第14話 不登校生の救済(6)

 十月初旬。

 柏木貴志は相変わらず不登校状態が続いています。これで不登校になって一カ月以上過ぎました。貴志には中学二年生の妹の梨佳がいます。

 その梨佳が、お兄ちゃんはいつになったら学校に行くのと言いました。それに貴志は悩んでいる最中なので答えられずにいました。

 貴志は高校を中退すべきか学校に戻るべきかを決めかねていました。このまま不登校が続けば日数が不足して中退の道に進むことになります。 

 なぜ不登校になったのでしょうか。何の目的もなく流されて生きていくのは皆同じです。

 友達の陽斗と出会って彼も学校に行かなくなりました。彼と同じように夏やみの過ごし方に問題があったのでしょうか。

 貴志はもうどうでもよくなりました。生きているのが面度くさくなりました。

しかし、彼が学校に行かなくなってお母さんが心配していることを知っています。

その母の花菜が先日の夜泣いていました。母の泪を久しぶりに見ました。それを見て彼も泣けてきました。

「お母さんどうして泣いているの」

「貴志、いつになったら学校に行くの」

「お母さんが泣いているのは僕のせいなの」

「そうよ、お母さんはどうしていいのか分からないよ。お父さんと分かれて一人で頑張ってきたけれど貴志がこんな風になってしまってどうしたらいいの」

「お母さんのせいではないよ。今は自分が分からなくなってきて、もうどうにでもなれという感じです」

「貴志は学校を辞めたいのですか」

「それも分からないの」

「困ったわね。梨佳の為にも学校に戻ってくれないか」

「なにそれ」

「貴志、梨佳がお兄ちゃんは中卒だと言われるようになったら可哀そうよ」

「梨佳は貴志が自慢なの。梨佳の自慢のお兄ちゃんであって欲しいの。だから学校に戻ってくれない」

「梨佳のために学校に戻るのですか。なにそれおかしな話」

「貴志これ以上お母さんを困らせないでくれない」

「・・・」

 その日の夜遅く、貴志は一人で深夜の街を歩いていました。何処に行く気もなく歩いていました。まるで夢遊病者のように精気がありません。自分はどうしたいいのだろうか、それが分かりません。

 学校を辞めたら働かなければなりません。今の彼に働く勇気などありません。そうかといって学校に戻る勇気もありません。

 貴志は母の泪を見ました。そして妹が心配していると言ってまた母が泣きました。それからどうすることも出来ずに家を出てきました。

 しばらく歩いて通りすがりに公園がありました。そこでブランコに座りました。それからベンチを見つけてそこに座り直しました。

 十月になり日中は暖かかったですが、さすがにもう秋です。それも深夜になり肌寒くなってきました。

 それでも貴志は動きませんでした。彼は行くあてがないのです。家を出てだいぶ時間が過ぎました。

 それまで貴志は寒さに我慢していましたが、それに耐えられずに立って歩き出しました。

 とりあえず家に帰ることにしました。自分が何処を歩いているのか分かりませんでした。それでも歩いていました。

 そこに小牧警察の巡回パトカーが深夜一人で歩いている貴志を見つけました。中村巡査部長は貴志を見て不審に思いました。そこで同乗の鈴木巡査長にパトカーを止めるように指示しました。

