34.of my mind『終わりの始まり』終幕


「おかあ……さん、おとう……さん……? 」

「カ、カイ! リリーさんまで! そんなことが、あるもんかね……」


 ナナと祖母は、突然帰ってきた二人の姿に愕然とした。

 カイとリリーはその様子を見て、少し照れ臭そうに声を揃えて、一言ばかり。


「ただいま」


 と、言った。


「お……お母さん、お父さぁんっ!!! 」


 ナナはボロボロと大粒の涙を流しながら、両親の胸に飛び込む。

 カイとリリーは三人で抱き合い、その再会を喜び合った。


「お、お母さん、お父さん。本物、本物なんだよね。帰ってきたんだよね! 」

「長いこと待たせちまったな。随分と大人になっちまってよお」

「ナナ、今までごめんなさい。寂しかったよね……」


 失われた家族の時間。

 止まり続けた時計の針。

 全てがようやく動き出す。

 そして、ナナ両親と語り合うさ中。

 アロイスは、玄関で立ち尽くす祖母に近寄り、声をかけた。


「お婆さんは、あの輪に入らないんですか」

「ああいうのは苦手だからね。こうして見守っているほうが、よっぽど良いさね」

「そうだ湿っぽいのは苦手でしたね。でも、もっと驚かれると思いましたが」

「さあてねえ。私は、どこかで生きていると思っていたのさね。だから今さら驚かないさ」


 存外、言葉通り祖母は驚いた様子は無く、しわくちゃの笑顔で、ただ三人の再会を嬉しそうに眺めていた。


「ハハハ、お婆さんらしいです。でもこれで俺の役目は終わったに等しいんですよ」

「どういうことだい? 」

「ようやく再会した家族の時間。この家に俺が居るには狭すぎます」

「まさか、アロイスさん」

「正直言って本望ではありません。出来ることなら、これからも残り続けたいとは思います」

「なら、いつまでも居てくれて良いんだよ。アロイスさんは大事な家族さね」

「ありがとうございます。だけど俺には役割が出来てしまった。だから……」


 アロイスは首を小さく左右に振る。

 ……すると、その時。

 再会に喜んでいたナナが、涙を拭きながらアロイスの元に駆け寄った。


「えへへ、アロイスさん。まだ信じられないですけど、夢じゃないんですよね」

「夢じゃないさ。ちなみに、ご両親はしばらく家に居るって話は聞いたか? 」

「はいっ。お母さんもお父さんも、家に居てくれるって言ってました! 」


 ナナは両手を叩いて、満面の笑みで言った。


「良かったな。しかし、これからが大変だぞ」

「はいっ。こうなったら、おうちも賑やかになっちゃいますね♪ 」

「ん。ん……そうだな」

「アロイスさんに、お母さんたちもいるし、お家を広くしないといけないかもしれないですね! 」


 ナナは明日からの事を、あーだこーだと考え、嬉しそうに言う。

 反面、彼女が嬉しがるほどアロイスは内心穏やかでいられなかった。


(ナナ……。本当は俺は一緒に居たいんだ。でも、それは世界が許しちゃくれない。これを、どう伝えたものか)


 アロイスは、そっとカイたちに目を向ける。

 カイとリリーは目線に気づき、小さく頷いた。


「……」


 彼らもアロイスの考えは知っていた。

 遅かれ早かれ伝えねばならないのなら、酷だと分かっていても、言わなければならない。


「……ナナ。ちょっと良いか」


 意を決する。

 それを伝えるべく、口を開いた。


「はい、なんでしょうか」

「その……どう言えば良いのか。ただ、これは大事な話なんだ」

「大事なお話ですか? 」

「ああ。その、俺は口が上手く無いから、ハッキリと伝えさせて貰うよ」


 こんな言葉を口にするのは、あまりにも、彼女にとっても自分にとっても辛過ぎる内容だった。


「……俺は、この家を出て行かないといけなくなった。もう一度、冒険者に戻らないといけない理由が出来てしまったんだ。だから、俺はこの家を……カントリータウンを出て行くつもりだ」


 ―――……えっ?


