その後の章
1.ブランの旅立ち
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―――【 アロイスが飛び立って、直ぐに。 】
ワイバーンと共に飛び立ったアロイスだったが、飛行を開始して数分後、まず、ある町に降り立つ。
そこは、隣町のダウンタウンだった。
ワイバーンには近くの森に隠れているように促し、アロイスは、ダウンタウンのある場所に向かった。
(確か、ここだったな……? )
そこは、ダウンタウンの小さな町営アパート。
うる覚えであったが、確か彼の部屋は『 306号室 』という話を聞いていた。
早速306号室の部屋前に行くと、ドア横に掛けられていた名前を見て、間違いないと確認する。
「ここだな。まあ、行かないなら行かないで良いんだが……」
彼に、夢という船を造ったのは自分だ。
せめて、誘うだけ誘わなければ。ケジメくらいはつけよう。
アロイスは、ドアをゴンゴンゴン! と、ノックする。
「おーい、いるか」
もしも彼が居なかったり返事が無ければ縁が無かったとしか言うべきか。
ところが、そんな心配を他所に、彼はボサボサした髪の毛に半目という眠たそうな表情で、ドアを開いてくれた。
「はーい、こんな早朝からだれ…………って、アロイスさんッ!? 」
「まさに寝起きって姿だな、ブラン。冒険者なら、朝早く起きることは必須だぞ」
そう、会いに来たのはブラン・ニコラシカであった。
「ど、どうしてここに!? 色々お話は伺っていましたが、例のダンジョンから帰ってきたんですか!? 」
「昨日な。まあ、帰ってきたとは言っても、休む暇もなく直ぐに出かける必要があるんだが」
「どういう意味です? 」
「立ち話で悪いが、手短に話そう。今、俺の置かれている状況についてだ」
アロイスは、この数日間で身に起きた出来事を全て話した。
世界を救ったことや、この世界を守るために再び冒険者に舞い戻ることを決めたこと。
「そ、そんな事になっていたんですか。アロイスさんは、再び世界に旅立つんですね……」
「そうだ。だから、その附随した理由でブランに会いに来たわけだ」
「附随した理由で? ああ、お別れの挨拶ってことですね」
「違う。別れる挨拶だけならば、もっと雑に済ませるだろ」
「じゃあ、どういう理由で会いに来たんでしょうか」
ブランが尋ねると、アロイスは「欲が少ないな」と苦笑した。
「シンプルに教えるし、訊くぞ。ブラン、お前は俺と一緒に世界に出てくる覚悟はあるか」
「……は? えっ? 」
あまりにも唐突な話題。
寝起きのブランの頭は、働かなかった。
「お前の夢の手助けをするといったのは俺だ。今後、2年……いやそれ以上になるかもしれないが、俺は冒険者として世界を脅かすダンジョンに挑戦する。休む暇なく、挑み続けるつもりだ。分かってると思うが、決して楽な道のりじゃない。それでも、着いてくる覚悟があるというのなら、俺はお前を歓迎する」
「え、ちょっ。待って下さい、まだ頭が回らなくて。アロイスさんの冒険に、俺がついていけるってコトですか? 」
「そうなるな。今まではあくまでも指導役だったが、冒険者となるなら話は別だ。当面は部下として、いずれは仲間として活躍して貰う。そうなるためにも、実戦を通して今まで以上に本気で冒険者として指導するつもりだ」
「そ、それ……あの……!? 」
混乱するブランは身振り手振りで、いま思った事をとにかく口にしてぶつける。
「あ、あの、アロイスさんは
「クロイツはクロイツ。俺は俺でやる。で、どうする、お前が頷けば、俺はそれだけで一緒に旅立つつもりだ」
「……ア、アロイスさんと冒険ですか!? 」
ブランはギュっと目を閉じると、自分の額を拳でトントンと強めに叩いた。
どうしても、この状況は夢にしか思えなかったのだ。
「夢じゃないんですよね。俺、本当にアロイスさんと旅に出れるんですか? 」
「長い旅になる。戦いに次ぐ戦いで、嫌になるかもしれない」
「だとしても、俺にその覚悟があるのなら……」
「一緒に来い。冒険者として後悔はさせない。お前を部下として、俺の全てを叩き込むつもりだ」
「―――馬鹿な話ですよ」
ブランは両手で自らの頬をパンッ!!! と叩き付け、笑顔で言った。
「全てが愚問です。今すぐ、準備をしてきますっ!!! 」
―――夢は終わらない。
この世界は思った以上に、夢に満ちている。
だから、生きている限り、夢を見続けよう。
「……おーい、朝早くに近所迷惑だから落ち着いて準備しろよ」
「は、はいいっ! 」
アロイスとナナの出会いが必然であったように。
ブランとアロイスの出会いもまた、偶然そして幸運という名の運命だったのかもしれない。
今こそ、ブランにとっての本当の冒険が、始まったのである。
(こうなったら、俺の夢はクロイツ団に入るだけじゃない。アロイスさんの部下として弟子として、全てを吸収してやる。アロイスさんに負けないくらい、強い冒険者になってやる!! )
………
…
【 ブランの旅立ち 終 】
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