「君、こんな時間にどうしたのですか」

「はい、家に帰る道が分からなくなってしまいました」

「それでは一度パトカーに入って下さい」

「はい」

「それでは名前と住所を言って下さい」

「柏木貴志、小牧市東田中○○・・・」

「どうしてこんな夜更けに歩いているのですか」

「はい、家で母と言い争って家を飛び出しました。でも悪いことはしていません」

「それでは家の電話番号を教えて下さい」

「家には電話はありません。お母さんの携帯は・・・ちょっと待って下さい」貴志は携帯電話から母の携帯電話を教えました。

「それではお母さんに電話してみますね」そう言って鈴木巡査長はメモした番号に電話をしました。

「もしもし、柏木さんですか。私小牧警察署の鈴木と言います。今街で貴志君を補導しました。彼が家に帰る道が分からなくなったと言っていますが、家で何かあったのですか」

「すいません、貴志が何かしましたか」

「いえ、彼は何もしていません。だから安心して下さい。それでお母さんと言い争ったと言っていますが、大丈夫ですか」

「はい大丈夫です。警察に間に入ってもらうような問題ではありませんから大丈夫です」

「そうですか、それなら貴志君を自宅まで送りますから待っていて下さい」

「分かりました」

「それでは自宅に帰りましょう。家は東田中の県営住宅ですね」

「そうです。今思い出しました。地図アプリを立ち上げれば帰れますね。そしたら一人で帰れます」

「貴志君、歩いてきたのでしょう。だったらこのまま家まで送ります」

「分かりました。ボーとしていてどこか分からなくなっていたのです。すいませんでした」

「それではシートベルトを掛けて下さい」それからパトカーはサイレンを鳴らさずに静かに貴志の家まで送りました。

そして、家に着き母に確認して直ぐに帰って行きました。

家に入ると母の花菜はテレビを消して独りで貴志の帰りを待っていました。

「貴志もう落ち着きましたか」

「分かりません。寒くなってきたから戻ってきました」

「そう、今日はもう風呂に入って寝なさい」

「お母さんごめんなさい。自分でどうしたいいのか分からなくなって・・・」

「いいのよ、もう何も考えないで風呂に入って寝て頂戴」

「お母さん・・・」

「今日はもういいの。さあ風呂に入ってさっぱりして寝なさい」貴志は母に押されて風呂に入る支度にかかりました。

 

 貴志は陽斗が毎日のように電話をしてくれていましたが、それを無視して出ませんでした。

 でも母の泪を見た翌日、陽斗から電話があり、それに出ました。

「貴志君どうしたのですか、電話に出ないから何かあったのか心配しました」

「陽斗君は僕を心配してくれるのですか」

「そうです、君を心配しているのは僕だけではないよ、他にも沢山の人が心配しているよ」

「嘘だよ、僕なんかもう学校行ってないよ。その僕を誰が心配するのですか」

「貴志君、僕二日前から学校に行き始めました」

「そうなの」

「そうです。eスポーツクラブを学校に作って堂々とゲームをすることにしました。そのためにまず文化祭でプヨプヨ大会を行うのです。そこで成功してクラブ設立に向かうというのがストーリーです。」

「学校にeスポーツのクラブを作るのですか」

「そうだよ、僕のクラスの桃山君が今日eスポーツクラブ設立の要望書を書くと渥美先生に言っていました。」

「本当にeスポーツクラブをつくるのですね」

「そうだよ、二年生の高橋さんと太田さんがいるのです。それでクラブを作る為に十一月の文化祭で第一回桃花台高校プヨプヨeスポーツ大会をやるのです。その実行委員を集めているのです。そこに貴志君も加わって欲しいのです」

