第12話 不登校生の救済(4)

 菊地陽斗は、九月初めに二日登校しましたがその後休むようになりました。昼夜逆転の生活が治らず高校に行っても授業中に眠くなって起きておれません。そのために休むようになりました。

 陽斗が高校を休み出したので渥美先生が陽斗に電話しました。夏休みのゲーム三昧の生活環境を正常に戻せないのが原因と知りました。そこでお母さんに学校を休んでいることを伝えて生活環境の指導をお願いしました。

「陽斗部屋から出てきなさい」

「うるさいなあ、ほっといてよ」

「なにを言っているの、今日渥美先生か電話がありました。学校を何時まで休むつもりなのですか」

「いいでしょう、ほっといてよ」

「陽斗、出てきなさい」

「・・・」

「陽斗、出てきなさい」

「・・・」

 お母さんは息子が言う事を聞かないから興奮しています。そこでお父さんが帰ってくるのを待つことにしました。

 しかし、お父さんの陽彦はその頃、看護婦の大藪倫代とデートを楽しんでいました。そのために帰りは今夜遅くになりそうです。

 お母さんの紗希は陽彦が帰ってこないので益々興奮のボルテージが上がりました。普段はいない方が清清するといって相手にしないのです。

でも今日ばかりは先生から電話を受けてから母親のメンツが潰れました。そのために怒りだしています。

 そして、父親が不在なのも原因にあると一人勝手に責任を父親の陽彦に被せようとしているのでした。

 陽斗が高校に行かない原因は家庭環境にもあるように思われました。それで陽彦が夜中に帰宅すると紗希は居間で待っていました。

「あなた、こんな時間まで何をしていたのですか」

「お母さん、今日に限って何を言うのですか」

「あなたは陽斗の父親でしょう。陽斗のことを少しは見ていますか」

「お母さん、何があったのですか」

「あなたが遊びほけているから陽斗も遊びほけて学校に行かなくなりました。今日担任の渥美先生から電話がありました。陽斗が不登校になっています」

「ほんとですか」

「あなたは陽斗の事を何も知らないのですね」

「なぜ不登校になったのですか」

「知りませんよ、自分で確かめて下さい。私には理由を言ってくれません」

「分かったよ、今から陽斗の部屋に行ってきます」陽彦はそう言って陽斗の部屋に向かいました。

「陽斗、起きているのでしょう。出ておいで」

「・・・」

「陽斗、出ておいで」

「なによ、何時だと思っているの」

「いいから出ておいで」

「いやです。ほっといてよ」

「陽斗、何故高校に行かないのですか」

「お父さんには関係ないでしょう」

「いいから出ておいで」

「陽斗、お母さんよ、出て来て頂戴」

「うるさいなあ、ほっといてよ」

「陽斗出てきなさい」

「・・・」

「陽斗出てきなさい」

「・・・」

 結局陽斗は部屋から出てきませんでした。お父さんとお母さんはその後、責任のなすりつけ合いで夫婦喧嘩が始まりました。

 そして、翌日も陽斗は高校に行きませんでした。


 桃山健太はeスポーツクラブ設立に向けて文化祭にプヨプヨ大会をやります。その企画書を先生に相談してから、クラブ設立の為の要望書を書く必要があるのではないかと思いました。なぜならクラブ設立の要望書があって、その中でeスポーツの啓蒙活動として文化祭のプヨプヨ大会があるのです。

 ところが、プヨプヨ大会の企画書が先に動き出してクラブ設立の要望書に手を付けていません。だからそこにもアクションを起こす必要を感じました。

 ある日、視聴覚室で健太は渥美先生から菊地陽斗が九月から学校に来ない不登校になっていることを聞かされました。

 健太は彼と同じクラスですから机の主人がいないことは分かっていました。それを見て寂しい気持ちになっていました。

 渥美先生は、八月の夏休みにラピオのイベントホールでeスポーツの対戦ゲームが、あった際に菊地君と隣室の生徒の柏木君と二人で見に来ていたことを伝えました。

 そこで二人はeスポーツに興味を持っていることを知り、ゲーマーだという事も分かりました。そこで健太eスポーツクラブに彼らを参加させることを考え始めました。そこで彼は先生から住所と電話番号を聞きました。

