第11話 『青色』の嫉妬

 天気は快晴。10月のある日曜日。



 マナを誘って、ショッピングモールに来た。

 急に、何かを彼女に贈りたくなったから。



「何が欲しい?」



 マナは考え込むような仕草をしたが、


「わからない」



 と、きっぱり答えた。想定内。


 買い物など、したことが無いのだろう。



「じゃあ、服を買ってあげる。あまり持ってなさそうだから」



「そう?白装束なら7着はある」



「普通の洋服!」



 手を繋いで、色々なショップの中に入る。店員のアドバイスを受けながら、次々とマナに綺麗な洋服を試着させる。



 想定外の、可愛らしさ。

 何を着ても、驚くほど絵になるのはさすがというべきか。



 君に、また夢中になってしまう。



「白いワンピース、1番似合うね」



「じゃあ、これにする」



 正直、彼女はどれがいいのかわからなかったようなので、俺が勧めるままに白いワンピースに決定してしまった。



「そのまま着ていて欲しいな」



 一緒に選んだ服を着てくれて、手を繋いで笑いながら、寄り添って歩いてくれる。



幸せが青空まで突き抜けてしまいそうな、爽快な気分の一日。





 ランチが終わると、海が見える空中庭園を、2人で散歩して歩く。



「赤が、マナには1番似合うと思っていたけど、違ったね。白だった」



「赤?」



「情熱の赤。君は不死鳥なんでしょう?」



「そう。でも、私の色は内緒」



 マナは歩きながら答え、少し考えた。



「そういえば、赤…。『赤い色』のあなたには、まだ会えていない」



 マナは、俺を見つめた。


「『青』のあなたは、『赤』の彼のこと、何か知らない?」



「マナ」



 少しだけ、ムッとして、俺は立ち止まる。



「他の男の事を、考えるのは禁止」



「あなたの事だよ」



「今は、完全に他の男」



 俺は彼女を引き寄せ、強引に抱きしめる。


 壊れてしまわないよう、気をつけながら。



「わかるよ。君は俺たちを1つにしたい。多分、それは可能だと思う。でも…」



 こんな感情が、自分にもあったなんて。



 もう、君しか目に入らない。



 これが嫉妬、という感情?




「俺だけ見て」




 耳元で囁くと、彼女は顔が赤くなり、逃げたくなったのか咄嗟にこう言った。



「人が見てる」



 真昼の、ショッピングモール。


 10月の日曜日。


 周りを歩く人達は皆、こちらを見ている。

 道の真ん中で、ラブシーンをしているから。



 誰が見ていたって、構わない。



「恥ずかしい?不死鳥なのに?」



 耳元に、そっとキスをする。



 触れている部分は、くすぐったさを伴いながら、確かに感じ合っている。




 心は、触れ合っているの?


 ちゃんと、君に伝わっているの?




 瞳を見つめる。深い、深い黒。

 吸い込まれそう。




「恥ずかしいなら、今だけ目を瞑って」




 彼女は、俺に言われた通りに、目を瞑った。




 可愛い。




 彼女の髪を、ゆっくりと撫でてみる。




 顎を、ゆっくり上に向けてみる。




 唇に、そっとキスをしてみる。





 そして、急に、





 我に返る。






「…何やってんだ、俺」



 


 顔が熱い。




 

「走ろ!」





 マナの手を引いて、2人で海の近くまで、全力で走った。照れたように笑いながら。














 夕方になった。



 2人で手を繋いで海岸線に落ちる夕陽を眺めながら、俺は白状した。



「『赤』の俺だけは、ただ1人、現実と正面から戦っていたんだ」



「え…?」



「7年間。だから許してあげて」



「何を…?」




「あいつが、どんな事を言い出しても」




 マナは、頷いた。





「もちろん」





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