「そうなんだ」

「貴志君、驚かないでよ、Aクラスのひきこもり女子の橋本さんも僕と同じように学校に出てきてクラブを一緒に作るというのです。女子が仲間にいるのですよ」

「本当ですか」

「それで貴志君に相談があるのです」

「何ですか」

「貴志君は学校に戻る気がありますか」

「僕はどうしていいのか分からないのです」

「まだ悩んでいるのですね」

「学校を辞めるのか、学校に戻るのか。もうどうにでもなれという感じです」

「それでね、桃山君が貴志君に会いたがっているのです。君と一緒にプヨプヨ大会とeスポーツクラブで作りたいから相談したいそうです」

「僕をeスポーツクラブに誘ってくれるのですか」

「そうだよ。一緒にやろうよ。だって桃山君はゲームをしないのですよ。その人がeスポーツクラブを作ろうと走りまわっているのです」

「何のためにそんなことをしているのですか」

「彼は先輩からイジメを受けていて苦しんでいたのです。それを部長の高橋さんがイジメの現場の写真を撮って生徒会に持って行きイジメの告発をしました。

 それがあって九月初旬までイジメを受けていたのです。そして、再び虐められている現場を生徒会の巡視隊が発見して桃山君はイジメから解放されたのです。

 そこで彼を救った高橋さんがeスポーツクラブを作りたがっていたのです。桃山君は助けてもらった恩があるからクラブを作るのに手伝いをしているのです。

 そのためにはまず全校生徒にeスポーツを啓蒙し理解させるのです。それでプヨプヨeスポーツ大会を計画します。桃山君は団体戦と個人戦をやりたいと言っていました。

 貴志君、彼はいい人ですよ。だから一度会って欲しいのです」

「陽斗君がそこまで誉めるという事は信用できる人なのですか」

「貴志君、彼が僕を救ってくれたのです。彼は打算でやっているのではありません。困っている人を助けてくれたのです。先ほどの女子も健太君の彼女の助けで戻ってきました。

 桃山君は自分がイジメに遭っていたからその苦しみを知っているのです。

だから不登校で引きこもりの生徒はゲームが趣味になる。だったら不登校生の趣味のゲームが学校で出来ればいいでしょう。 

 ゲームというツールで学校に来て欲しいのです。ゲームが学校で出来れば家にいなくって学校に戻ってこられるでしょう。

 それにeスポーツの全国高校大会があるのです。その全国大会に出場を目標にするのです。

 貴志君、遊びでゲームをするのではないですよ。スポーツとしてゲームをしようとしています。それを貴志君も考えて下さい」

「eスポーツクラブですか。スポーツでゲームをするのですね。なぜか信じられませんよ」

「そう思うでしょう。今日の放課後にその要望書の話を聞いて嬉しくなりました。

正式にクラブとして活動できるのはまだ先ですが、クラブを作るところから参加出来て僕は感動しています。女子がいるのもいいです」

「陽斗君は変わったね」

「そうですか。そのためにまず文化祭のプヨプヨ大会を成功させたいのです。その為に人が必要なのです。だから手伝って欲しいのです」

「陽斗君が明るくなったような気がします」

「ありがとう。まだまだクラブは簡単には出来ないと思いますが、いい勉強の場です。だから貴志君も早く出てきた方がいいですよ」

「そうですか」

「桃山君は、本校は進学校だからテレビゲームクラブはいらないという反対意見が、必ず出るそうです。

 その反対意見に負けない考えをこれから皆で相談するのだと言っていました。だから文化祭のプヨプヨ大会は大事なのです。そのクラブ設立の可否がプヨプヨeスポーツ大会に掛っているのです。」

「進学校の当校にテレビゲームクラブは必要ないですか」

「もう反対意見まで予想しているのですか。すごい人ですね」

「だから早く出てきて桃山君と意見を交わしてみれば分かります。彼は同じ一年生ですが大人の香がします」

「そう言う人がいるのですね」

「その桃山君が、貴志君と僕と三人で話がしたいからどこかで会いたいというのです。貴志君の家がまずいなら、僕の家でもいいし、イオンでもいいけれどね。学校が終わった頃にどうですか」

「僕にそこまで構ってくれるのですか」

「貴志君をeスポーツクラブに入れて全国を目指すのですよ。貴志君が一人でするのではないですよ。クラブの団体戦で全国大会を目指すのです。だから今はゲーマーを集めているのです」

「陽斗君はその夢に賭けているのですね」

「貴志君も不安から悪いことばかり考えていて、もうどうにでもなれと思っているのでしょう。

 僕もそうでした。そこから考え方を少し変えれば楽しくなるのです。そうすれば出来るのです。そして、貴志君全国大会の夢を一緒に見ましょう」

「今から桃山君に電話して会う機会を作ります。場所はどこがいいですか」

「桃山君の家はどこですか」

「彼の家は確か桃花台の夢ヶ丘でした。だから遠いですよ」

「そうだね、陽斗君は味岡でしたね。それなら僕が陽斗君の家に行きます」

「分かりました。僕の部屋でしましょう。それでは一度電話を切りますね」

「はい」そこで二人は電話を一度切りました。

 そして、陽斗は健太に電話を掛けました。

「陽斗君、どうかしましたか」

「柏木貴志君が、僕の家で三人で会うと言ってくれました」

「そうですか。やったね」

「ありがとう、それで会う段取りです」

「そうだね、明後日ではどうですか。学校から陽斗君の家までどの位ですか」

「二十分ぐらいです」

「それなら四時に陽斗君の家でどうですか」

「いいです。それでは貴志君に連絡します」

「お願いします」健太はバイトがありますが、明後日はバイトがありません。

 翌日健太は、バイトがありますが視聴覚室には顔を出しました。しかし、陽斗と明日の件を打合せしただけで帰りました。

 視聴覚室に残った二人の一年生は桃山が早く帰って行くことに疑問を持ちました。そこで先輩に聞くことにしました。

「高橋さん、桃山君は何故早く帰って行くのですか」

「明日本人から聞いて。彼がeスポーツクラブの設立に手伝う条件があるのです。

その条件は誰にも口外しないという約束です。だから、それを破ったら彼はクラブを辞めるそうです。

 その為に僕らから言えません。彼は週の半分くらいしかクラブに顔をだしません。その分家で資料を作ってくれています。」

「そうなのだ。明日本人から聞きます」

「そうして下さい」

「それでは今日は、文化祭のプヨプヨeスポーツ大会の団体戦と個人戦のルールを決めましょう。桃山君の考えは、今年の国体のいばらき大会で使われた公式チャレンジコースを使いたいそうです。

