第10話 不登校生の救済(2)

 数日後、美咲は健太に相談を持ち掛けました。健太は平日週に半分ほどバイトしています。そのために家に帰ったら電話をして下さいとラインを入れました。

 そして、九時過ぎに健太から美咲に電話がありました。

「美咲何か相談でもあるのですか」

「美咲のクラスの橋本日菜子さんが九月になって不登校になったのです。五月から六月に言葉の暴力を受けて苦しんでいたのをしずくが助けたのです。

 それからは言葉の暴力は無くなりました。それで安心していたのですが、九月から高校に来なくなったのです」

「不登校になったのですね」

「そうです。それで先生にも相談して電話を掛けてもらいました。すると本人は電話に出ないのです。そこでお母さんに聞いてもらったら構わないでくださいということでした。

 それでしばらく様子を見ることにしました。それから先日しずくが電話しても出ませんのでお母さんから聞いてもらいました。彼女は引きこもり状態になってしまいました」

「そうなのですか、不登校ですか」

「それでこのままではいけないと思い日菜子の家に行こうとしたら日菜子が会いたくないというのです。そこで止まってしまいました。

 これではいけないから健太さんに相談してみようと思いました」

「それは困りましたね。もう引きこもり状態になってしまいましたか。

 でも一度は家に行かなければダメでしょうね」

「そうですね、彼女の家は岩崎町です。ここからだと少し遠いです」

「はい、こまめに電話して家に行く機会を作るのが先決ですね。本人と会って話をするのが大事だと思います」

「分かりました。しずくに根気よく電話をさせます」

「そうさせて下さい。もし行くのなら美咲が自転車で行くと思うから行く前に声を掛けて下さいね」

「健太さん、ありがとう」

「美咲、おやすみなさいの前にスマホのプヨプヨのゲームをしますか」

「そのゲームなら時々しますが、それが何かしたのですか」

「それがeスポーツなのです。テレビゲームで勝敗を競うのをeスポーツというのです。それでは、スマホを持っている人はプヨプヨのゲームを知っている人が多いのですね。そのクラブを先輩が作りたがっているのです」

「健太さんは、そのプヨプヨのクラブを作るのですか」

「いやeスポーツクラブを作る為にプヨプヨを利用することを考えていたのです。

 美咲、ありがとう。おやすみなさい」

そして、九月下旬になりました。しずくは、最近日菜子のことを話題にしなくなりました。

 彼女は返事が来ないラインを入れるのも無駄と思うようになりました。 

「しずく、最近日菜子に電話していますか」そこに美咲が問いかけてきたのです。

「電話もラインも返事が来ないからもう疲れました」

「そうなのだ。相変わらず引きこもっているのでしょうか」

「そうです、引きこもりです」

「しずくも疲れたのですね。それでは今度は私がラインをしてみます」

 それで美咲が日菜子にラインをするようになりました。しかし、美咲がラインを送ってもやはり日菜子は返事をしませんでした。

 美咲はそこで先日健太さんがいった、今が人生で一番楽しい時だよね。三年生になれば受験が始まるからこの一年生と二年生の時を楽しく生きることを考えないと人生が面白くないよね。