 その言葉を皮切りに、両親と会えて喜びに笑顔だったナナは打って変わる。


「冗談ですよね。何を言っているんですか……? 」


 ナナは口を半開きにして、薄っすらと瞳から光が消えた。


「今、氷竜と同じように世界中で古代の魔族が眠っていることが分かったんだ。だから……」

「だから……? 」

「戦える戦士が必要だ。俺が自惚うぬぼれているわけでは無く世界には俺の力は必要なんだよ」

「……それで。それが理由で、アロイスさんはウチを出て行くんですか」

「俺だって家に残りたいと思ってはいるよ。それは本心だ」

「だったら居れば良いじゃないですか。酒場は……酒場はどうするんですか。だ、だって、これからもずっと一緒に! 」


 ナナはアロイスの両腕を掴み、グラグラと揺すった。

 先ほどまで高揚していたナナの気持ちは大きく沈み、まるで地獄の底に突き落とされたように叫ぶ。



「……すまない」

「どうして……! どうしてですかっ!! 」


 ナナは力強く、いっぱいにアロイスの両腕を掴む。

 アロイスにとって、か弱い女性一人の握力では本当は痛みの一つも感じ得ないはずだったのに、この時ばかりは、ひどく痛みを感じた。


「これからも一緒にやろうって、言ったのに……。どうして……」

「……すまない。だけど、俺が戦う理由は分かってほしい」

「何をどう分かれって……いうんですか……」

「また、ナナのように、いつかどこかで誰かが悲しむことのないように。俺がそれを止めなくちゃいけないんだ」

「そ、そんな……ことって……」


 アロイスの言葉は、これ以上の説得力は無いというほどに暴力的だった。

 それは、心優しいナナにとって、頷かざるを得ないということ。

 

 ……だが、しかし。


 この時ばかりは。


 ナナは、大粒の涙をポロポロと溢れさせて、嫌です! と、叫んだ。


「いやだ……。いやだ、いやだ、いやです。どうしてアロイスさんなんですか。私はずっとアロイスさんと居たいです。居れるって思ってました。こ、こんなこと言って、迷惑で気持ち悪がられるって分かってます。でも、こんなことを急に言われて納得なんか出来ないです!! 」


 どう、"応え"たら良いものだろう。

 アロイスは下唇を噛んで、困った表情を浮かべる。

 すると、両親はナナを挟むようにして立ち、慰めるように口を開く。


「……ナナ。辛いのは分かる。でも、アロイスさんも辛いことを分かってあげるんだ。いきなり戻ってきて、親らしい注意をしてしまうのはバカなことかもしれない。でも、お前は俺たちの娘だ。アロイスさんが、どれだけ辛い決断をしているか理解もしているはず。だから、その気持ちを汲み取ってあげるんだ」


 カイは、静かで険しい口調で言った。

 ところが、ナナは「分かってるよぉっ! 」と、泣きじゃくるよう叫ぶ。


「そんなこと、分かってる……。分かってるけど、それでも……! 」


 今までに、彼女がこれほどにワガママを言った事はあっただろうか。

 それは、どれほどアロイスの事を想っているかの現われに等しいものだった。

 ……そして、感極まった瞬間。

 ナナは、思いがけず、ある言葉を口にする。


「私……ワガママ言って、困らせて、こんなこと言ってバカだっていうのも分かってる!! でも……でも。でも、私は! アロイスさんと一緒に居たいの! ず~~っと一緒に居たいよ! 大好きなんだもん!! 」


 ハッキリと、ソレ大好きを伝えてしまったのだ。

 その途端、自分の言った台詞に気づいたナナは顔を真っ赤にした。と、そのまま……。


「あっ……! も、もう嫌だよぉっ! 」


 顔を押さえて、その場から、どこかへと走り去る。

 アロイスは、カイと共に「ナナ! 」と声を上げて彼女を追おうとした。

 だが、実際にナナを追ったのはアロイスだけで、カイはリリーに強く肩を掴まれた。。

 

