第6話 王のリストラ

「これは・・・一体・・・」


 王間つながっている広間、横に長いテーブル、中心に置かれた火のついていないキャンドル、そして勇者たちの姿がそこにあった。


「いったい何をしているのですかな?」

「何って、会議ですよ。」


 サンドラが王にこたえる。


「何の会議を・・・」

「この国の方針ですよ。」

「え?」


 一抹の焦燥と動揺を感じる。王は嫌な予感がした。


「それはどういう・・・」

「いやだから、政治の方針を決めているんですよ。」


「え!?」


 王はみっともないと分かっていたが、叫ばざる負えなかった。


「え、いや、それ私の仕事・・・」

「はあ?」

「ひ!」


 スティーブンはにらみつける。


「教育機関もない、下水道もない、交通機関も整備してない。水産業も工業も重化学工業も電気も、何一つないじゃないか!!」


「農業はやってますけど、ここまで不安定じゃ政権運営もくそもないですよね。」


 サンドラが追い打ちをかける。


「鉄鉱山もろくにないし、軍も徴兵制もないときた。ビールはあるみたいだがな。」


 ソ連軍人のニコライが加勢する。


「身分制もいまだに旧体制ですしね・・・」


 イギリス軍人のアイザックも呆れた表情でつぶやく。


「魔術もろくに継承しないし、お前が政権を握ってたら魔王が来る前に国がつぶれちまう!」

「いや・・・しかし・・・」


 王はそれでもなお渋る。


「あら、いいんですか。」

「?」

「私たちの世界では革命といって、王を処刑して新国家を作ることがよくあったんですよ。」


「お見せしましょうか?」


「ヒエッ・・・」


 サンドラの威圧に王は委縮する。


「・・・わかりました。」


 王はそのあと、悔しそうに王間に帰ったのであった。






「――じゃあ始めようか。」


 ニコライが声をかける。


「まずは何から手を付けましょうかね。」


 サンドラが問題提起をする。


「徴兵制がないのはかなり問題だろう。王直属の騎士団はいるにしてもあまりにも数が少ない。法改正をして軍を作るべきだ。」


 事実、ニコライの言う通り騎士団は1200人程度しかいない。一国家の軍備としては最低レベルである。


「ですが教育を受けていない国民が徴兵制を理解できるでしょうか。訓練にも時間が必要ですし、まずは公共機関やインフラを整えるべきかと。」


「インフラを整えるにも貴族たちが相当の土地を持っています。買収は困難かと。民主主義に移行して議会政治にするべきです。」

 

