第9話 不登校生の救済(1)

 九月中旬になりました。しずくは日菜子に電話しても出てもらえない日々が続きました。東田先生に相談したらしばらく様子を見ましょうと言われました。

 そこで日菜子の家に電話してお母さんと話しました。お母さんから日菜子は不登校状態になっていることを聞きました。

 そこでしずくは美咲に電話して相談しました。

「美咲ごめんね、日菜子とは相変わらず連絡が取れないの」

「そうですか、しばらく待ちましょうと言ってから一週間たちましたから次の行動を考えましょう」

「そうね、どうしましょうか」

「しずくは日菜子の住所を知っていますか」

「はい、電話番号を聞く時に一緒にメモしましたので分かります」

「よかった、後からラインで送って下さい。それによっては家に行きましょう」

「そうね、ちょっと待ってね。住所を書いたメモを探します」

「もう待っている場合ではありません。このまま一ヶ月過ぎたらクラスで日菜子のことを忘れられてしまうわよ。そうならない為にも何とかしてあげたいわ」

「美咲、日菜子の住所は小牧市岩崎町です」

「岩崎ならしずくの家の近くでしょう」

「私の家は小松寺だから美咲の桃花台よりかは近いです」

「しずく一人で日菜子の家に行けますか」

「ええ、一人で行くのですか」

「私も一緒に行った方がいいなら行きますけれど」

「それやあ一緒に行って欲しいけれど、日菜子が会ってくれない場合もあるからね」

「じゃ今から日菜子の家に電話してお母さん経由で聞いてもらうからね。また後で美咲に電話します」

「はいお願いします。じゃ待っています」美咲はそう言って電話を切りました。それから携帯マップで岩崎町が何所か調べました。

 しずくの家は小松寺と以前聞いていました。岩崎町は小牧アリーナの方向になります。つまり美咲の家からは遠くになります。

 三十分程して、しずくから電話がありました。しずくは、お母さん経由で聞いてもらいましたが日菜子は会いたくないそうです。そこで日菜子の家に行く話は中座してしまいました。

 このままでは日菜子はクラスから抹消されてしまいます。そうなれば復帰が困難になります。二人はそれだけは避けようと思って悩み苦しんでいます。


 健太は二人の先輩の頼みでeスポーツクラブの参加に加わるように相談を受けました。健太はその問題にそろそろどうするか決めなければなりません。健太の考えは、九月から平日バイトをしていますので積極的な参加はできません。

 しかし、先輩はイジメから解放される手助けをしてくれました。彼には、その恩がありますから無下に断れません。

 そこで彼は考えました。それは新しいクラブを作る為には初期参加のメンバーが必要です。簡単に言うと頭数要員をそろえなければなりません。そのための参加ならばしてもいいと思いました。

 建太は、今はイジメから解放されて自分の将来について考えました。このままでは何も将来が開けてきません。

 そこで親は彼を高卒で市役所に勤めさせたいのですが、健太は大学に行ってから市役所に勤めるのが良いと考えました。

 でも大学に行くには親を説き伏せるか、自分で金を稼いでその金で大学に行くかのどちらかです。そこで彼は後者の考えで大学に行くことにしました。

 これからは大学進学に向かってお金を稼がなければなりません。それで九月から勤労センターで継続して仲居のアルバイトをしているのです。

 しかし、受けた恩は返さなければなりません。そこでバイトを優先するのかクラブを優先するのかで悩み出したのです。

 そして、考えた結果がバイト優先でいきたという事です。その答えで二人の先輩は許してくれるでしょうか。それともまた新たなイジメにならければいいのですが、一抹の不安を抱えています。

 でもそこまで考えたら後は、彼らから声を掛けてくるのを待つことにしました。ともかく自分の考えをまとめました。

 それから数日後です。高橋先輩から声が掛りました。それで今日の放課後に視聴覚室に来るように言われました。

 その視聴覚室はパソコンルームです。健太は放課後すぐ出かけました。すると時を同じくして二人の先輩が入ってきました。

 そして、三人は窓際の机に座りました。それから直ぐに前に進められたeスポーツクラブの設立の話になりました。

 そこで健太は素直に家の事情で親が、高校出て市役所に就職するように言われていることを言いました。

 しかし、自分は今回のイジメを受けて、彼らに復讐したいから、大学に行って勉強したくなりました。このままでは人生の負け犬になってしまいます。

そこでかれは彼らに復習をしたいのです。ここで彼らとはバレー部のことではありません。世の中のイジメなど理不尽なことを何度か経験してきました。それらに対してです。

 今の世の中ではイジメに会う、弱い人をなくすためには大学を出て、ある程度の地位を目指さないと自分の主張を通せないからです。

 そのために僕は大学に進学したいのです。そこで九月初めから既に平日の夕刻にアルバイトを学校に内緒で始めました。

 その後に先輩の行為で生徒会が動いてイジメから解放せれました。その時にはすでにアルバイトを始めていたのです。その為にeスポーツクラブ設立の為にバイトを辞めることは出来ません。