「うおっ、どうして止めるんだリリー!? 」

「カイさん。アレはアロイスさんの役目です。あなたが出る幕じゃないんですよ」


 可愛らしく微笑むリリーだったが、その表情に尋常ではない剣幕を帯びていることを察したカイ。


「……はい」


 素直に、小さくなったのだった。

 そして一人追いかけるアロイスは、ナナに話しかけながらその後ろを追う。


「ナナ、頼むから足を止めてくれ……! 」

「は、話しかけないで下さい! 私は、どうしてこんな……ッ」


 後ろを追う限りナナの表情は読み取れない。が、鼻声で顔を袖で拭いている辺り、きっと、涙を零しながら歩き続けているのだろう。


「ナナ。俺は決してお前との生活が嫌になったりしたわけじゃないんだ……」

「そんなこと分かってます! でも、嫌なものは嫌なんですっ!! 」

「ナナ……」

「こ、こんなワガママを言う自分も嫌です。でも、なにもかも、全部が、わけが分からなくて……」

「その気持ちは分かるよ。俺だって、お前と離れるのは辛いんだ」

「じゃあ、ずっと一緒に居て欲しいです。ずっとずっと、一緒に居て欲しいです! 」

「俺だって居たいよ。でも……」

「言わないで下さい。分かってます。分かっています……ッ」


 長く続く押し問答。その間にも、ナナは足を止めることなく、何処かへと一心不乱に歩き続けた。

 やがて、しばらくの無言が訪れたのち、二人は、あの場所へと辿り着く。


(ここは……)


 そこは、二人が初めて出会った農道の一角。

 空から落ちてきたアロイスとナナが出会った、運命の場所だった。


(……ナナ)


 そこが、二人の出会いの場所だと分かったアロイスは、流動的に動いた。

 一気にナナとの距離を詰めて、その左肩を掴み、足を止めさせた。


「ナナ、待ってくれ。頼む、落ち着いて話をしよう……」

「……放して下さい。嫌です、話なんかしたくないです……っ」

「でも、このまま離れる事になったら、俺はそれこそ辛い。ナナだって、そうだろう」

「辛い……です。でも、何処かへ行ってしまうって分かっている話は、今の私にもっと辛くて……」


 アロイスは、彼女の気持ちが深く心に響き、感じた。

 あれほど願った両親との再会の喜びを越えたように、自分との別れを悲しんでくれるナナの想いが、鋭い槍で貫かれるような痛みを覚える。



「分かってる。分かっているんだ。俺も、ナナと一緒に居たいと何度も言ってるだろう。嘘偽りなんか無い。俺は、お前と一緒にこれからも過ごしたいって思っている」


「……でも。それは、許してくれないんです……よね」


「俺とナナの出会いが運命だったのなら、世界の悲鳴もまた偶然であり運命なのかもしれない。でも、この別れは運命とは言わせないつもりだ」


「どういう意味……ですか」


「俺は、俺にとって、俺のことをこれほど大事だと思ってくれる女性ひととの別れは運命だとは思わない。それは永遠のものじゃない。俺は……」


 ナナという大事な女性ひとに、何かを伝えようとするアロイス。

 ―――ところが、話しかけた拍子に。

 突如、天高き場所より雷のようなとどろきが唸り渡った。


「グオォォォオッ!! 」


 アロイスとナナは、驚き、空を見上げる

 。と、そこに居たのは、誰が予想できただろうか、人の数倍以上ある上位魔族、あお翼竜ワイバーンであった。バサバサと大きな翼を羽ばたかせ、此方を睨むように、見下ろしていた。


