言葉はクラブ員の言葉なのですか」
「そうですよ、先生方の中で議論が出来ていないと言ったら彼らが心配して、そこで考えて私に質問してきました。
それを受けて私は答えが出せませんでしたから少し時間を下さいといって答えを保留しています」
「私たちは彼らに議論を堰かされているのですね」
「そう思います」
「桃山君は広い世界の中で考えています。本校だけの狭い考えでいたら墓穴を掘ると思います」
「それはどういう意味ですか」
「私たちのここは教育現場です。知らないことを勉強して覚えて行きます。
そして過去に学んで現在と未来に向けて知見出来る人材を育成する場です。
先ほどの携帯電話でもラインによるイジメ問題で後手に回った経験を勉強したことを今度はeスポーツという新しい分野に出会いました。そこでの失敗の経験が今回の件に生かされることを望んでいると言っていました。
彼は、知らないから勉強するのです。知らないから反対するのでは教師として自己矛盾を感じませんか。それを彼から学びました」
「・・・」
それを聞いて先生方は何も言えなくなりました。
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