 ニコライの強兵論、サンドラの富国論、アイザックの改革論で意見が分かれる。


「今は応急処置的な政策が必要だ。サンドラの言う通り徴兵制にしても民主主義にしても時間がない。かといって公共交通機関も確かに必要だが優先度は低いだろう。」


「じゃあどうするんだ。」


 ニコライが問う。


「騎士団を臨時に護衛団として拡張すればいい。一般兵士の徴兵は難しいが騎士を目指して訓練している者をすべて率いれば多少はましになる。」


「それだけじゃ足りないでしょう。エルメロイさん、ほかに自警団のような組織はないのですか?」


 アイザックが尋ねる。


「非公式ではありますが、各地に点々といます。」


「じゃあそいつらも引き入れよう。」


「だが、別組織が一つの部隊で動くのは容易じゃない。それはお前もわかっているだろう。連携して動けるかすら怪しい。」


 ニコライはスティーブンに問う。


「ソ連の陸軍ではどうしていた?」


 スティーブンが不敵な笑みを浮かべた。


 ニコライは微笑する。


「もちろん、いうことを聞かない奴は粛清するさ。」


「それでいい。方法は任せる。お前が奴らに軍とは何かを教えたらいいさ。」


「民主主義の移行に関してだがその必要はないだろう。先進国ならまだしも、この国は今窮地に立っている。独裁制の方が運営がしやすい。」


「そうですね、しかし農業や交通機関はこの国の要です。我々の実績を国民に示すためにも必要でしょう。」


「そうだな、じゃあそっちは任せるぞ。」


「わかりました。」


「では、これで内政に関しては十分ということですかな。」


「ああ。で、問題は・・・」


 スティーブンは目配せする。合図と同時にエルメロイは地図をテーブルの上に広げた。


「エルメロイ、今すぐにでもミルジゲアナに攻め込める魔王軍の位置と詳細を教えてくれ。」


「わかりました。」


 エルメロイはミルジゲアナの東を指す。


「ここから東にジュラの森林と呼ばれる場所があり、そこに魔王軍の拠点の一つがあります。攻め込まれるとしたらここかと。」

「魔王軍の拠点は計四つ。一つは先程の森林、一つはここから北北西の海岸沿いにある港町、一つは北東にある鉄鉱山、一つは北にある雪原にそれぞれそんざいします。」


「港町?魔物たちは知能が低いと聞きましたが魔物が都市を築いているのですか?」


 アイザックはエルメロイに質問する。


「いいえ、もともとは王国の領土だったのです。しかし、魔王軍の侵略が激化し、魔物に落とされてしまいました。」


「鉄鉱山ってことは、占拠されているのか。」


 ニコライは顔をしかめる。


「さようでございます。」

「その鉱山の規模は?」

「正確な埋蔵量は分かりませんが、市場価格が暴落するほどにはあるかと。」

「それを魔王軍に取られているのか・・・」


「森林にいる魔王軍の部隊について情報はあるか?」

「森林にいる魔王軍は実は魔王直属の部隊ではなく、現地の魔物どもが設けた非公式のアジトなのです。ですから、部隊といっても単なる寄せ集め集団で、実力も正式な軍には程遠く、情報も少ないです。しかし、最近になって魔王軍から二部隊、幽霊騎馬隊ゴーストライダー狂戦士部隊バーサーカーが所属しました。」

「ゴーストライダー?」

「はい。ゴーストライダーは呪術の一つ、ネクロマンスによって再生された我が国の騎馬兵の骸、簡単に言えば亡霊のようなものです。」

「この世界じゃ死者蘇生もできるのか。怖いねえ。」

「実際は蘇生魔術には程遠いです。ネクロマンスは死者に新たな生命を与えるのではなく、別の魂を犠牲に対象の魂を死体に定着させるのみです。ゆえに、本人は大部分の記憶を欠損していて眷属けんぞくとよばれる戦闘技術だけをもつ術者の奴隷となります。」


「生者でもないのにどうやって動くんだ?」

「眷族は自らの魂をエネルギー源として活動します。ですから寿命も5年程度と短命です。」

「そいつらについて何か他にないか?特徴とか、性格とか。」

「我々も兵士からの報告でしか把握していないのですが、彼らは死霊失踪ゴーストダイブという能力を持っています。」


「死霊失踪は一定の速度の中、自らの肉体を一時的に霊体化させ、あらゆる攻撃を無効化します。」

「眷族には物理攻撃は効かないということか?」

「いいえ、死霊失踪は幽霊騎馬兵固有の能力です。むしろ、眷族は物理攻撃に対して脆弱です。また、彼らも長時間は能力を行使できないでしょう。」


「次に狂戦士ですが彼らは魔物の一種というわけではなく、特定の魔物の総称です。」

「ほかの魔物と何が違うんだ?」

「一般的に生物には種の限界というものが存在しています。それは魔物も例外ではありません。」

「しかし、彼らはその天井を捨てたのです。」

「どういうことだ。」

「勇者様たちは底知らぬ童により人間、いえ生物の限界を取り払いました。しかし、彼らは他者の魂を生贄にし、強引に自らの限界を破ったのです。」

「飢餓者、それが彼らがつかっている呪術です。永続的な飢餓感にさいなまれますが、そのかわり彼らは勇者と同じレベルの成長速度を得ました。生気を貪り自分の魂とする。」

「勇者は経験を糧とするのに対し、あれらは捕食、その行為自体を必要とし、それによって成長します。」

「強さは個体によって大きく変わりますが、中には魔王軍幹部に匹敵するレベルの者もいるでしょう。」


「これで以上になります。他にご質問はありますでしょうか?」

「ありがとう、助かった。」


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