 その言葉を思い出しました。そこでそのことを日菜子にラインで送りました。一緒に人生を楽しみましょう。だから日菜子に協力するからねと付け加えました。

すると思いもせずに日菜子から美咲に返信がありました。

「どうしたら人生が楽しくなるのですか。もう人生なんて考えないよ」

「違うよ、日菜子、私たち友達です。人生は一人じゃないの、友達とワイワイガヤガヤして笑いながら生きていけばいいの」

「なにそれ」

「肩肘張らずにリラックスして笑っていればいいのよ。私たちは箸が倒れただけで笑う年頃ですよ。そのことわざを日菜子も知っているでしょう」

「なにそれ」

「日菜子も十六歳でしょう。毎日笑っていますか」

「もう随分笑ってないわ」

「それでは可哀そうね、何も考えずに今から笑ってごらんなさい」

「ワッハハ、笑ったよ」

「笑うと不思議に楽しくなるでしょう」

「面白いです。美咲の話面白いね」

「今度日菜子の家に遊びに行きます」

「家に来るの」

「後で地図見てから行く日を連絡します」

 その後で美咲は日菜子とラインが出来たことをしずくに伝えました。

 そして、美咲は日菜子の家に遊びに行くことを伝えました。しかし、しずくは美咲に今は自分が落ち込んでいて調子が悪いから任すと言ってきました。

 そこで美咲は少し考えて健太に電話しました。

「健太さん、土日はアルバイトが休みですか」

「日曜日は休みです。それでどうしたの?」

「日曜日に日菜子の家に行くから道案内をお願いしたいのです。彼女の家は市内の岩崎町です。少し遠いから一緒に行って」

「岩崎町か、小牧アリーナの近くで少し遠いなぁ」

「そこで私が日菜子の家に一人で行くから、その間はコンビニか岩崎公園で待っていて下さい。終わったら電話します」

「恋人の美咲の頼みだからしょうがないなぁ。それで日曜日の何時にするのですか」

「お昼御飯を食べたら行きたいから午後一時に健太さんの家に行きます」

「はい、分かりました」

 それから美咲は、日菜子に日曜日の午後二時前に家に遊びに行くとラインしました。

 そして、日曜日になりました。

 美咲は日菜子の家に行くのに制服で行くのを避けたかったのです。彼女の気持ちを考えたら私服で行ったほうが、気が安らぐと思ったのです。だから、土日で行く日を決めたのです。

 それで昼ご飯を食べてから健太と美咲は自転車で市内の岩崎町にある日菜子の家に向かいました。美咲は健太に道案内を頼みました。

 健太はその日は何も予定がないからイイよと言ってくれました。二人はいつも学校に行く道で国道百五十五号を西に向かって走りました。そして小牧原の交差点を直進して二つ目の交差点を右折していきました。

 そこから先は健太に任せました。健太は携帯マップを見ながら走っています。

しばらくして二人は二時前に日菜子の家に着きました。そして家に入って行くのは美咲一人です。健太はコンビニや公園で暇つぶしをすることになっています。

 美咲は日菜子の家のチャイムを鳴らしました。するとお母さんがドアを開けて迎えてくれました。そこで挨拶をしてから日菜子の部屋に入れてもらいました。

「日菜子元気ですか、心配していました」

「ありがとう、美咲が笑いなさいと言ってくれたから笑っていたら、何故かリラックスしてきたの」

「そうよ、私たちは十六歳なの、箸が倒れてだけでも笑う年頃よ。だから今は笑うのが仕事の年頃なの」

「美咲に言われるまで分からなかったわ。でも笑っただけでこうも自分が変われるのかと思ったら、また笑えてきたわ」

「そうなの、それならもう大丈夫ね。よかったわ」

「ありがとう美咲、それで人生で一番楽しい時だからとは誰に言われたのですか」

「ええ、実は彼なの」

「そうなのだ、もう彼がいるのね」

「そんなんじゃないわ、彼とは小学校からの幼馴染よ」

「そうなの、羨ましいわ」

「彼は高校一、二年の頃が一番楽しい時期だって。その時期に不登校なんてもったいないよ。今を精一杯生きようというの。

 彼が言うには勉強でも遊びでも恋愛でもいいの。夢中になれるものを探して楽しもうと言うの」

「美咲の彼氏は面白い人なのね」

「彼は六月にバレー部止めてイジメに遭っていたの。それで悩んで苦しんでいたの」美咲はその後の彼のことを詳細に日菜子に話しました。

「日菜子もイジメを受けた経験があるから分かるでしょう。その時は落ち込んで悩み苦しんだでしょう」

「美咲、そのことはよく分かるわ」

「だから日菜子も早く立ち直って一緒に笑えるようになりましょう」

「そうね、美咲ありがとう」

「・・・」美咲は部屋の中を見渡しました。

「あまり見ないで頂戴、恥ずかしいわ」

「日菜子、そのモニターはネット用ですか」

「これはゲーム用です」

「日菜子はゲーマーなのですか」

「そうよ、ロールプレーイングゲームが好きなの。ファイナルファンタジーやドラドンクェスト等を主にしているの。でも恥ずかしいから黙っていてね」

「はい、すごいね。道具も揃っていて本格的ね」

「そう、学校に行かない時はゲームしていたから」

「そう言えば、私の彼を助けてくれた先輩が、彼にeスポーツクラブを作るから手伝うように言われているの。日菜子はeスポーツって何か分かりますか」

「もちろん知っているよ。eスポーツクラブを作る話があるのですか」

「そうよ、その前に文化祭でプヨプヨ大会をやりたいと言っていました。日菜子はプヨプヨをやりますか」

「もちろんやります。十一月の文化祭にプヨプヨ大会をやるのですか。

それは楽しそうね」

「彼がeスポーツクラブを作りたいのだけれど、その前にeスポーツの普及をさせるのが先だそうです。そこでクラブを作る一環で、まずはプヨプヨeスポーツ大会を文化祭でやりたいの。でも今はまだ彼が思案中です」

