第3話 虐めの現場

 文化祭より半年遡り五月中旬。

 季節は夏の手前ですでに暑い日が続いています。一年生のAクラスの教室はワイワイガヤガヤしてにぎやかです。

 村田しずくは藤井美咲と同じ歴史研究会のメンバーです。同じクラスの彼女は自分の席の隣の橋本日菜子の調子が最近おかしいのに気が付き気になりました。

 クラスメートの女子が日菜子の隣を通り過ぎる際に

「ダサイ」

「あんたくさいよ」

「芋ガール」

「ジャマなんだよ」

日菜子に聞こえるように言葉の暴力を言うようになりました。それを聞いて彼女は悩み心を痛め始めました。この現象が起き始めたのは五月の連休が明けてからです。最初は何のことか分かりませんでした。

 しかし、何度か聞くようになってクラスメートの女子が彼女に言葉の暴力を投げかけていることに気が付きました。でも何故日菜子に言葉の暴力を投げかけるのかは分かりません。そのために彼女は余計に心労を重ねるのでした。彼女にしたら言葉の暴力というか虐めを受ける原因がないからどうすることも出来ません。

 そして、日菜子が虐めを気にしだしてから彼女の体調に変化が起き始めました。しずくは時々虐めのその声を聞いていました。それで彼女はクラスメート女子による言葉の暴力が異常だと思いました。そこでしずくは、日菜子に声を掛けましたが彼女は困って沈み込んでいるだけです。そのためにしずくはどうすることもできずその場は身を引きました。

 そこで日にちをおいて再びしずくは日菜子を助けたく声を掛けました。すると今度は、日菜子は話に乗ってくれました。

 しずくは、この状態ではいけないと思い何とかしたくなり対策を打つために日菜子を保健室に誘いました。日菜子はしぶしぶしずくの提案を受けてくれました。それでその日の放課後に一緒に行くことにしました。それから二人は保健室に行って東田紅美子先生に実態を聞いてもうことにしました。

「東田先生、日菜子さんが同じクラスの女性徒から言葉の暴力に遭っているのです」

「言葉の暴力ですか」

「そうです、日菜子さんの隣を通るたびにブスとか臭いとかキモイなど暴言を吐いて行くのです」

「それは日菜子さんへの虐めですね」

「やっぱり虐めですか」

 日菜子が、クラスメートの誰とは特定していないが多くの女性徒から暴言を受けっていることを伝えました。

 日菜子が、自分の意見を言わないことでクラスメートは日菜子の顔を見ないでそれでいて聞こえるようにわざと一言二言悪口を言って行くのでした。

それを日菜子は彼女たちを無視しているのではありません。日菜子は、彼女たちに反論する勇気がないのです。

そこで保健室で東田先生と相談している時にしずくは、日菜子から携帯電話の番号を聞きました。これから友達としてラインをすることをお互いに約束しました。その日は、しずくと日菜子はそれで帰りました。

