第14話 『赤色』の願い

 彼は、少しずつ話し出した。




「7年間」




 いつしかベッドの上に二人、向かい合わせで座っていた。








 彼の涙は、乾いていた。








「俺だけは、現実を1人で生き抜いた」





 他の心はどこかへ行ってしまった。


 何が起こっても、誰にも相談は出来ない。





 何もかも、1人で抱えてきた。





「途方もなく孤独で」





「うん」





「どうしようもなく空しくて」





「うん」





「心の中の水分は蒸発したみたいに、いつも乾ききっていて」





「うん」





「お前さっきから、『うん』しか言わないな」





「うん」





 ダメだ。





 涙が零れてしまいそう。






 こんな事を考えてはいけないが、きちんと彼が話してくれるようになった事が、嬉しい。









「そんな中を、手探りで生きてきた」











 その場所は暗闇。











 光の中で生きる、闇。











「この乾きに殺されそうになる自分に、孤独に負けてしまう自分に、ただただ怒りだけが湧いた」






 彼は私の目をもう一度見つめ、静かにこう言った。





「怒りの気持ちだけが、俺をこの世に繋ぎ止めてくれた」





 驚いた事に、彼は私の頭を優しく撫でた。





「俺は、お前を憎んでない」









 そして、私をぎゅっと、抱きしめた。










「7年前」













「お前に初めて恋してしまったから、俺はバラバラになったんだ」


















「…………」














 











 私の目から、涙が零れた。


















 止まらない。次から次へと、溢れて来る。















 桃色の真珠に変わって、私の涙は、そこら中に落ちていく。














 輝く真珠達は、この乾いた暗い部屋を、


 徐々に明るく、照らし出した。


















「あなたの願いは?『赤色』の海斗」











「…………願い?」
















 彼は、しばらく考えた。



















 そして、何かを思いついた様子で、彼は初めて、明るく笑った。











「蘇りたい」















「自分の世界を、裏返して、変えて、もう一度深く味わってみたい」












 私は頷き、



 彼にこう言った。


















「じゃあ、目を閉じて」













「?」
















「キスしてあげる」














「…………!」


















 大人しく目を閉じた彼の、











 乾いた唇にそっと、私は口付けた。














 何度も、何度も、自分から。







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