 健太は高校で新しいクラブを作るには簡単には行きません。なによりもeスポーツという聞きなれない名前を知らせるのが先と思いました。

 そして、テレビゲームは娯楽としてする遊びですが、eスポーツは対戦をして勝敗をつけるのを目的としています。多くの人が誤解しているこの違いを知らせたいと思いました。

 そこで今年の秋の文化祭に第一回プヨプヨeスポーツ大会を考えました。そのプヨプヨゲームはほとんどの人が知っています。

 今年の茨城国体から正式な種目にもなりました。だからもう若者を中心にメジャーな話題になっています。

 そこで文化祭にプヨプヨeスポーツ大会が、成功すればクラブ設立の道が開けると考えているのです。そのためにも一緒に動いてくれる仲間を集める必要を感じているのです。

 そこで健太は、菊地陽斗の家に一度行って、学校に戻る気があるかを聞いてきますと言いました。まずは本人と会って相談するのが先決と思ったのです。

 渥美先生から陽斗の電話と住所を聞いた日の夜に健太は陽斗に電話をしました。電話は家電ですので最初はお母さんが出ました。

 それから少し待って陽斗が電話に出ました。そこで彼に携帯電話の番号を聞いて掛け直すと言いました。その方が陽斗にとってはもめ事が少なくなると健太が気を使ったのです。

 そして、健太は携帯電話に掛け直しました。彼はバイトのない日に陽斗の家に行くから部屋に入れてくれるかと聞きました。

 健太は、陽斗にこのまま不登校になってはいけないから会って話がしたいと伝えました。それからゲーマーの彼にプヨプヨeスポーツ大会の話しをしたいのです。

健太はeスポーツを通して彼を救いたいという気持ちがありました。それで明日の夕方お邪魔することにしました。

 翌日、建太は学校が終わってから菊地陽斗の家に向かって自転車を進めました。陽斗の家は小牧市内の名鉄電車の味岡駅の近くでした。

 健太は四時過ぎに陽斗の家のチャイムを押しました。そして玄関からお母さんが出てきました。そこで挨拶をして家に上がりました。

 陽斗は部屋から出てきませんでした。そこで健太は陽斗の部屋にノックして入れてもらいました。

 部屋に入って健太はビックリしました。大きなモニターが二台あります。それを見てこれはゲーム用だと直ぐ分かりました。そして、彼はネトゲだと思いました。

そのことを陽斗に聞きました。陽斗は学校に行っていない日はネトゲを専門にしていると言いました。

 もちろんその機器でネットも見られます。彼の室内にはパソコンからゲーム用の機材まで沢山のモノで溢れています。

「陽斗君お久しぶり。元気そうで安心しました」

「なぜ健太君がここに来たのですか」

「はい、渥美先生から相談を受けて、先生が自宅に来るよりか友達が来た方が話しやすいだろうということになったのです」

「それで要件は何なのですか」

「はい、渥美先生から陽斗君がゲーマーだと聞きました。そこでゲーマーの君に助けてもらいたいことがあるのです。

 今僕は二年生から頼まれてeスポーツクラブを設立するために走り回っているのです。でも新しいクラブは簡単に出来ません。

 そこでこの秋の文化祭で、第一回桃花台高校プヨプヨeスポーツ大会を企画して、クラブ設立の下地作りしたいのです。その為に陽斗君に手伝って欲しいのです」

「ええ、eスポーツクラブを作るのですか」

「そうです。そのためにクラブ員になってくれる仲間を探しているのです」

「本当ですか。本当にeスポーツクラブを作るのですか」

「そうです。先日二年生の高橋さんと二人で渥美先生の処にeスポーツクラブを設立するためにはどうしたらよいかを相談に行きました」

「そうなのだ。ところで健太君もゲーマーなのですか」

「ごめんなさい、僕はゲーマーではありません」

「ではなぜeスポーツクラブを作るのですか」

「はい、話すと長くなりますが聞いてくれますか」

「はい教えて下さい」

「僕はバレー部を六月に退部しました。それは部内にイジメがあったからです。それが嫌で退部したのですが、その後もその先輩から何度もイジメを受けるようになったのです。

 ・・」それから先輩にイオンで何度も虐めを受けて高橋、太田の二人に助けられたことを簡単に話しました。

「僕は、二人にはイジメから解放されるキッカケを作ってくれた恩がありましたので断れませんでした。そこで今はそのお手伝いをしているのです」

「そうなのだ。健太君も苦労しているのだね。僕はまだイジメに遭ってないからよかったです。でも僕は両親と上手くいってないからね。それが嫌になってゲームの世界に入ってきました」

