4.冒険譚、幽霊屋敷にて【中編】
(な、なんでこんな場所で子供の声が……って。あれは)
ふと倉庫の奥から微かな魔力が漂っていることに気づいた。
しかも、魔力の香は、倉庫の天井へと抜けるように蠢ている。
(姿は見えなかったけど"何かが居た"のか。天井に続いているってことは、この部屋はもしかして)
敵であることを踏まえ、鞘から剣を抜く。
かの英雄の一人でもある『リーフ・クローバー』から受け渡された剣を持てば、不思議と自信が湧いてきた。
「どんな奴が相手でも」
倉庫に足を踏み入れて魔力の残り香を追う。
近くの棚を足場にして、魔力が昇る天井に触れてみると、それはあっさりと外れて三階への道が開かれた。
「あった! 」
隠された道を発見して心踊らせ、早速棚を蹴り飛ばして三階に駆け上る。
しかし、高揚気分とは裏腹に、飛び込んできた光景に思わず絶句した。
三階は、屋根裏部屋のように陽の当たり難い暗がりであったというのに、僅かな視界のうちで部屋全体に酷い血痕が染みついているのが分かったからだ。
更に、その中心には、屋敷の外から見えた白い発光体が、ゆらりゆらりと浮遊していた。光は先ほど聴こえた子供の笑い声が響いていたばかりではなく、どうにも姿も『小さな人型』に見えなくもない。
「なんだこれ……」
人型の浮遊体は、笑い声を上げたまま、ゆっくりと此方側に近寄ってくる。
明らかに人間とは違う存在に剣を握る手に力が籠った。
「お、おい。近づくなって。これ以上近づいたら、叩き斬るぞ! 」
妖しい光に声を荒げるブランだが―――。
一方で、その頃。
一階に降りたアロイスも、予期せぬ発見をしてしまっていた。
「なんだこりゃ。地下の入り口を見つけたかと思えば……」
一階で探索をしていたアロイスは、ブランと同じように隠すように存在した『地下への階段』を見つけていた。
恐怖心すら無いアロイスは冒険心だけで地下に足を運ぶと、そこで、あまりにも凄惨な光景を目の当たりにする。
「冒険者が戻らない理由ってのは納得がいった。せめてもう少し強い冒険者が攻略にあたっていれば、こんな状況には陥らなかっただろうにな」
地下室には、三階と同じように真っ黒な血糊が飛び散っていただけではなく、人骨が大量に転がっていた。中には目を背けたくなるような真新しい遺体まである。
そして、その奥には、口元を血に汚す『魔獣』が一匹、此方を睨みつけていた。
「お前が今の家主かね。随分と物騒な主様も居たものだ」
血に汚れた家主様は、橙色をした硬そうな皮膚に禿げ上がった丸い頭に白濁の瞳を光らせる。細身だが筋肉は浮き立ち、指先から伸びる真っ黒な長い爪は既に殺意を感じさせ、今にも飛び掛かってきそうな勢いがあった。
「……リザードマンを見るのは久しいよ」
彼らは人型の一種ではあるが見た目とは裏腹に『魔族』ではなく『魔獣』に分類される危険種である。
あの戦闘種族のゴブリンの集落ですら、リザードマン一匹に壊滅させられた記録があるほどに残忍かつ凶悪なのだが―――。
「ほらほら、かかってこいよトカゲ野郎」
両手を広げて馬鹿にしたような態度で敢えて挑発した刹那、リザードマンは風よりも早くアロイスに距離を詰める。長い黒爪を突き立て攻撃を繰り出すも、アロイスは更にそれよりも早く右拳を突き出した。
「遅いぞ」
ゴツッ、とリザードマンの顔面にアロイスの拳がめり込む。そして勢いそのままに、地面に後頭部と背中を強く打ち付け、血反吐をまき散らしたリザードマンはノックダウンしてしまった。
「こいつが屋敷に巣食っていたとはな。しかし、だとしたらさっきの光は……」
こいつが冒険者たちを襲っていた正体ならば、魔族三階に見えた妙な光は何だったのか。
すると、倒れたリザードマンが血に咳込みながら、驚くべき行動を見せた。
「キサマ……強イ……な……」
「―――喋れるのか」
知性が無いはずの魔獣が、人語を理解しているなどと。
「人、マゾクの肉……魔力を喰うウチに、自然に少しズツ……覚エタ……」
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