 渥美先生が職員会議でeスポーツクラブの件を議論すると言っていました。先生の中でも賛成と反対があるのです。

 そこで文化祭でeスポーツの実績を作ればクラブ設立の道が開けます」

「ではまず、僕たちがスマホでそのプヨプヨeスポーツをやってみましょう」

「そうですね、僕たちが知らないのでは進みません。ではスマホを出して下さい」 高橋はまず自分たちでやってみることにしました。

 翌日の放課後、健太と陽斗は部活を休むことは、昨日伝えてありますから視聴覚室には行きません。

 秋の夕暮れ時、二人は自転車で陽斗の家に向かいました。それで途中の三ッ山会館の交差点で貴志と待ち合わせました。

 彼はそこに先に来て待っていました。二人は初対面ですので健太は自転車を下りて貴志に挨拶をしました。

 それから陽斗を先頭にして三台の自転車は直列に並んで走りだしました。

 そして、陽斗の家に着きました。健太は玄関で大きな声でお邪魔しますと挨拶して陽斗の後に続きました。

 これで彼の部屋に入るのは二度目です。でも貴志は陽斗の部屋に入るのは初めてです。

「桃山君は昨日の部活の時に早く帰りましたが何かしているのですか」

「もう気が付きましたか。困りましたね。ここだけの話にして下さい。絶対に人に話さないで下さいよ」

「先輩も言っていました。人に言うと彼は部活を辞めると言われました」

「そうです。僕は九月初旬までバレー部の先輩からイジメに遭っていました。

 それで怖くなって逃げたくなってどうしようも出来なくって悩みました。学校を辞めたくなりました。

 そこで学校帰りにバイトを始めました。僕はイジメから逃げるためにバイトを週の半分ほどしています。働く時間は五時から八時頃までやっています。

 僕はイジメに会う前に満員バスで女子大生から痴漢に遭いました。そこで股間を弄ばれました。モノすごく悔しかったです。でも僕は、痴漢ですと言えなかった自分が歯がゆかったです。

 そして、一学期は嫌なことばかりありました。それでイジメや痴漢をした人に復習したくなったのです。そこで考えました。誰か分からない人に復讐するにはどうすればいいのですか。

 それは分かりませんでした。でも悔しいから僕は勉強して偉くなって世の中に復讐するのです。そのためには勉強して大学に行くことが先だと思いました。そこで僕は大学の法学部を目指します。

 そのためにはお金がいるのです。家は貧乏で親父もサラリーマンでお金もありません。親は高校出て市役所で働けと言っています。大学に行くのはダメだと言われました。そこでアルバイトしてお金を貯めないと入学金などがありません。だから平日のバイトを九月から始めました。

 でも学校は平日のバイトは禁止しているのではないですか。それがバレルと困りますから黙っていて下さい。僕にとってクラブよりバイトを優先したいのです」

「健太君も苦労しているのですね」

「でもね、陽斗君イジメを受けていた頃は本当に死にたかったです。あの頃の嫌な思いからしたらクラブを作ることの方が楽で楽しいです」

「貴志君も学校休んで家にいたらお母さんに怒られるでしょう。それで自分の部屋から出たくなくなり不登校になって行くのですね。

 そこでゲームして時間を過ごしていて虚しくなりませんか」

「そうです」

「不登校の人はほとんどゲーマーになって行くのです。高校一、二年生の頃は人生で一番楽しいはずの時期です。

 その時期に部屋に閉じこもるなんてもったいないですよ。今は勉強でも遊びでも恋愛でも夢中になる時期なのです。

 陽斗君や貴志君は、その夢中になるモノがゲームです。それがあるのですから、それを思い切り大きな顔をしてやりましょうよ。

 eスポーツクラブという新しいゲーマーの世界が世の中では認可されているのです。それがたまたま当校にないだけです。だからそれを作ればいいのです。作って堂々とゲームをしましょう。