「それは家庭問題ですか。それならどうしようも出来ませんね」

「父も母も自分のことばかり言って僕のことはどうでもいいのです」

「陽斗君、そんな投げやりにならないでください。自分の不登校を親のせいにしないで楽しく生きることを考えてください。

 そして、高校一,二年生は受験勉強も必要ですが人生で一番楽しい時期なのです。その時に楽しむのを辞めて引きこもるなんてもったいないです。

 それともゲーマーの陽斗君は現実から逃げてゲームの世界に生き場所を求めているのですか。現実は家庭問題があり自分の居場所がないのですか。だから、もう一つのゲームの世界、ネトゲに自分の居場所を探したのですね。

 陽斗君、現実から逃げないで下さい。陽斗君はゲームが好きだからeスポーツクラブの仲間になりませんか。学校にクラブを作って皆で楽しもうよ。

 その為にはまず全校生徒にeスポーツについて、説明と啓もう活動をしたいのです。そこで皆が知っていて今年の国体で正式種目になった、プヨプヨeスポーツで考えました。

 そして、それを秋の文化祭でプヨプヨeスポーツ大会としてやりたいのです。今はそれを成功させたいのです。その為にゲーマーのメンバーを探しているのです。」

「健太君はそこに僕を誘ってくれるのですか」

「そうだよ。陽斗君、家で一人するよりも学校に行って皆でeスポーツをやろうよ。そこでまずはプヨプヨeスポーツ大会を成功させて、そしてeスポーツクラブを作り全国高校大会を目指そうよ」

「eスポーツ全国大会があるのですか」

「そうだよ、高校の全国大会が昨年から始まりました。そして今年の茨城国体から正式な種目になっています。

だから、遊びではないよ、スポーツとしてゲームをするのです」

「すごいですね。学校でeスポーツクラブを作るのですか。信じられません。夢のような話です。健太君、ありがとう。少し楽しくなりそうです」

「僕はゲーマーではないから一緒にプレイできるかどうか分かりません。でもクラブを作る為に仲間集めをしているのです」

「偉い仕事を任されたのですね」

「ありがとう、そこで君の友達の柏木貴志君を紹介して下さい。彼もネトゲの仲間でしょう。だから、彼にもクラブに参加して欲しいのです」

「いいですよ、後で彼と相談します」

「お願いします。僕が彼の家に出向くのか、または陽斗君が誘ってくれるなら嬉しいですけれど」

「僕から誘ってみます」

「お願いします。僕の携帯の番号はこの前電話したから分かりますね」

「はい、もう登録しました」

「ではこれで帰ります。早く学校に戻って来て下さいね。今年の文化祭まであまり時間がありません。

その為にプヨプヨeスポーツ大会の実行委員として一緒に手伝って下さい。そして、それが成功すればクラブを作る見通しが経ちます」

「それでプヨプヨ大会の実行委員をやるのですか」

「そうです、まずはそこから始めます。実行委員といっても裏方の仕事です。

そこでクラブを作る生みの苦しみから一緒に手伝って下さい」

「分かりました。僕は引きこもりから抜け出る灯りが見えてきました」

「ところで陽斗君のお父さんは医者ですか」

「そうですけれど何かありますか」

「もし陽斗君がクラブに入ってくれるなら、君の父さんにパソコンを学校に寄付してくれるように頼んでくれませんか」

「まだ半年ぐらい先になると思いますが、eスポーツをクラブでするパソコンがないのです。そこで裕福な家庭から寄付をお願いしたいのです」 

「そんなことまで健太君の仕事なのですか」

「ごめんなさい、パソコンがなければeスポーツができないからです」

「健太君、ありがとう。モヤモヤが晴れたような気がします。

パソコンの件は、親父に言います。僕が学校に行くと言えばそれを寄付してくれるでしょう」

「ごめんね、嫌な話をさせて」

「いいのです。健太君が家に来てくれて良かったです。ありがとう」

「陽斗君早く学校に戻って来てよ。貴志君の件はラインで教えて下さい。では」

「ありがとう。バイバイ」

 陽斗は健太が帰ってから考えました。確かに家で一人するゲームよりも学校で好きな人が集まって部活でゲームが出来たら楽しいと思いました。健太君はそのクラブを作ろうと誘ってくれたのです。陽斗はそれを思い嬉しくなりました。

 進学校の桃花台高校にeスポーツクラブを作るなんて夢のようです。今自分が不登校になっていることを忘れて陽斗はウキウキしてきました。


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