第7話 eスポーツクラブ設立への誘い(2)

 七月下旬、高校一年生の夏休みが始まりました。陽斗は夏休みの計画はありません。だから自宅から出ずに好きなゲーム三昧の生活をして過ごします。

 夏休みの初めは普段と変わらない生活を送っていました。しかし、日ごとに夜起きていて昼間寝るという生活時間の昼夜逆転化が始まりました。

 母の紗希は息子のダレタ生活を怒りました。陽斗はその母を相手にしませんでした。そのために紗希は自分の生活を息子の為に変えようとしませんでした。

 そこで紗希は相変わらず家を空ける日が多くありました。それをだれも干渉しませんでした。つまり菊地家は放任主義の家族なのです。

 陽斗は曜日に関係ない生活でゲーマー生活をエンジョイしていました。時々ラインで貴志とする程度です。彼とはシューティングゲームを好んでしました。

 大学への進学校の桃花台ですが、そこに通っている二人は頭の中に受験生として勉強することが無くなりました。

 このふしだらな生活は落ちこぼれのサインなのかもしれません。でも当事者の二人にはその感覚がありません。

 陽斗の中に何かが欠けていきました。その思いは貴志も同じだと思いました。多分それは二人の生きる目的が、無くなってしまったのです。

 彼の周りには多くの友達が勉強して大学を目指す者がいます。そして、クラブ活動に精をだして頑張っている者も沢山います。

 でも陽斗と貴志にはその目指すモノがないのです。今の二人にはそれがテレビゲームだけなのです。

 柏木貴志の家は母子家庭です。母が中学一年生の時に離婚しました。そのために母は正社員になって働いています。

 だから、家では男は貴志が一人です。彼には中学生の妹が一人います。しかし彼は陽斗と同じように荒れた生活になっていました。

 彼は母に暴力をふるいませんが、家族との会話をしなくなりました。

ある日、陽斗から次の日曜日に小牧駅前のラピオのイベントホールでeスポーツをするから一緒に見に行かないかとラインが来ました。

 それを見て貴志はもちろん行きますと返信しました。唯一の友達の陽斗が好きなゲームのことで誘ってくれたのです。

 そして日曜日、小牧駅前のラピオのイベントホールは盛況でした。そこに陽斗と貴志の他に桃花台高校からは渥美先生と二年生の高橋紳一と太田駿作もいました。

渥美先生は高橋と太田を見つけて直ぐに声を掛けました。彼らとは去年の担任だったので顔見知りの中です。

 そこで渥美先生は今のクラスの陽斗を見つけて声を掛けました。陽斗は少し驚きましたが挨拶をして、貴志を渥美先生に紹介しました。

 それで五人は一団となってイベントホールの前の席を取り、そのイベントに夢中になりました。それぞれ好きなモノは見て楽しいでいます。

 今回は一チーム三人制です。左右にチームが分かれていました。そしてそれぞれのチームはユニホームとして揃いのポロシャツを着ていました。

 右側に席には、赤いユニホームを着たグループがいます。その中に髭を生やしてサングラスをしたお兄さんがキャプテンのようです。

 反対側の左にいるグループは黒いユニホームを着ていました。そして一人女性が入っていました。その女性が綺麗に見えました。それは、夢中にゲームしている姿が美しく感じたからなのでしょうか。

 ゲームのタイトルは分かりませんでしたが、三回ほどゲームをして赤いユニホームのグループが勝利しました。

 イベントが終わって渥美は二年生の二人と一緒にお茶をしに行きました。陽斗達も誘われましたが二人で行きたいと言って辞退しました。

 渥美は三階の喫茶店に二人を連れて入りました。そして、珈琲をオーダーしました。

「高橋君と太田君がここに来るとは想像していませんでした。二人はeスポーツに興味があるのですか」

「ええ前からeスポーツに興味を持っていたのです。ぼくは小学生のころからテレビゲームをしていました。そこでテレビゲームの進化がeスポーツだと思っていました」先に高橋が応えました。

「僕もゲームが趣味で生きてきました。中学も高校もクラブ活動はしませんでした。もっぱらネットとゲームで生きてきました。

 だから高橋君から今回のイベントに誘われたので喜んできました。そして、これを見て益々eスポーツをやりたくなりました」

「そうですか、実は先生もゲーマーなのです。春に名古屋のデパートのイベントでeスポーツを見る機会がありました。そこで久しぶりにゲームに暑くなりました。」

「先生がゲーマーとは思いませんでした」

「先生だって人ですから皆さんと同じものをしたくなるのです」

「そうですか、それを知ってほっとしました」

「イベント見たいにユニホームを揃えているだけでもカッコよく見えますね」

「見た目の印象が良くなりますね」

「そうでしょう、チームプレイで勝敗がきまるのですからね」

「そう言う意味ではスポーツと名前が付くのが理解できます」

「チームプレイとコミュニケーション能力に、自律神経と反射神経などが、要求されますからまさにスポーツなのですね」

「渥美先生、eスポーツの全国高校大会が昨年から始まったのを知っていますか」

「知っているよ、今年もエントリーが始めっています」

「うちの高校にこのクラブを作ることは可能でしょうか」

「高橋君、君はクラブを作りたいのですか」

「はい皆でやれば楽しくなりますよ」

「ぼくも高橋君と同じ考えです。出来たらクラブを作りたいと思います」

「そうですか、今日は皆に会えて来て良かったです」

「先生、一年生の二人も興味を持っているようでしたから仲間に加われば何とかならないでしょうか」

「分かりました。少し考えてみます」

「お願いします」

「いいですか、うちの高校は進学校ですからeスポーツクラブを作るとなるとハードルは高いでしょうね。進学校にテレビゲームクラブは必要ないと考える先生というか反対派が多いのは事実です」

「そうですね、eスポーツをテレビゲームと思う人が多いと思います。まずゲームをやらない人には分かりませんよね」

「そこが第一のハードルでしょうか。高橋君と太田君少し時間を下さい。これからいろいろと調べてみます」

「お願いします」そう言って三人は散会しました。

その頃、陽斗と貴志は二階の休息スペースで座り込んでいました。

「貴志君、僕はeスポーツをする機会があったらやってみたくなりました。貴志君はどうですか」

「ぼくも同じです。一人でするゲームよりもユニホーム着てチームで戦うゲームを一度やってみたくなりました」

「そうだね、かっこ良かったよね」

「ぼくもそう思う」

「でもこのイベントに渥美先生が来ているのには驚きました」

「渥美先生もゲーマーなのでしょうか」

「僕はそう思います。渥美先生は若いからゲームをやっていると思います」

「ゲーマーは臭いで分かるのでしょう。僕らと同じ匂いがしましたよ」

「それなら先ほどの二年生の二人もゲーマーなのでしょうか」

「僕はそう思います。彼らも同じ匂いがしました」

「分かります。テレビゲームの次に来るモノに皆さん興味があるのです」

「そうです、次に来るのがeゲームなのです」

「同じ高校でeスポーツに興味を持っている人が他にもいることを知って良かったですね」

「そうですね仲間なのですね」

「同じ匂いがする仲間なのです」

「そういう人と出会えて今日はよかったです」

「僕も同じです。今日ここに来てよかったです」

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