2.空中都市にて……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 不落のダンジョン『 空中都市 』。

 それは災厄とされる純血のドラゴン族の蠢く巣窟であり、一年前アロイスが完全攻略を成すまで、数多くの冒険者が命を落としたことに由来する。

 しかし、今なお多くのドラゴンがひしめき合うことから腕自慢の冒険者たちが挑む事象が後を絶たず、命を落とす事故が多発。警衛隊本部の指示より、立ち入り制限区域として指定されていた。


 もちろん、彼のような例外を除いて……。


「久しぶりだな、この場所も。いやはや相変わらず壮景だ」


 生きる英雄冒険家と称される男、アロイス・ミュール。

 また、彼の背後に取りつくようにして辺りを見回すのは 英雄に見定められた青年冒険家の"ブラン・ニコラシカ"である。


「いまだに信じられませんよ。俺が空中都市に足を踏み入れる日が来るなんて」


 雲より高き場所に拡がる古代遺跡の周囲には翼音を靡かせる巨大な竜たちが堂々たる姿勢で飛翔する。その光景は、まさに圧巻だ。


「まあ、たかがドラゴンくらい倒せるようになることはお前にとっての通過点だからな」


 アロイスは当然のように言うが、ブランにとってそんな強さはどれだけ努力しても手に入れられる気がしない。


「そ、そのくらい強くなりたいとは思いますけど、今の俺じゃ役不足ですよ」

「それを言うなら力不足な。というか、そもそもこの場所に来た理由は戦いに来たわけじゃないのは……分かっているだろう」


 そう言ってアロイスは、ぴゅう♪ と口笛を吹いた。

 すると、空に舞う一匹の翼竜が一目散にこちらに飛び寄り、目の前に足を下ろす。

 アロイスも傍に近寄り首を撫でると、竜は屈服するようにひれ伏した。


「本当ならコイツと一緒に旅をすれば楽なんだが。ずっと面倒は見れないし仕方なかろう」

「ですね。それにしてもこの竜は、アロイスさんをカントリータウンに落としたヤツなんですよね? 」


 この翼竜は、かつて空中都市攻略の際にアロイスが倒したワイバーンの一匹で、アロイスをカントリータウンに落下させた張本人だった。なお、ワイバーンは鍛錬を積み重ねて一年越しのリベンジに挑んだが再敗北し、今度こそ従順になったようだ。


「ああ、コイツのおかげで色々あったよ。……ま、お前はここで自由に生きていけ。ホラ、飛んで行け! 」


 アロイスがワイバーンの首を優しく叩くと、彼はキュイと小さく鳴いて、翼を拡げてその場から飛び去って行った。


「はっや。振り返らずに行っちゃいましたねえ……」

「幸せに暮らせれば良いとは思うが、こんな事は俺が言えた義理じゃないな」

「どうしてです? 」

「これはナナにも似たような話をした記憶があるんだが……」


 一年前以前まではクロイツ冒険団として活躍していた手前、血気盛んだった時期という事もあって見境なしに魔獣を倒していた。もちろん。害獣として人間や他の種族に害を与える危険種においては討伐対象とされるため問題は無いのだが。


「若い頃は腕試しという理由で無益な殺生をしていた。落ち着いて考えたら最悪の行動だったよ」

「……その頃のアロイスさんなら、きっと俺を弟子にしてくれませんでしたよね」

「当時は俺を慕っていた面子ですら見下していたからな……」

「それが許される強さだった分、周りも何も言えなかった気がします」

「顔から火が出る話だ。ま、話はこの辺でダンジョンを出よう」


 アロイスは帰り道を指差す。


「ここを出たら、何処に向かうんです? 」

「まずはクロイツ団本部。それと、冒険団サンドサイドに赴くつもりだ」

「クロイツ本部と……サンドサイド!? 」


 クロイツは言わずもがなアロイスの故郷である。


 しかし、冒険団サンドサイドとは―――記憶が正しければ、彼らは南方の砂漠に本部を置き、道徳に反する行為を行うことから『 暗殺集団 』と称される穏やかではない連中だのはず。


 何故、わざわざ危険な場所に行くのか、ブランが尋ねると。

 

「クロイツにはこれから俺がやる事に話つけとかにゃイカンだろう。それと、サンドサイドに行く理由は―――」


 アロイスは「簡単なことだ」と言った。


「南方の砂漠地帯は、ほとんどがサンドサイドの配下にある。アイツらは噂通り汚れ仕事ばかりで、攻略が進んでいないダンジョンが少なくない。当然俺らの攻略対象の視野に入るわけで、一応攻略する以上は挨拶が必要になる。まあ、会いたくない奴らがちらほら居るんだが」


 そう言って右手で後頭部を押さえて、少し渋い顔をした。

 まさか暗殺集団にまで知り合いがいるとは。世界を駆け巡ってきたアロイスの顔は考えている以上に広いようだ。


「あ、あはは、アロイスさんの知り合いは本当に色々な方が居ますねえ……」


 ブランも苦笑いして言った。


「まあ、大体が俺と同じでロクな連中じゃないがな。……さて、そろそろ出発しようか」


 アロイスが歩き出と、ブランは喋りながらそれを追った。


「そういえばリーフさんは居ますかね。是非、挨拶したいんですけど! 」

「……お前は本当にリーフが大好きだな」

「そ、そりゃあもう。なんたって俺らのアイドルですし! 」

「アイドルねえ。ま、リーフもフィズにも会えりゃ嬉しいことは無いな」

「ですよねっ! 」


 ……これはアロイスとブランの冒険譚。

 長き、永き、遠き旅路は、決して楽な道のりで無いとしても。

 物語はまだまだ終わらない―――。


 ………

 …


【 番外2:空中都市にて 終 】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る