 その夜、しずくは日菜子にラインをしました。最初ですから中学時代のことや彼氏が欲しいことなどを話しました。

 それからしずくは歴史研究会に入ったこと、日菜子はクラブには入ってないことを知りました。それから二人はライン仲間になりました。

 数日後、授業の合間にクラスメートが日菜子の隣を通り過ぎ際に暴言を吐きました。

「最近イモいね」と言って通り過ぎようとしました。

 それをしずくが聞きました。

「ちょっとまって、イモいねとはどういう意味ですか」しずくはその時にそれを言った女性徒に声を掛けました。

その人はクラスメートの井上麻衣という女性徒です。

「なによ、イモいからイモいといったのよ」

「日菜子のどこがイモいのですか」

「あなたには関係ないでしょう」

「なによそれ、虐めでしょう」

「虐めではありません」

「しずく辞めて下さい」

「日菜子、黙っていていいのですか」

「良くないけれどいいのです」

「皆が日菜子を虐めているのを知っています。私は、それはいけないことだとおもうの。だからこうして声を出したの」そこに美咲が入ってきました。

「しずく何があったの」

「美咲、皆が日菜子を言葉の暴力で虐めているの」

「日菜子、そうなの」

「はいそうです」

「井上さんは何故虐めるのですか」

「私は虐めていません」

「井上さんは今も日菜子にイモいねと言いました」

「本当ですか」

「言っていません」

「井上さんが言ったのを私は確かに聞きました。井上さんは嘘を言っています。自分の言った言葉に責任を持ちなさい」そこに天舞莉が言いました。

「・・・」天舞莉のことばで周りが一瞬静かになりました。

 しかし、女子の会話が終わらない中にチャイムが鳴りました。

 そして、次の授業が始まります。そこで皆は自分の席に戻りました。

 その日の放課後、しずくと日菜子の二人は一緒に保健室に行きました。

「先程私たちの会話の中に入って来てくれた藤井さんをしずくは知っているのですか」

「はい、同じサークルの歴史研究会の仲間です」

「そうなの」

「お二人さん、今日はどうしたの」

「またイジメがあったから私が声を出したのです。そしたらイジメをした人が認めないので少しもめました」

「何があったのですか」

「東田先生、クラスの井上さんが日菜子の隣を通りすがりにイモいねといったのです。それで私が言葉の暴力で虐めですと言ったのです」

「そんなことがあったの」

「それを言ったら彼女は言わないというのです。私は悔しくって」

「そうなの」

「そこにしずくの友達が入ってくれたのですが、チャイムが鳴って終わりました」

「そんなことがあったのですか」

「日菜子さんは大丈夫ですか」

「はい、私は大丈夫です。

しずくさんが私の代わりに声を出してくれて嬉しかったです」

「日菜子、ありがとう」

「何を言うのです、お礼を言うのは私です。しずくありがとう」

「しずくさん、そのことをクラス委員に打ち上げて、ホームルームの時間に皆で相談したらどうですか」東田先生がアドバイスをしました。

「それはいい考えですね」しずくが言いました。

「私もいい考えだと思います」日菜子も賛成しました。

「それでは明日私から言ってみます」

「しずくお願いします」

「いいのよ、今の世の中で虐めはあってはいけないことよ。

 それが自分のクラスでイジメが起きているなんて私はいやです」

「しずくさんは自分の意見を持っているのね」

「東田先生も虐めは許されないと思うでしょう」

「はいそう思います。虐めはあってはいけないのよ。だから日菜子さんも虐めが無くなるまで頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」

 翌日、しずくはクラス委員の進藤啓司と江上優莉にクラスの中でイジメが起きていることを相談しました。そして彼女は、橋本日菜子が多くのクラスメート女子から虐めを受けていることを伝えました。

 その話をしずくも聞いたことがあるので井上麻衣の例を出して二人に説明しました。それをホームルームの時間に皆で相談し、虐めの事実と虐めを無くすためにどうするのかをクラスで相談して欲しいのです。

 それからしずくは、クラス委員から大泉先生に打ち上げて欲しいとお願いしました。それから三人で少し虐めについて話をしました。

 それを受けて進藤と江上は大泉先生と相談しますと言ってくれました。

しずくは日菜子が不登校にならずに元気になって欲しいのです。だからお願いしますとクラス委員の二人に頭を下げました。

その日の放課後、職員室の隣の応接室で進藤と江上はしずくから相談された虐め問題を大泉先生に打ち上げました。

大泉先生は、クラス委員からクラスの中で虐めが起きていることを打ち上げられて驚きました。

 しかし、実は数日前に保健室の東田先生からも虐めの予兆が、あるのではないかと打ち上げられていました。その時はまだ情報として聞いていましたから、具体的な行動までは考えていませんでした。

 でも今回はクラス委員からの打上です。だから無視することが出来ません。そこで大泉先生は事実関係を調査するからしばらくこの件は、預けてくれと二人に言いました。それは彼が担任として調査する必要を感じたからです。

 そこで二人はお願いしますと言って応接室を出て行きました。大泉先生はそれからこの件を学年主任の向井先生に打ち上げました。

 向井先生は困った問題が起きたとしかめ面になりました。一学期のこの時期に虐め問題が一年生のクラスで起きているのです。

 ともかく二人の先生は、これから事実関係を調査する必要があることで考えが一致しました。 

 そこで聞き取りにするかアンケートにするかを二人は思案し始めました。

翌日に行われた職員会議で、大泉先生はクラスで虐めが起きているという打ち上げがあったことを発言しました。それで事実関係の調査を無記名アンケートで次のホームルームに行う事を報告しました。

 現状確認している範囲はある生徒に対して言葉の暴力を浴びせていることです。この件は事前に本人が保健室の東田先生に相談をしていました。そして、まだ生徒は不登校になっていないことを付け加えました。

職員会議が行われて数日後のホームルームの時間です。大泉先生は、全員にアンケート用紙を配布しました。

 このクラスでイジメが、起きているという打ち上げがありました。だから事実関係を調査することになった旨を説明しました。しずくはアンケート用紙の質問には、日菜子が言葉の暴力を受けていることを書きました。

 多くの女子生徒が日菜子の隣を通り過ぎる際に「ダサイなあ」、「イモイなあ」、「臭いなあ」、「邪魔なんだよね」、「アンタ何さまなの」などの暴言をわざと聞こうえるように言って通りました。

 それをしずくが注意すると、それを言った本人は言ってないと開きなおりました。そのことをアンケートに書きました。

 それからしばらくして、日菜子が時々学校を休むようになりました。それを心配してしずくは彼女に元気ですかとラインを入れています。

 日菜子は大丈夫と言って返信をしてきます。でもそれならば何故学校を休むのかを聞いても答えてくれません。

 アンケート調査があってから日菜子に暴言を吐く人はいなくなりました。

 それはしずくが聞いていないだけなのかもしれません。そのためにしずくはそれをラインで聞きましたが日菜子はその後虐めにあっていないと言いました。

 結局、しずくが調べた限り日菜子が、時々学校を休む原因は分からないままになりました。

 藤田美咲はしずくから日菜子のことを聞いていました。それからホームルームの時間にアンケートをしてからイジメが無くなりました。

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