 そこでeスポーツクラブを作り全国大会を目指すのです。全国大会を目指すのですよ。そんなこと考えてもいなかったでしょう。どうです貴志君」

「はい、考えたこともありませんでした」

「陽斗君はどうですか」

「僕も健太君に言われるまでゲームは一人でするものだと思っていました。

しかし、この二、三日クラブの先輩や先生を紹介されて、真剣にクラブを作ろうとしている姿を見て、そこに自分の名前も入っているのを知って嬉しくなりました。

それで全国大会の夢が見られるようになりました。そのためにも文化祭のプヨプヨ大会を成功させたいです」

「僕はゲームをしません。僕のイジメから解放されるキッカケを高橋部長がイジメの現場の写真を撮ってくれたことから始まりました。開放されるキッカケの恩人が高橋、太田の二人の二年生なのです。 

 そして、eスポーツクラブの設立に手伝いを要請さ今があるのです」

「貴志君が仲間に入ると六名になります。そしてメンバーの募集をすれば何人か入ってくると思います。貴志君一緒に全国大会を目指しませんか。その前に十一月の文化祭のプヨプヨeスポーツ大会を成功させましょう」

「貴志君一緒にやろうよ」

「僕でいいのですか」

「ゲーマーの貴志君と一緒にeスポーツをやりたいのです。僕も勇気を出して学校に戻りました。今度は貴志君が勇気を出して学校に戻って下さい。

 そして、まずプヨプヨeスポーツ大会の実行委員会をやりましょう」

「ありがとう。僕も中退するか学校に戻るかで悩んでいました。僕の家はお母さんが離婚してお父さんがいないのです。

 そのお母さんが夜泣いているのです。貴志、学校に戻って下さいと泣いて頼むのです。

 妹まで学校に戻ってと頼むのです。戻りたいのですがキッカケがなくって・・・ごめんなさい。泪が出てきました」

「貴志君、不登校の生徒は大なり小なり皆同じ思いをしているのです。皆仲間です。安心して下さい」

「陽斗君ありがとう」

「今まで我慢してきましたが、クラブが認可されれば思い切りゲーム出来ます。

 でもね、目指すのはスポーツクラブですから、遊びではありませんからね。全国を目指すとは厳しさも必要です。そこは理解して下さい」

「分かりました。でもうちのような進学校にテレビゲームの進化版のeスポーツクラブが出来るでしょうか」

「それは皆思っています。だから文化祭にプヨプヨ大会をやり成功させたいのです。そのゲームは、プヨプヨスポーツといってeスポーツです。

 貴志君、早く学校に戻って一緒にその準備委員会をやり、eスポーツクラブ設立の為に頑張りましょう」

「はい分かりました。もし学校にクラブができれば家でゲームをしなくなり、学校に行くのが楽しくなりますね」

「そうです。だからなるべき早く学校に来て下さい。それで来たら僕か陽斗君に声を掛けて下さい」

「はい、宜しくお願いします」

「陽斗君、喉が渇きました。お母さん言ってジュースか何か出ませんか」

「はい了解です」そう言って陽斗は部屋を出ていきました。

「貴志君、一日一回笑って下さい。笑うとリラックスしてきますよ。もう肩肘張って生きていかなくっていいのです。

友達ですから何あったら言って下さい」

「分かりました」

「この部屋を見て下さい。陽斗君はゲーム命の人です

「本当ですね。羨ましいですね」そこに陽斗が飲み物を持って入ってきました。

「貴志君、僕は健太君に会ってから考え方が変わりました。今までは親が不倫して自分のことしか考えていないのが分かりました。

 そんな親が許せなかったのです。親への反抗で不登校になりました。でもそれは間違っていました。自分の人生を親のせいにして逃げていたのです。自分の人生は自分で決めていかないといけません。

 そこに気が付いたのです。すると世界が明るくなってきました。そしてeスポーツクラブで頑張ろうという目標が出来ました。

 これも健太君に出会ってからです。健太君ありがとう」

「ぼくも健太君を疑っていました。健太君は自分の為ではなく、僕らの為に説得してくれているのですね。

 僕が道に迷っていたので地図を見て、行き場所を確かめなさいと言ってくれたのです。疑ってすいませんでした」

「二人とも何を言っているのですか。お通夜ではないですよ。さあ笑って楽しくなりましょう」

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