 健太はそこまで説明して二人の顔を見ました。それから自分はゲーマーではないことを言いました。

 テレビゲーム機は家にあるが、熱中してゲームをしたことがないことを付け加えました。

「桃山君は一年生でそこまで自分の考えを持っているのですか。驚きました」

「そうだね、桃山君はすごいね。ちゃんと自分の考えを持っているのだね」

「僕はイジメに会う前に満員バスの中で痴漢に遭いました。ぼくが痴漢をしたのではなく、女子大生と思われる女子から股間を弄ばれて悔しい思いをしました。

でも僕は痴漢ですと言えなかった自分が悔しかったです。そしたら今度は部活を辞めたら先輩からイジメを受け始めました。

 嫌なこと、悔しい思いを続けてしてきました。悪いことをしても捕まらなければよいのですか、何かがおかしいと思いました。

 それでも高校には来ました。来るのが怖かったです。でも逃げるのは負けです。それが嫌で無理して登校しました。」

「桃山君、君がそこまで考えてくれて嬉しいです。君がゲーマーではないのに誘ったことは反省します」

「桃山君はすごい人ですね」

「でも設立までは頭数もいるし何かと人がいるのです。例えばクラブ設立の資料作りやメンバーの勧誘などをするのに人がいるのです」

「僕がゲーマーでないのを承知してくれてバイトに支障をきたさない範囲でのお手伝いなら参加します」

「桃山君、それでいいから手伝ってくれないか」

「僕が平日アルバイトをしていることは学校には内緒にする条件です。それを破れば退部しますから、そこは了解して下さい」

「太田君いいですか」

「了解しました」

 新しい組織を作りたい。そのためには組織の目標や維持継続させるためのルールや決めごとを作らねばなりません。

「桃山君にも話しておいたほうがいいと思うから言います。

 僕たちはeスポーツクラブを作るのに最初は同好会から始めたらと考えました」

「そうです、いきなりクラブを作るよりも同好会からならすんなりいくのではないかと思いました。

 しかし、同行会から始めるとパソコンなどeスポーツを始める機材を用意するお金がありません。同行会では初期投資の資金援助が期待できません。それでは団体で行うeスポーツができません」

「スマホによるeスポーツ位しか出来ません。それでは団体戦の楽しさが薄らぎます」

「僕たちはスマホによるeスポーツがしたいのではありません。だから機材を揃えて同好会ではなく部活・クラブとして活動を始めたいのです」

「高橋さん、クラブになれば機材を校費で揃えることが出来るのですか」

「それはまだ分かりません。ただ同好会よりは資金援助を受けやすくなります」

「高橋君部活と同好会の違いを説明して下さい」

「はい分かりました。

 部活は学校が正式に認め、予算も付く活動です。その為に規律も厳しく、かなりレベルの高い成果を求められます。

 それに対して同好会やサークルは、好きな者が集まり好きなようにやる集団です。学校からの援助は少なく、メンバー構成は開放的で、規則も緩やかなのです。それだけに成果は一般に低い特徴があります」

「桃山君はそのことは分かりますね」

「はい、そう言う事ですね。部活と同好会の違いは分かりました。それで先輩達は部活として設立を目指しているのですね」

「そうです」

「うちの高校は、生徒会の規約などで決まっています。その手続きについては、次の三点が必要です。」

①、部員が既定の人数以上揃うこと

②、活動場所が確保できること

③、顧問を引き受けてもらえる先生が確保できること

 そして、次に部活が継続できる組織になっていることが求められます。この三点のうち③は渥美先生がいますからよいですが、①と②がまだ見えていません」

「そうですか、まだまだ先は見えていないのですね」

「そうです、だから桃山君に一緒にやって欲しいのです」

「先輩の話は分かりました」

 そして、頭のお堅い先生方を納得させるための資料を作成する必要があります。高橋は渥美先生とクラブ設立について相談をしたいので桃山君も参加して欲しいと言いました。  

 彼はまず設立までの手順表(工程表)を作りたいのです。その辺の話は渥美先生に相談にのってもらいたいのです。

 そこでこの領域を桃山君に手伝って欲しいと伝えました。それを受けて健太はバイトに支障をきたさない範囲で協力をすると言いました。

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