ショートショート こたつをしまうかしまわないか。かき氷は上から食べるか下から食べるか

晴也

こたつをしまうかしまわないか。かき氷は上から食べるか下から食べるか

「ねえ、いつまでこたつしまわないの?いい加減しまったら?」


 今年で14になる娘が私たち夫婦の体たらくを見てため息をついた。年頃になってませたのだろう。言葉にも遠慮なくとげが含まれる。

「もう7月になるんだけど」


 我が家には大きなこたつが1台鎮座している。一家の中心にいるのだ。会話が生まれるのも、平穏を感じさせるのも、このこたつ様である。毎年なかなかこたつがしまえずにずるずるとこたつ中心の生活を送ってしまう。

「しょうがないじゃない。座ってドラマを見るのにちょうどいいんだもの」

 妻がそう反論する。彼女は働き者で使用人たちに混ざってまで家事をするほどだ。そんな彼女はこたつの虜筆頭であり、しまえるはずだがしまおうとはしない。私のとりこでもあってほしいものだが……。

 とにかくこたつは座るもよし、寝るもよしの万能な居場所なのだ。妻の言うことにもうなずける。


「あぁ、それに、うちにはタマがいるだろ? こたつをしまうと悲しそうな顔をするんだ。もう少し。もう少しだけ居場所をそのままにしてあげないか?」

 飼っているネコのタマもこたつをよりどころとしている。一日の大半をこたつの中ですごし、今だって足元で丸まっている。去年こたつをしまった時の悲しそうな顔といったら……。花瓶を割ってしまっておやつを抜いたとき以上に悲しそうな顔をしていた。こんなタマからこたつを取り上げられるはずがない。


「あと、私たちにとってこの7月はまだまだ寒いのだよ」


 外を見ると一面真っ白で吹雪いていた。家の中は暖房で28度に保たれているが、外はマイナスまで落ち込んでいるのではないだろうか。

 あまりに寒そうで一瞬体が震えた。


「昔々、この星は人間の営みの影響で、それはとても暑い星だった。逆に人が生きていけないくらいにね。お父さんたちはその間コールドスリープして寒くなるのを待ったんだ。暑いのに慣れた体だから寒さには弱いんだよ」

「そういえばそんな話してたね」

 娘は私たちとは違って寒さの中で生まれたからか寒さにとても強くなったらしい。この寒さでも半そでに短いスカートだ。


「まあいっか。買っておいたかき氷、食べてもいいよね」

「いいとも。おなかを冷やすんじゃないよ」


 はぁいと生返事が聞こえ、バコっと冷蔵庫が開かれる。


「そういえばさぁ、父さん母さんはかき氷って上から食べる派? 下から食べる派?」

「うぅん……。考えたこともないなぁ。そもそも寒くて食べられないよ。ただ……しいて言うなら上からかな」

「えぇ、あなた上からなの? シロップのかかったおいしいところをのこすから下から派じゃないの?」


 いいじゃないか。どちらでも。

 君たちはこたつをしまうかしまわないか、かき氷は上から食べるか下から食べるか。選択ができるんだから。

 まったく、いい時代になったものだよ。

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