第4話 女性の下着売り場は虐めのシェルターだ(1)
一年生の桃山健太は入学した四月にバレー部に入部しました。彼は中学時代にバレー部で活躍していましたから高校でもバレー部に入部しました。
しかし、部内に慢性的な虐めがあるのが嫌になり六月初旬に退部しました。そして、健太は退部して直ぐに部活の先輩から虐めに遭うようになりました。
彼が受けていたのは暴力ではありません。それは先輩に囲まれて言葉による威嚇や脅しによる虐めでした。その為に彼は精神的な苦痛で困っていました。
七月のある日、駅前の複合施設のラピオでバレー部の上級生の集団と出会いました。
そして、一階の広場で取り囲まれてトイレまで連れていかれました。
それから皆に囲まれてから言葉による声の暴力を受けました。
「おい桃山、部活辞めて帰りが早いじゃないか」
「・・・」健太は、囲まれて怖くなって声が出ません。
「早く帰って、一人だけいい格好しているのか」
「いえしてません」
「部活辞めて何しているのだよ」
「何もしていません」
「本当か、遊んでいるのだろう」
「・・・」
「おい、なんとか言えよ」
「・・・」
「お前万引きをしているのか」
「万引きはしていません」
「本当か」
「本当です」
「桃山、偉そうだよ」
「・・・」
「ドン」先輩が健太に壁ドンをしました。
「桃山、お前なにをビビっているのだよ」
「・・・」健太は恐怖で顔色は白くなり震えていました。
「おいこら、調子に乗るなよ」
「・・・」
「それとも女が出来たのか」
「違います。女はいません」
「おんなと言ったな、おんなと。お前も偉くなったなあ」
「・・・」
「何故黙っているのだよ」先輩は健太を虐めています。しかし、手だけは出しませんでした。暴力を振るわないのがバレーボール部の掟(おきて)です。
彼等は暴力を振るわないので、虐めている感覚が無いのです。それは部活中に特訓などで罵声を発します。ミスすると罵声にやじも発します。彼等は虐めもそれと同じ感覚なのです。その為に彼等は悪いことをしているという認識が無いのです。
「・・・」
「おい、バイトすると言っていたなあ。それでもうしているのか?」
「まだです。今探しています。」
「何、まだしてないのかよ」
「はい」
「桃山、覚えておけよ、バレー部辞めて平凡にはいかないぞ」
「・・・」
「今度可愛がってやるからな」
「桃山、おい、何ビビっているのだよ」先輩は桃山の顔に近付けて言いました。
「・・・」桃山が何か言えばその言葉尻を捉えて彼らは虐めてきます。
だから黙っていた方が心のけがの程度は少ないと判断したのでした。
「お前、怖がっているのか、怖いのか」
「・・・」
「てめぇ、何とか言えよ」
「・・・」
「覚えておけよ、部活を三ヶ月で辞めて何にもないと思うなよ」
「・・・」
彼が、囲まれて虐められているのを通りがかりの人は、見て見ぬふりしています。その為に誰ひとり止める人はいませんでした。
健太は、白い顔して怯えていました。先輩たちが怖くって声も出ませんでした。先輩たちの言葉の暴力が彼の心に深く恐怖心を植え込みました。
ラピオでの虐め行為が、あってからしばらくは何も起きませんでした。でも彼はバレー部の先輩に虐められたことは、誰にも話しませんでした。もちろん学校でも黙っていました。彼は、虐めに合った事を話すことが怖かったのです。また仕返しに合うのではないかと心配したのでした。
しかし、数週間後に学校近くのイオン二重掘店でバレー部の先輩二人と偶然会いました。そして、また二人は彼を見つけて近寄ってきました。
「あれ桃山じゃないか。お前どこまで行くんだ」
「はい桃花台まで」
「そうかお前も同じ桃花台の人間か」
「はい」
「俺たちの近所じゃん」
「先輩も桃花台ですか」
「そうだよ」
「ところでお前アルバイトしたいと言ってなあ。もうバイト始めたのか」
「いえ、まだです」
「それじゃあ部活辞める時に言ったのは嘘だったのか」
「いえそういう訳ではありません」
「じゃどうしてバイトしないのだ」
「まだバイト先を探しています」
「偉そうに探していますだと」
「・・・」
「バイトならやる気になればどこでもあるよ。そうだろう」
「はい、・・・」
「お前、部活辞める口実に使ったのではないか」
「いえそうではありません。バイトします」
「じゃ何故バイトしないのだ」
「だから今はバイトを探しているのです」
「ほう、それが偉そうなのだよ」
「すいません」
「そうだよ。謝るのだよ。バカ野郎が・・・」
「すいません」
「女は出たのか」
「できません」
「それじゃ早く帰って何をしているのだ」
「勉強をして時々本を読んでいます」
「偉そうに勉強していますだと笑わせるな」
「すいません」
「まあいいや、それなら勉強しろ」
「はい」
健太はイオン二重掘店のトイレでバレー部の先輩二人に囲まれて恐怖に脅えていました。それからしばらくして二人の先輩は彼を放しました。
それで健太はこれで解放されたと喜び、先輩二人が桃花台の人だと知りました
そして、七月初めになりました。
イオン二重堀店の二階の紳士服売り場の奥には紳士物のバッグ売り場があります。
桃山健太は学校帰りに少し寄り道して店に入ってきました。そこで夏休みのバイト用に使うバックを見に来ました。
しかし、そこにバレー部の先輩達がバッグ売り場の隣にあるスポーツ品売り場に来ていました。
「近藤さん、隣のバッグ売り場に部活を辞めた桃山がいますよ」
「あれ、見えないよ。本当にいるのか」
「さっきまで、そこにいました。ちょっと見てきます」そう言って山崎は健太を探しに行きました。
そして紳士服売り場からバッグ売り場に入っていきました。
でも健太は、先にバレー部の人達を発見していました。それで気付かれないように商品棚の影に隠れていました。
「近藤さん、桃山がいませんでした」
「身間違えをしたのではないのか」
「でも確かに桃山でしたよ」
「そうか、でもいなかったのだろう。もう帰ったのかなあ。
いや暇だから俺らも見てこようか」
「では、一緒に行きましょう」
健太はバレー部の人達が自分を探して虐めようとしていると思いました。
そこで慌てて紳士服売り場から女性服売り場に移動しました。
でもその姿をバレー部の人に見られました。
「近藤さん、桃山がいました。向こうの女性服売り場です」
「なに、女性服売り場に移動したのか。生意気に女性服でも買うのか」
「それでは桃山に彼女が出来たのでしょうか」
「それはないだろう。虐められて脅えていたやつに彼女が出来る訳ないだろう」
「はいそうですね。ともかく急いで捕まえて虐めてやりましょう」
「よし、行こう」二人は桃山を探しに行きました。
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