第8話 『緑色』の癒し

 突然、天野マナは俺の高校に転入してきた。


 彼女とはとても仲良くなり、それから俺は岩時神社へ、頻繁に遊びに行くようになった。


 マナの兄にあたる時刈爽とがり そうさんは、33歳にして宮司をしており、俺のことを弟のように可愛がってくれた。


 岩時神社は、地域の人々に愛されているだけではない。この御神域には蘇りの御利益があるとされ、世界各国から参拝客が絶えない。



 境内にある神社カフェも、大盛況である。



 そのため、近所に住む俺はいつしかカフェを頻繁に手伝うようになっていた。




 6月の終わり。




 体がだるい。




 俺は知っている。

 眠りには、再生の効果があるという事を。




 そして、眠った後の体と心からは、






 極上の優しさが生まれるんだ。






 カフェの休憩室でにあるソファでうたた寝。



 自分に言い訳しながらの、サボり。



 巫女姿で販売をしていたマナも、休憩室へとやって来た。



「眠り姫か」



 マナは堂々とサボっている俺を見て、苦笑した。



「『緑色』海斗は、癒し系だから」



 自分でも言ってみる。



 そう、ちゃんと今は『緑色』であると自覚している。




 マナの、何もかもお見通しといった表情。



 別に、からかわれたって悔しくはないけれど。





 こちらから、からかってみたくなる。





「キスで起こしてくれる?」




 聞いてみただけ。




 彼女の反応が、見たかっただけ。






 …それだけのはずが。





 彼女は目を見開いて、恥ずかしそうな表情を見せた。





 そして、どんどん顔が赤くなった。





 それを見ただけでも、俺の心臓はギュッと、音を立てたというのに。





 ゆっくりと、彼女はためらわずに近づいて来た。





 ぞくり、と肌がざわついた。





 言い出した手前、受け取る覚悟をする。





 滑らかな唇がそっと、俺の唇に触れた。





 体の奥から、ぽかぽかと温かい何かが廻る。




 じわじわと広がる。





 強くて、嬉しくて、楽しくて、湧き上がる。






 これは、一体何?







 見られたくない。





 今、顔が真っ赤になっているから。






 マナから目を背け、言い訳をするように呟く。







「巫女にキスされるなんて、今、すごくイケナイ事してる気分…」








「巫女ではない」








 マナも、恥ずかしそうに微笑んだ。









「不死鳥」







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