第6話 eスポーツクラブ設立への誘い(1)

 桃花台高校一年生の菊地陽斗(はると)の父陽彦は名古屋市内にある精神科病院の医師です。数年前から患者が増え出して多忙な日々を送っています。

 陽彦が忙しいのは仕事に名前を使い看護婦と浮気をしていることにも原因にあります。陽斗は父の帰りが何時も遅いことに不審を覚えました。週末も家にほとんどいません。それは家を避けているように思えたからです。

 それに母の紗希は友達付き合いといっては家をよく出ていきます。そのため家には祖父母が留守番をするのが日課になっていました。

 陽彦は自宅が小牧市内です。彼は車通勤をしていますので朝早く夜遅いのです。そして週末は病院に出勤という名目でゴルフをしています。陽斗には、日焼けして帰宅する父が病院で仕事しているとは思えません。

 そのために家族で過ごす時間はほとんどありません。陽斗が中学生になってからは家族で出かけることも亡くなりました。

 ましてや祖父母も入れて家族全員で食事をすることは最近ではありません。朝食と夕食は父親が食卓にはいません。いないことが自然になっていました。

伯父の陽介は七十歳になります。祖母は六十九歳です。二人とも今は元気で介護を必要としていません。

 陽斗は一人っ子で祖父母に育てられました。母は、幼稚園、小学校の役員仲間と友達付き合いが多く家にいない時間が多いのです。

「陽斗はお父さんと話を最近していますか」陽介が夕食の時に声を掛けました。

「最近顔を見ていません」

「そうか仕事が忙しいのですね」

「お父さんの病院は近年患者さんが増えてきたそうよ」

「そうなの、精神病院に患者が多いという事はどういうことでしょうか」

「陽斗はお父さんに嫌味な言い方して何かあるのですか」

「お母さん、嫌味ではありません。病院が流行っているのでしょうか、患者が増えているのでしょうか」

「それは病院が流行っているからだと思います」

「そうならいいですけれど」

「お爺さんの頃は精神病院というと敷居が高かったのですが、今は精神科も内科も同じなのです。昔のような偏見が無くなりました」

「お爺さんの言う通りですよ。今はどこの病院も患者さんが多いのですから」

「それで待合室で待つ時間が増えたのですね」

「お婆ちゃん、病院に行くと何時も待たされるのですか」

「そうよ、病院は待つのが当たり前になってしまいました。長く待って診察時間は三分ですからね」

「おばあさんの言う通りだよ。年寄の患者ばかり増えているからね」

「でもお父さんの病院は、土曜日は休みではないのですか」

「陽斗、午前中は診療しているのですよ」

「そうなのだ、休みと思っていました」

「何を考えているのですか」

「日焼けして帰ってくるからゴルフと思っていました。すいませんでした」

「陽斗、お父さんを信用しなさい」

「すいませんでした」

 陽斗は父の顔をしばらく見ていません。だから寂しさもあって少し皮肉を言ってしまいました。それをお母さんは聞き流しました。

 それで陽斗には一人で塾に通い友達も出来ませんでした。だから中学校で軽い虐めに遭っていました。

 それは、彼の寂しさを持つ心に友達が言葉の暴力でののしりだしました。でも彼は医者の息子です、母はPTAの役員をしています。

 虐める側はそれを知っていますから強く虐めませんでした。陽斗は、成績はよい方でしたが体育は苦手でした。

 そんな陽斗は、クラスメートから言葉の暴力としてのイジメを受けては、一人自分部屋で泣いていました。

 それを癒すのがテレビゲームをすることです。その時間はゲームの世界に夢中になり全てを忘れることができました。

 そんな病んだ陽斗を父も母も気が付きませんでした。ただ祖父母は陽斗の心の傷に感じるモノがありました。でもどうすることも出来ませんでした。

 陽斗は高校に入ってからも部活動はしませんでした。部活動をする気力がありませんでした。そのために友達も出来ませんでした。

 そして、六月になり高校を休むようになりました。でも続けては休まずに高校には行きました。それで陽斗は学校帰りに市内のゲーム売り場によっては、道草してから帰るのが日課になっていました。

 六月のある日、市内の常普請にある家電ショップの中にあるゲームコーナーで同じ高校の生徒に出会いました。

 彼とはゲームコーナーで何度もあっているので、ある日陽斗から声を掛けたら同じ高校の一年生と分かりました。

「あの君とはこのゲームコーナーでよく会いますね」

「ええ、君もゲームが好きなのですか」

「そうです。ゲーム命です」

「君と同じ制服ですね」

「僕は桃花台高です」

「そうですか、僕も桃花台です」

「僕は一年のCクラスの柏木貴志です」柏木は少し緊張した顔で言いました。

「僕はBクラスの菊地陽斗です」菊地も緊張して言いました。

「僕たちは二人ともゲーム命のゲーマーですね」

「僕は毎日何時間もゲームしています」

「ぼくも同じです」

「最近はスマホのゲームが多くなりましたが、スマホは小さいので目が痛くなりました」

「ぼくも同じです。目が悪くなったのでスマホのゲームは減りました。もっぱらプレステーションです」

「そうです、僕も一緒です。食事以外はゲームしています。だから勉強していません」

「勉強していないのは同じです」

 そして、二人は電話番号を交換して時々ラインで話そうということになり、これからは対戦ゲームを一緒にする約束をしました。

 陽斗にしたら高校には行って初めての友達になりそうです。彼は、友達が出来て何となくほっとしました。

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