第2話 『黄色』の海斗
5月7日、16時。
チャイムの音は、少し変わっている。
私にとっては微笑ましく愛すべきもので、とても心に残る。
2年1組には、『黄色』の海斗がいる。
「海斗」
放課後になり、彼の教室のドアを開けると、友達に囲まれた海斗は、軽くこちらに手を上げて返事をする。
「マナ」
『黄色』の海斗は、陽気で楽しい人物である。
どの友達にも分け隔てなく、優しい。
「少し付き合って欲しい所がある」
海斗は私を見つめ、笑顔で頷いた。
「わかった」
放課後、海斗と二人で私が住む岩時神社のカフェに寄り、海斗はコーヒー、私は抹茶パフェを注文した。
「最近、何か変わった事は?」
私が聞くと、
「マナが優しい」
海斗は柔らかく微笑み、私をじっと見つめた。
「お前なら、何か知ってるのかな」
「?」
「目を細めるとさ、人の心が見えるんだ」
「心?」
どきっとした。
海斗に、人間とは違う力が宿ったというのだろうか。
「正確には、心の動き、かな。石のように見えるんだ」
「穏やかな時は緑色の石、怒っている時は赤い石、悲しい時は灰色の石、清々しい時は青い石」
「……」
「石の大きさも、形も、心の状態で変わる。みんなが考えている事が、手に取るようにわかる」
「…そう」
やっぱり、そうだったんだ。
私のせいだ。
これを、海斗から聞き出したかった。
「目を細めなければ、何も見えない。俺が見ようとしなければ」
「海斗」
ごめん。
「……何?」
謝罪しなければ。
「7年間ずっと、人の心が見えていた…?」
「見えていた。でも、おかしいんだ」
「おかしい?」
「マナ」
「?」
カフェのテーブル越しに海斗は、私の頬にそっと触れた。
「お前の心だけ、何も見えない」
それは、そうであろう。
私は人では、無いのだから。
「教えて、マナ。お前の事が知りたいんだ」
海斗は徐々に、私に近づいてくる。
「お前は、どうやって俺の前に現れたの?」
少しでも近づけば、唇が触れそうな距離。
「俺はどうして、お前の事ばかり考えてるの?」
海斗はそっと、私の髪に触れた。
「苦しいんだ、いつも。助けてよ、マナ」
最後は、小さくて聞き取れないような、悲鳴のような声で囁く。
「助けに来たよ、海斗」
私は、海斗の頬にそっと触れた。
涙が溢れて来る。
「助けに来たんだ、本当に」
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