第8話 現場写真
八月下旬、桃山健太は出校日の帰りにイオンでバレー部の先輩に会いました。
健太は、先輩に気が付いたので避けて行きたかったのです。しかし、彼らが前に来たのでどうすることも出来ず、思った通り男子トイレに連れて行かれました。
「おい桃山、久しぶりだなあ。だいぶ日焼けしているな。どうしたのだ」
「はい、バイト焼けです」
「バイト焼けって、何をしていたのだ」
「プールの監視員をしていましたので焼けたのです」
「桃山、どこのプールでバイトしたのだ」
「勤労センターのプールです」
「そうか、若い女性が沢山いて鼻の下伸ばしていたのだろう」
「違います。子供プールですから、子供ばかりです」
「そうか、嘘ついているのだろう」
「本当ですよ。若い人は、来ませんでした」
「まあ、プールの監視員ならいいか」
「ありがとうございます」
「それでプールで姉ちゃんと出会いでもあったか」
「ありません」
「それじゃ女出来なかったのか」
「はい」
「プールで出会いがない訳ないだろう」
「ありません。一緒に働いた大学生の先輩は色々していました。
でもぼくは、何もできませんでした」
「本当か」
「はい」
「でも桃山は一年生だろう。アルバイトしていいのか」
「いいです。
それに近所のおばさんに頼まれたから仕方なかったのです」
「そうなんだ」
「まあいいや」
今日はそんなありきたりの会話をしていました。しかし、彼らは先輩風を吹かせています。それに上から目線で桃山を見降ろして楽しんでいる様子でした。
彼らからは虐めの認識を少しも感じませんでした。今日はこれで終わり特に酷い虐めはありませんでした。
でもその虐め光景を遠くから見ている人がいました。それは二年生の高橋紳一と太田秀作が見ていました。二人にはこれは虐めの現場だと直ぐに分かりました。そこでこの光景を携帯電話の写真で数枚撮りました。
そして、学校が始まったらこれをどこかに相談します。それで彼を助けてやらなければいけないと思いました。
健太は一人で我慢することしかできません。だから耐えるしかないのです。それで自分がいつまで耐えられるかを心配するようになりました。彼は虐めが嫌で部活を辞めたのです。その彼が虐めに遭ってなぜこんな思いをするのでしょうか。彼の心は再び病んでいきました。
九月初旬に健太は再び先輩から虐めに遭いました。今日彼はイオン二重掘店三階の本屋と百円ショップに用事がありきました。
すると本屋でバレー部の先輩達に出会いました。そしてまた彼は北側にあるトイレに連れ込まれました。
健太は、震えながら今日はしゃべらないつもりです。
「桃山今日は本屋で何しているのだい」
「桃山、万引きしているのかい」
「それともエロ本を見ていたのかい」
「・・・」
「お前今日もだんまりを通す気か」
「・・・」
「面白いじゃないか、それでは少し痛い目にあいたいのか」
「・・・」
黙っている桃山に二人の先輩がかぶさってきました。
それで健太は恐怖を覚えました。
「お前怖がっているのか。
心配するな、暴力は振るわないからな」
「バン、バン」先輩が健太の顔の隣の壁に手を打ってきました
「・・・」健太は壁ドンに恐怖で震えていました。
「何震えているのだよ、怖いのか」
「・・・」
「誰だ」
そこに生徒会の役員が入ってきました。健太はそれが生徒会の役員だとは知りませんでした。それに何故彼らがここに来たのかも分かりません。
「バレー部のあなた達は彼に虐めをしているのですね。
今日は虐めの現場を確認しました」
「なんだよあんたたちは」
「私たちは生徒会の見回り隊です。バレー部が退部者に虐めを行っていると告発があったのです」
「俺たちは何もしていませんよ」
「トイレに連れ込んで彼を取り囲みました。これでパワーハラスメントとして虐めになるのです」
「虐めなんかしていません」
「この状態で虐めを認めないのですね」
「では今日は写真を撮りましたから明日先生に見てもらいます」
「そこで虐めがないと分かれば問題になりません。
でも貴方たちは今回だけではないのでどうなるでしょうか」
「会長、今日は全員の写真を撮ってありますからこれで終わりましょう」
「西沢さん、彼らの名前を控えて下さい。
そこの被害者の彼の名前です」
「分かりました」
「君の名前とクラスを言って下さい」
