第7話 進行する魔王軍
朝焼けの光がまだ地平の彼方に重なっていた頃、一人の伝令兵が暗く足元も見えないの中を駆けていた。悲哀に満ちた空に、ところどころ緋色の残光が暁雲の間を縫って差し込んでいる。誰よりも早く、何よりも速く、彼は王城に向かって駆けた。
王都に入り、眠る街を疾走する。彼は急がなくてはならなかった。一刻も早くたどり着かなくてはならなかった。必ず、間に合わせなくてはならなかった。日が出づるその前に、手遅れになるその前に。馬の石畳をける音だけが、せわしく街に響いた。
城の中に入ると、彼は息を荒げながら王のもとへと急ぐ。歩調は乱れ、それでもなお冷たく重い廊下を奔走する。
「失礼します!」
兵士は勢いよく扉を開け、王に呼び掛けた。
「なんじゃ、騒々しい。」
「大変です――」
――まだ朝日が昇ったばかりの早朝、勇者は緊急に王間へと招集された。ステンドグラスからは七色の光線が差し込む。あたりは薄暗く、松明の日が炎々とたなびいていた。
「何の騒ぎだよ、いったい。」
スティーブンは眠い目をこすりながら王に問うた。四人とも、まだ顔に疲労感を浮かべている。
「奴らが来たのじゃ。」
「奴らって誰の事です?」
「もちろん・・・」
「魔王軍だ。」
勇者が召喚されてから間もなくして、王国から東、ジュラの森林から既に数百の魔物どもの大移動が開始されていた。道中の村々は壊滅し、例外なく火を放たれ村人たちは蹂躙されていた。
「総数は?」
「300ほど、王国兵士に概算して1000に相当します。」
周囲の者はどよめいた。驚嘆と悲壮のざわめき。
「我が国の軍事力で何とかなる規模なのか?」
「王都の民はどうする・・・」
「現在の位置は?」
「森林とミルジゲアナのちょうど中間です。報告によれば道中の村々を攻撃しながら進行しているようです。王城にもあと数日で着くでしょう。」
「そうか・・・」
スティーブンは沈黙する。
「例の幽霊騎馬兵もいるのですかな?」
「はい、ほかに狂戦士部隊もいる模様です。」
「電撃戦か・・・」
ニコライがつぶやく。
「とにかく、城の防備を整えろ。決して城まで近づけてはならぬ。」
「ハハッ!」
「・・・・・・」
「――あと何日で着く?」
暗闇より、かの騎士は姿を現した。見せるのではなく、現す。朽ちた黒鋼の鎧、纏うは亡霊の瘴気、眼にはほのかに光る青炎。焚火に照らされる彼のたたずまいからは一切の生気を感じさせなかった。戦場の亡霊ともいうべきだろう。仲間であるコバルリザードさえ、一瞬の恐怖を憶える。
「あと三日というところでしょう。。」
「我々なら一日でも到着できる距離だが。」
「
「・・・・・・」
リーダーと思わしきその幽霊騎兵は納得できぬ様子でその場を去る。すると、今度は別の魔物がやってきた。
「すまないね。」
「いえいえ、よくあることですから。」
大将であろうコバルリザードは首を振る。
「我々狂戦士は常に飢餓感にさいなまれている。多くの者がそのために思考を放棄し、感情のままに動く。われわれは食わずにはおられないんだよ。」
狂戦士部隊の隊長、アーナードは弁明する。
決して、魔王軍から派遣された一部隊の隊長が装う格好ではなかった。薄汚れたマフラー、はぎ取ったのであろうボロボロのレーザーアーマー、関節部分はところどころメタルで防御されているが、満足とは言えない。立ち姿だけを見れば敗残兵という言葉が似あう。
「重々承知しています。それに先を急いだとて、協調性のない野良の魔物どもが付いてこれるはずがありませんから。」
「そうだな。」
アーナードは笑みを浮かべる。
「奴らも腹が満たされる頃だろう。そろそろキャンプを片付けて先に進んでも構わない。」
「わかりました。」
「それと――」
アーナードはその眼を火に落とす。
「勝算はあるんだろうな?」
コバルリザードは笑みを浮かべた。
「語るに及びません。」
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