第2話 召喚した勇者(?)
「して、エルメロイよ。勇者召喚の準備はいかほどか。」
「問題なく進んでいます、王よ。」
「そうか。」
つりさげられたいくつもの宝石を纏うシャンデリア、城を支える荘厳な大理石の柱、金がふんだんに使われた王座、そして、いかにもといわんばかりに居座る王のたたずまい。
「エルメロイよ。」
主君に呼ばれ、身をすくめるのはエルメロイとよばれる側近。年は取っているものの、その顔立ちからは有り余る知識と経験を感じさせる。
「思ったのじゃが・・・」
「何でしょうか、王よ。」
「勇者の同時召喚というのは可能か?」
「・・・つまり、勇者を複数、少なくとも二人は召喚するということでしょうか?」
エルメロイは衝撃を受ける。ミルジゲアナ国王の初めの代から十五代たつ今に至るまで、勇者は一人までしか召喚されてこなかったのだ。
「ああ。」
「・・・僧侶と賢者たちにそういい含め、魔法陣を人数分記述すれば可能かと思います。勇者召喚は文字通り神の導き、橋渡しこそすれ、勇者をこの世界まで連れてくるのは我らが主ですから。しかし・・・」
「なんだ?」
エルメロイは少し押し黙る。それは遠慮の沈黙ではない。自らのなかで勇者召喚の工程を再現し、凌駕し、自制する。あくまで王は国の主君、専門用語など通ずるはずがない。ゆえに簡潔な結論が求められるのだ。
「勇者の選定を行うのも我らが天高き主の務めでございます。はたして、王の望むまでの勇者が現れるかどうか・・・」
「かまわん。」
「・・・」
「勇者を異の地から連れてくるのは誰だ。魔法陣の記述以外に我々が求められることはほかにない。仮に現れずとも大した損害はではないだろう。」
「わかりました。家臣にそのように伝えておきます。王よ。」
「ああ。急ぐことだ。最近、魔王が復活した。魔王は歴を追うごとに強くなっている。この国が落とされるのも時間の問題だ。それまでに、勇者には降りてきてもらわねばならん。」
「御意。」
エルメロイは足早に王間を去る。重厚な扉の音がこだまする。
「これで良いですかな?我が主人よ。」
そうそうに準備は整えられた。王間には五つの魔法陣が記されている。
「お許しください。我々では五人分の魔法陣を用意するのが限界でした。」
「申し分ない。このまま続けろ。」
「御意。」
賢者とみられる者どもはせっせかと魔法陣の最終確認をし、予定より多く緊急に招集された僧侶たちはみな口をこわばらせ、その時を待っている――
「準備が整いました、王よ。」
「うむ、では始めろ。」
王の合図とともに僧侶たちは賢者が作り上げた魔法陣を手順を追って起動させる
。徐々に部屋の光は薄れ、あらゆるエネルギーが魔法陣へと収束される。
「現れ給へ、勇者たちよ。連れてき給へ、我らが主よ。魔の者はびこるこの世界に、希望の光を与え給へ!」
王家代々から伝わる勇者召喚の儀、その秘匿された呪文を王は唱える。
――瞬間、中心から巻き起こった爆風に数人の僧侶が体制を崩す。シャンデリアは音を立ててゆれ、ステンドグラスは割れんばかりにきしむ。
「何の話だ?」
「期待どおりでしたよ。これなら問題なくやってくれるでしょう。」
「何を言っている!」
男は老人の不可解な言動に声を荒げる。おかしな爺さんだ、そう思う前に、男はなにか嫌な予感がした。
「一時はどうなるかと思いましたが、これで何とか5人そろいますね。」
「何をわけのわからないことを!」
男がそう叫んだ、その時であった。急に耳鳴りと頭痛がし、不快感に襲われる。男はたちまち、動けなくなった。
「言語につい・は心配しない・・ださい。私が何とかし・・・ます。」
「時間・・に気を付・・く・さい。なれ・・・題・い・すけど。」
老人の声がかすれていく。男は真っ暗になっていく視界の中、何とか力を振り絞りつぶやく。
「き・・さま・・・」
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白煙が徐々に晴れていく。そこにあるのは勇者とみられる数人の人影。儀式は少なからず成功したのである。
「おお、遂に来たか!」
王は高揚し、思わず玉座から立ちあがる。
「ようこそ、勇者たちよ。魔王が支配するこの世界から我らを救い給へ!」
「・・・」
「「「「嫌なんですけど。」」」」
「・・・え?」
王間は静寂に包まれた。
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