「あ、あれ……なんですか……! 」

「ワイバーン!? 何故、こんな場所に……。 しかも、アイツは……! 」


 アロイスは、ワイバーンヤツの帯びた魔力と姿に見覚えがあった。

 それは世界一を決めた竜の巣で、カントリータウンまで搭乗させて貰った、あの、翼竜と同じ気配である。


「アイツは……、俺をここまで運んできてくれた竜族じゃないか……」

「えっ! いつも、お話をしてくれていたドラゴンですか!? 」

「俺とナナの出会いをアシストしてくれたドラゴンが、このタイミングで現れるかね……」


 その上でアロイスは「しかも」と、付け加える。


「コイツ……相当どこかで経験を積んできたな……」


 その姿は、かつて竜の巣で対峙した時とは比べ物にならないくらい屈強で、全身からは強者のオーラを漂わせていた。左目は傷に潰れ、全身に傷跡を作り、こちらを見下ろす姿は、あの頃と違って本当の意味で『 竜族 』とも呼ぶべき風格を感じさせた。


「グルァアアアアッ!! 」


 鈍重な咆哮ほうこうを、威嚇するように高々と発した。


「なるほどな。俺に復讐する一心で、どこかで修行を積んできたというわけか」

「グオォォッ! 」


 もう一度、猛々しい咆哮を上げた翼竜は瞳を強く輝かせ、一気に、アロイスに向かって降下した。


「ア、アロイスさんっ!! 」


 当然、近くに居るナナは悲鳴を上げる。

 しかし、アロイスはナナをかばうように立ち、笑顔で呟いた。


「大丈夫だ。俺は絶対にお前を守る。お前が居る世界を守るために、俺はここに居るんだ」


 ―――そして、こちらに突っ込んできた翼竜に対し。

 力を込めた右腕一本、翼竜の顔面を右から左へと殴りつける。


 ドゴォッッッ!!!