「そうなの、プヨプヨ大会ですか

 プヨプヨ、プヨプヨ・・・」日菜子は軽快に歌いだしました。

「そうよ、そこで団体戦と個人戦を考えています。またそこに先生も選手で参加させたいと言っていました。

 まだ彼の頭の中で検討中です。だから黙っていて下さいね」

「はい、でもすごいね、先生もプヨプヨをするのですか」

「先生が参加するかどうかは分かりません。でも彼は先生もプヨプヨします。だから仲間に入れたいと言っていました」

「美咲の彼ってすごいことを考えるのですね」

「でも彼は、その大会をするために裏方の実行委員がいないから困っています。

 日菜子は学校に戻って彼の手伝いをしませんか」

「ええ、私がですか」

「そうよ、プヨプヨ大会が成功すればeスポーツクラブを作るのです。その時には日菜子も仲間になるのでしょう。

 だったら今から彼に手伝ってください。そしたらクラブが出来るのが早くなるかもしれないです」

「そうなの。でも私学校に行きづらいわ」

「何を言っているの、まだ休み始めて一ヶ月でしょう」

「それはそうだけれど、恥ずかしいわ」

「でも仕方ないでしょう、今まで休んでいたのだから」

「そうね、美咲ありがとう、前向きに考えるわ」

「そうよ、そして一日一回は笑うのよ」

「eスポーツクラブが出来たら友達が一杯できるからね。そしたら彼氏も直ぐにできるよ。だから何時までも落ち込んでないで笑顔の練習をするの」

「なにそれ」

「日菜子も女子でしょう、彼氏が欲しいでしょう。だから笑顔の綺麗な女子にならないといけないよ」

「そうなの」

「彼氏ができると世界が変わるから。そのために一日一回笑って、鏡の前で笑顔の練習をするのです。私もしています」

「そうなの。彼氏ができるのですか。

私がもう少し元気になったらまた教えて下さい」

「はい、そうします」

「美咲ありがとうね。ところで美咲は桃花台でしょう。自転車で来たのですか」

「はい、自転車で彼にここへ連れて来てもらいました」

「そうなの。では彼は外で待っているの?」

「日菜子が心配しなくっていいの。彼はコンビニか公園で待っているわ。帰りに電話して一緒に帰ります」

「美咲はラブラブなのね」

「ありがとう。今日はこれで帰りますから。

日菜子、笑うのですよ。そして、早く高校にきてね。それから夜ラインします」

「ありがとう、美咲に会えて元気が出てきたわ。気を付けて帰って」

「はい、今から彼に帰りますとラインします」

それから美咲は玄関に下りていきました。もちろん日菜子が後ろから付いてきます。その物音でお母さんが出てきました。

「お母さん、日菜子さん元気になりました」

「ほんとうですか、日菜子どうしたの」

「美咲が笑って生きていこうと勧めるから笑う事にしたの。そしたら肩の荷が下りてリラックスしてきたの。美咲本当にありがとう」

「美咲さんありがとうござました」

「じゃまた」日菜子親子は美咲を送り出しました。

「日菜子、美咲さんが元気にしてくれたのですか」

「そうよ、家でゲームしているよりも学校にテレビゲームのクラブを作るからそこでゲームしましょうと誘ってくれたのです」

「学校にテレビゲームをするクラブを作るのですか」

「そうよ、eスポーツというの。今年から国体の正式種目になっているの」

「ええ、国体でテレビゲームをするのですか」

「お母さんは、もっと勉強して下さい。お父さんが帰ったら聴いて」

「プヨプヨeスポーツというのが正式なゲーム名です」

「あのスマホのプヨプヨですか」

「そうよ、あのプヨプヨです」

「そうなの。でも日菜子が元気になってくれるなら母さんは嬉しいわ。それでは美咲さんに感謝しなければいけないね」

 美咲は玄関から出て自転車の前で健太に電話をしました。健太は既に日菜子の家の近くまで来ていました。それを待って二人は帰路に着きました。

「お待たせしました。会って話をしていたら日菜子が元気になりました。

 よかったわ」

「それはよかったね」

「ほんとはね、笑いなさいと言って笑わせていたの。日菜子は笑っていたら肩の荷が下りてリラックスできたのね。それから元気になってきたわ。

 これでよい方向に行くといいのですが、それで彼女が来週から高校に来るかどうかが注意しています。」

「美咲、日菜子の家に来てよかったね。会って話をすれば分かりあえるのです」

「ところで健太さんにはよい話があります。」

「何ですか」

「日菜子はゲーマーでした。大きなモニターでゲームをしていました」

「そうなんだ」

「それで健太さんがeスポーツクラブを設立するために頑張っている話をしました。そこで十一月の文化祭のプヨプヨ大会の話もしました。すると彼女の目が輝きだしたの。」

「それでは彼女をメンバーに誘わないといけないね」

「そうね、彼女の為にも健太さんから誘って下さい」

「分かりました。彼女が高校に出校してくることを期待しています」

「彼女をお願いします」

 その日の夜、美咲は日菜子にラインで明日は高校に出てくるようにラインしました。そして、明日の授業の科目を伝えました

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