「桃山健太、一年Bクラスです」
「加害者はバレー部のみなさんですね」
健太は見回り隊から名前を聞かれて、少し問診を受けました。それで彼らより先に解放されました。でも彼は何があったのかよく分かっていません。
なぜ生徒会の役員が、今日この場に来たのでしょうか。彼はそれが分からないのです。でも健太は虐めから解放されましたので素直に帰ることにしました。その後バレー部の人達がどうなったかは分かりません。
その翌日、健太は朝の授業の際に担任の渥美先生から放課後に残るように言われました。
渥美先生は皆の手前その理由を言いませんでした。でも健太は昨日イオン二重掘店での虐め問題だと思いました。そこで理由を言わなかったのは渥美先生の配慮があったのです。
そして、放課後になりました。渥美先生が教室に来て二人だけのカンファレンスを受けました。
「昨日、バレー部による虐めを生徒会の役員から報告を受けました。
その報告によると虐めは何度もあったと聞きました。それは本当なのですか」
「はい、バレー部は虐めが普段から常態化しています。でも彼らはそれを虐めと認識していません。
僕の思うには、虐めが伝統的に行われていました。それは部活の初めに二年生からお説教として暴言を受けていました。それが嫌になって部活を辞めました。
するとイオンやラピオで彼らと出会うとトイレに連れ込まれて虐めを受けました」
「退部したのは何時ですか」
「六月中旬です」
「それで何度も虐めを受けていたのですか」
「はい、怖い思いをしました。それを打ちあげると報復があると思い黙っていました。でも暴力はありませんでした。それだけが救いです」
「そうなのですか、何度も虐めに遭っていたのですね。よく耐えてくれましたね」「はい、高校を辞めることや自殺についても考えました。でもそれは最後の手段です。その前に夏休みにアルバイトをして忘れたかったのです。でも八月の出校日にまた虐めに遭いました」
「そこに偶然二年生がいて異常な行動を見て写真を撮りました。
先生はその時の写真を見ました。そこで虐めが告発され表面化したのです」
「ちょっと待って下さい。
ぼくがイオンで虐められていた時に先輩が写真を撮っていたのですか」
「そういうことです。
桃山君、これでバレー部の先輩からの虐めは終わりましたから安心して下さい」
「そうですか、ありがとうございます。これでゆっくり寝られます」
「桃山君は強いから耐えられたのです。その虐めに耐えられずに不登校になり引きこもりになって行く生徒が沢山います。
ところで夏休みのアルバイトは何をしたのですか」
「はい、勤労センターのプールの監視員です」
「それで虐めから救われましたか」
「はい、バイト中は夢中で働きました。その間は全てを忘れることができました。
僕はバイトしてよかったです」
「桃山君、君は強い人だよ。先生は安心しました」
「ところで虐めの現場の写真を撮った人は、誰ですか」
「それを聞いてどうするのですか」
「どうしましょうか、お礼を言うべきですか」
「そうだね、その先輩は二年生の高橋君と太田君です。
昨年私のクラスの生徒でした。彼らには私から感謝していたと伝えます」
「ありがとうございます」
「今度一度会う機会を作りますよ。桃山君はテレビゲームをしますか」
「はいします。プレステーションなど家にはあります。
でもゲーマーではありません。ただ好きなだけです」
「そうですか。テレビゲームの進化したゲームでeスポーツを知っていますか」
「はい、名前だけしか知りません」
「私は夏休み中にラピオのイベントホールで行われたeスポーツの現場を見ました。
そこに先に言った二人と一年生の二人が見に来ていました。それで五人でイベントの対戦ゲームを見て感動しました。
その二年生の二人が写真を撮った二人です。
それと一年生の一人はこのクラスの生徒の柏木君です。彼は最近休みがちですが彼も一緒に見ました」渥美先生はeスポーツについて見たことを熱く語りました。
「先生はゲーマーなのですか」
「私はゲーマーではないですが、ゲームが好きです。ともかく先生は桃山君が虐めにあって心配していました。そこで最悪のことにはならずに済みそうでよかったです」
「先生ありがとうございます」その日はそれでカンファレンスを終えました。
