第8話 『緑色』の癒し
突然、天野マナは俺の高校に転入してきた。
彼女とはとても仲良くなり、それから俺は岩時神社へ、頻繁に遊びに行くようになった。
マナの兄にあたる
岩時神社は、地域の人々に愛されているだけではない。この御神域には蘇りの御利益があるとされ、世界各国から参拝客が絶えない。
境内にある神社カフェも、大盛況である。
そのため、近所に住む俺はいつしかカフェを頻繁に手伝うようになっていた。
6月の終わり。
体がだるい。
俺は知っている。
眠りには、再生の効果があるという事を。
そして、眠った後の体と心からは、
極上の優しさが生まれるんだ。
カフェの休憩室でにあるソファでうたた寝。
自分に言い訳しながらの、サボり。
巫女姿で販売をしていたマナも、休憩室へとやって来た。
「眠り姫か」
マナは堂々とサボっている俺を見て、苦笑した。
「『緑色』海斗は、癒し系だから」
自分でも言ってみる。
そう、ちゃんと今は『緑色』であると自覚している。
マナの、何もかもお見通しといった表情。
別に、からかわれたって悔しくはないけれど。
こちらから、からかってみたくなる。
「キスで起こしてくれる?」
聞いてみただけ。
彼女の反応が、見たかっただけ。
…それだけのはずが。
彼女は目を見開いて、恥ずかしそうな表情を見せた。
そして、どんどん顔が赤くなった。
それを見ただけでも、俺の心臓はギュッと、音を立てたというのに。
ゆっくりと、彼女はためらわずに近づいて来た。
ぞくり、と肌がざわついた。
言い出した手前、受け取る覚悟をする。
滑らかな唇がそっと、俺の唇に触れた。
体の奥から、ぽかぽかと温かい何かが廻る。
じわじわと広がる。
強くて、嬉しくて、楽しくて、湧き上がる。
これは、一体何?
見られたくない。
今、顔が真っ赤になっているから。
マナから目を背け、言い訳をするように呟く。
「巫女にキスされるなんて、今、すごくイケナイ事してる気分…」
「巫女ではない」
マナも、恥ずかしそうに微笑んだ。
「不死鳥」
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