第6話 『青色』の海斗

 5月7日、16時。


 2年5組の『青色』の海斗は、旧視聴覚室に現れた。




「行くよ、マナ」




 彼は私の手を取って、走り出した。





 岩時神社。本殿でも桜の木の前でも無い。




 手水舎で禊を済ませ、拝殿の前に並んで立つ。




 賽銭を入れ、鈴を鳴らし、二礼、二拍手、一礼。




 手を合わせて何かを願う、真剣な横顔。




 『青色』の海斗は、どんな願いを持っているのだろう。




 海斗はこちらを見ずに、聞いてきた。




「君は何も願わないの?神様だから?」




 私は、ため息をついた。




「私は神ではない。ヒジリ神に仕える霊獣」




「霊獣?」




「そう。不死鳥。私は、願わない」




「…何だか、カッコいいね」




 何がカッコいいものか。大切な人の心を、バラバラに焼いたというのに。



 自分の力を、心底忌々しく感じてしまう。





 私の表情を見た海斗は清々しい表情で微笑み、




「安心して、マナ」





 と言ってくれた。





「多分、俺、1つになれる」





 私は、耳を疑った。





「どうして?」





「俺たち全員、願いが一緒だから」





「それって…」





「君と、ずっと一緒にいたい」






 海斗は微笑んだ。







「君が、好きなんだ」







「…………!」







 光が、溢れた。






 色が、たくさん弧を描く。






 軽やかな鈴の音と、ひんやりとした風。






 しっとりと濡れた、木々の香り。






 いつか彼が飲んだ、霊水の清らかな味。






 私がいつか見たあなたの色は、こんなに圧倒的だっただろうか。






 虹の中にいるみたい。










「私も、あなたが好き」








 私は、愛おしくてたまらない彼の胸にそっと顔をうずめ、その背中に腕を回してぎゅっと、きつく抱きしめた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 しばらく彼の心の中を、私は旅していたのだが、兄であるヒジリ神様に、元の世界へ帰って来いと命令されてしまった。






 一旦は、戻るとしようか。








 何かが、始まる気がするから。



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