それから数日後、健太は二年生の高橋と太田から声が掛りました。
彼は相談があると言って校庭の隅のベンチに連れて行きました。
「君が桃山君ですか」
「はい桃山健太です。虐めを止めてくれてありがとうございました。おかげであれ以降虐めは無くなりました」
「そうですか、虐めはなくなったのですね。よかったね。
ぼくが高橋で彼が太田です。渥美先生からすでに紹介されていると思いますが、宜しく」
「はいありがとうございます。おかげで助かりました」
「それで今日は桃山君に相談があるのです。それはeスポーツクラブをこの学校に作りたいのです。そこで君にクラブ設立に参加してくれると嬉しいのですが」
「え、eスポーツクラブですか。ぼくはまだeスポーツについて知りません。
だから急にそんな話をされても困ります」
「そうだね、君の言う通りだよ。
まあこの場で答えを出してくれとは言わないから安心して下さい」
「桃山君は先日まで虐めに遭って悩んで苦しんでいました。そこで悩み苦しみ、どうしていいか困っていたと思います。
だから今は新たに部活をするなんて考える余裕もないと思います。だから驚いていると思いますが、今日は話だけでも聞いて下さい」
「はい分かりました」
「僕たちはテレビゲームが大好きです。ある意味二人はゲーマーです。そのテレビゲームが進化したのがeスポーツです。テレビゲームの発祥の日本ではまだなじみが薄いのです。
でも世界では対戦ゲームとしてeスポーツが盛んになっています。すでにプロのゲーマーが沢山います。
僕たちは、プヨプヨなど一人でするテレビゲームは除きます。グループでの対戦ゲームを行うためにeスポーツクラブを作りたいのです。今はそれをする仲間を集めています」
「それで今は何人位参加者がいるのですか」
「まだこの二人だけです。
これからゲームをする人を集めてクラブを作りたいのです。
そこに渥美先生を巻き込んでやって行こうと考えているのです」
「そうですか、まだ本当に考えだした処なのですね」
「そうです。それと渥美先生から当校は進学校だからテレビゲームをするクラブ設立には反対意見が多くあるから大変だと言われています。
でも僕たちはネトゲのゲーマーとして既に全国で多くの学校にクラブがあることを知りました。だから無理なことではないと思っています」
「そうですか、進学校にテレビゲームクラブはいらないと言う意見が多いのですか。それは分かります。先輩はそれを知ってクラブを設立したいのですね。
では少し考えさせて下さい。今は虐めから解放されたばかりです。だからまだ心の整理が出来ていません」
「それはそうだね」
「桃山君、ゆっくり静養して下さい」
「ありがとうございます。クラブの話は考える時間をください。お願いします」
「家に帰ったらネットでeスポーツについて調べて下さい。
すでに日本の中で、多くの高校でクラブが出来ているのですね」
「それに昨年からeスポーツの全国高校大会が開かれているのです。それに国体の種目にもなるのです。これからのゲームの世界がこのeスポーツになると思います」
「桃山君がeスポーツをもっと知ったら面白くなると思います。だからゆっくりと考えて下さい」
「お願いします」
その日の夜、健太は美咲に先輩からの虐めが解決したことを報告しました。そしてeスポーツクラブを作りたいから参加しないかと誘われたことも伝えました。
「美咲、僕は虐めから解放されて嬉しいです」
「健太さんよかったね」
「僕は虐めを受けていた三ヶ月が地獄の日々でした。
美咲には言えなかったけれど最悪のことも考えました。でも、もうそれも終わりました。これからどうするか、何を目的に生きるかを考えてみます」
「それで先輩から誘われたeスポーツクラブについてはどうするのですか」
「それをこれから考えるのです。
でも平日のバイトを始めたばかりですから悩んでいます」
「バイトのことは学校には内緒でしょう」
「そうだよ、秘密です。
美咲と二人だけの秘密ですからね」
「はい、分かっています」
健太は久しぶりに余裕を感じました。これまでは虐めを忘れようとわざともがいていました。それからやっと解放されました。
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