神様と私

雨世界

1 ある日、私は学校で『神様』と出会った。

 神様と私


 プロローグ


 さようなら、……神様。ばいばい


 本編


 こんにちは、神様。


 ある日、私は学校で『神様』と出会った。


 私が初めて、二人っきりで『神様』と出会ったのは、中学校三年生の夏の季節のときだった。神様は誰も人がいない放課後の教室の窓際の席のところに、ぽつんと一人ぼっちで立っていた。


 赤色に染まる教室の中に。

 ……残酷な世界の中に。

 神様はいた。


 教室の中には長く伸びた神様の黒い影が、私が開けた教室のドアのところにまで、伸びていた。

 私がその影を見て、それから神様のことを影を追うようにして、じっと見ていると、教室の窓から外にある真っ赤な夕焼けをぼんやりと見ていた神様がゆっくりと顔を動かして、私のほうに振り向いた。


 神様は私を見て、にっこりと笑った。


 神様の顔は影になってよく見えなかったのだけど、そのとき、確かに神様は笑っていた。(それがなぜか、私にはよくわかった)


「こんにちは」と神様は言った。

「……こ、こんにちは」と私は少し緊張しながら神様に言った。(神様とこうして話をするのは、今日が初めてのことだった)


 すると神様はそんな私の反応を見てくすっと笑うと、それからゆっくりと歩いて私のいるところまでやってきた。(その間、私の心臓はずっとどきどきしていた)


 私はそのとき、その場所で、神様と二人だけでしばらくの間、お話をした。それは本当に素敵な時間だった。私の人生において、頂点、あるいはてっぺんと言ってもいいくらいに幸せな時間だった。


 神様と話している途中で、私は泣き出してしまった。


 視線と涙が溢れ始めた。


 ぽろぽろと止まることのない、透明な涙。(その涙を神様は真っ白なハンカチを取り出してそっと優しく拭ってくれた)


 ……それくらい、泣いちゃうくらいに、あなたは本当に美しかった。(あなたは私の憧れだった)


「さようなら」と教室から出て行くときに神様は私に笑顔で言った。


「うん。さようなら」と私は笑顔で神様に手を振りながら、教室から出て行く神様の後ろ姿を見送った。


 それが、私と神様の間にあった直接の関係のすべてだった。


 さようなら、美しい人。

 ……さようなら、私の神様。

 ……さようなら。私の永遠の憧れ。


 ばいばい。


 私は神様がいなくなった、誰もいない、からっぽの教室の中に入ると、さっきまで神様が立っていた場所から、同じように窓を開けて、外の夕焼けの風景をじっと見つめた。


「よし」と私は笑顔で言った。


 それから私はやっぱりこれからも、『生きていく』ことにした。


 私は自分の家に帰るために、帰る準備をしてから、元気に(本当はいけないのだけど)誰もいない中学校の中をたった一人で走り始めた。(私が中学校を出るころには、外の世界はもう、だいぶ、暗くなり始めていた)


 神様と私 終わり

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神様と私 雨世界 @amesekai

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