 鈍い音が空気を震わせる。

 刹那せつな、頬を強く打たれた翼竜は玩具のように地面を削りながら吹き飛び、辺りに土埃を舞い上がらせた。


「どれだけ強い相手でも、俺はさらにその上を行く。そうじゃなければ、一番大事だと思う女性ひとと家族を守ることは出来ないんだからな」


 一撃で気絶した翼竜に、アロイスは殴りつけた右拳を握り締めて言った。

 その姿に、ナナは「アロイスさん……」と、小さく名前を呼ぶ。


「ナナ……」

「アロイスさんは、やっぱり強いですね。また、守って貰っちゃいました……」


 アロイスの正面に立ったナナは顔をうつむかせ、震えながら、服をギュッと掴んだ。


「ナナ。俺はお前を守りたい。だから、もう一度世界に挑むんだ。これじゃ、理由にならないか」

「最初から……分かってます。世界の為にも、私の為にも戦ってくれるんだってコト……」

「ああ。俺は、何よりも大事だと思えるナナの為に、その未来を守る為に。戦うことを決めたんだ」

「アロイスさん……ッ」

「……そういえば話の途中だった。俺は、お前との別れを永遠とは思わない、そう言ったよな」


 アロイスはナナの背中に手を回して、強く、抱き締める。優し気な表情で、ナナを見下ろし、語りかけるように言った。


「もし……、もしもだ。俺が一年……いや、二年。それまでに、もう一度この場所に帰ってくると約束したなら。そしたら、お前は俺を待っていてくれるか」


「二年……ですか……? 」


「全てを片付けて、この場所に戻ってくると誓う。お前が待っててくれるというのなら、俺はこの場所に必ず帰ってくる。絶対に約束する」


「私の場所に……戻ってきてくれるんですか。でも、アロイスさんは私を……」


「踏ん切りがつかなかった。所詮、俺は帰る家もない冒険者だった。だから、お前の気持ちを知っても戸惑いしかなかった。俺が、お前に好意を寄せても良いのか、悩んでいた」


「じゃあ、今は……? 」


「お前を一生かけて守りたいと思えた気持ちに掛けて。こそばゆい答えを求められると、少し言い辛い」


 アロイスは照れ臭そうに笑った。


「なら、もう一度。もう一度会った時に、アロイスさんの気持ち、聞かせてくれますか」

「待っていてくれるのか。二年という時間は、決して短くはないの」

「分かっています。でも、アロイスさんも必ず戻ってくると約束して下さい」

「……戻ってくる。お前の元に、必ず戻ってくると誓う」

「はいっ。私も、アロイスさんのこと、待ってますから……! 」


 二人は強く……、強く、強く抱きしめ合った。

 すると、そのタイミングで後方から突然。

 「うおっ! 」

 と、声が聞こえ、二人は振り向く。

 そこには、驚いた表情のカイと、微笑むリリーの姿があった。


「あっ、お母さん……お父さん! 」


 ナナは慌ててアロイスから離れる。が、カイはアロイスと抱き合った事について何も言わず、気絶した翼竜の傍に近づき、見下ろした。


「……遠くから強い気配を感じたと思ったら、竜族がナナたちの向かった方向に飛んでいくのが見えた。でも、アロイスさんが居たからには心配無用だったか。し、しかし……まさかとは思いますが殴って倒したんですか? 」


 カイが尋ねると、アロイスは頷き答えた。


「はは、あの程度のドラゴンならば。殴り飛ばして気絶させましたよ」



 竜を殴り飛ばすというパワーワード。

 カイは苦笑いする。


「竜を殴り飛ばす……ですか。ハハ、全く本当に規格外な人ですよ。でも、これでナナも分かってくれたみたいですね」


 カイは、ナナに目を向けた。


「ナナ。アロイスさんが世界を救うと言った理由、この場所を去る理由、納得がいったのか」

「……うん。でもね、アロイスさんが居なくなっても、私は」

「フフッ。二年間も待っているって話か」

「えっ!? なんで、お父さんが知って……」

「知ってるさ。帰ってくる飛行船の中でその話を聞いたんだ」

「そ、そうだったんだ……」

「ああ。もう一つ、お前は話も聞かずに走って行っちまうから話しそびれたけど、残された酒場の話だ」

「酒場のお話? 」

「そうだ。アロイスさんの残していく酒場は無駄にはしないのさ」


 カイは、リリーとナナ指差して言う。


「俺らが家に居るって話をしただろ。あれはアロイスさんの酒場を俺らが引き継ぐって話になったからさ。家族としてナナお前との時間を取り戻すために、しばらく三人で酒場を経営したいと思ってる。俺も負けじと酒の知識はあるし、リリーだって料理の腕は立つ。どうだ、三人で酒場をやってくれないか」


 元々、酒場の酒の地下倉庫はカイが趣味で造ったものである。

 冒険者として料理の腕は二人とも確かだし、長くスタッフとして働いているナナも合わせれば、充分に酒場を引き継ぎ経営することは可能だった。


「お母さんとお父さんと、酒場を……? 」

「そうだ。二年後まで、しっかりと。どうだ、やっぱり気は進まないか? 」

「え……えっと」


 その問いに対して、ナナの心は、直ぐに決まっていた。


「気が進まないわけない。アロイスさんが私を守るために戦ってくれるなら、私も、アロイスさんの酒場を守るために一緒に働く! 」


 めいっぱいの笑顔で叫んだナナ。

 その言葉にアロイスも笑顔で「そう来たか」と、人差し指で鼻頭をこすった。


「そうか。……と、いうわけですアロイスさん。貴方の酒場は、私たちが守らせて貰います」

「突然のことでも受け入れてくれて有難うございます。二人……いえ三人なら、必ず上手くいくと思います」


 アロイスとカイは、改めて、ガッチリと厚く握手を交わした。


「……それでアロイスさんは、いつから出発を? 」

「あまり長居すると別れが辛くなるだけですからね。出来る限り早い方が良いとは思います」

「冒険者はタンポポの種のようなもの、ですか」

「そうですね。可能なら、今日…………」


 アロイスは「今日」と言い掛けた時、ビクリと肩を震わせたナナに気づき、言い換えた。


「いや、明日には出発します。今日だけは、皆さんと一緒に居て良いでしょうか」

「返事など不必要。最高のご馳走と共に、お見送りしますよ。……それで良いだろう、ナナ」


 ナナは、無言で、小さく頷いた。


 ………

 …


【 of my mind 終 】

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