第5話

「あの、ここって?」

「え?見れば分かるでしょ。ゲームセンター」

 いや、それは分かるのだけれど。

 俺はてっきりホテルに行くものだと。

「ここで合ってる?」

「うん。じゃあ早速遊ぼ!まずはあれね!」

「うわっ!?ちょっ!」

 ギャルは俺の手を引いて、エアホッケーの台へと走り出す。

「はい、じゃあ200円ちょうだい」

「は?俺が払うの?」

 まさか自分から遊びに誘っておいて奢れと言うのだろうか。

「違う違う。400円だから割り勘!はい、200円ちょうだい!」

 どうやら彼女も金銭は出すらしい。まぁ、奢らされるわけでないなら付き合ってあげても良いだろう。

「………わかったよ」

「はい、どうも!」

 彼女はお金を受けとるなりチャリンチャリンと音を鳴らしてお金を通貨入に入れ始めた。

 最後の100円玉を入れた瞬間、

『レディー………ファイッ!!」

 と機械から音声が流れる。

「よーし行くよー!!」

 ギャルは勢いよくカキンとパックを打つ。

「ふっ………甘いな」

 まさか真ん中に打ち込んでくるとは。

 俺は右手に持ったマレットでパックをガツンと止める。

 そして、斜め右に向かって勢いよくパックを打つ。

 ズガガガガガと勢いよくジグザグに移動するパックを止めるのは中々に難しい。

 果たして彼女に止めれるかどうか。

「ほっ!」

「なっ!?」

 と、止めた………!?

「ふふふん………舐めてもらっちゃ困るよ…………えいっ!」

 カッカン!ゴト。

『ゴオォォルッッ!!』

「なっ!?」

 は、速い。

 なんてスピードだ……!!

 壁をうまく利用した見事なシュート……。

 そのスピード……体感コンマ5秒!

 なるほど……ギャルも一筋縄にはいかないと。

 俺も本気を出すべきのようだ。

 パックを下から取り出して台の上に乗せる。

 ………狙いを定めて………打つ!

 カキン!スパン!ゴト。

「え!?速っ!!」

「ふっふっふっ………」

 こういうのは変に壁に当てるよりも、いきなりゴールを狙った方が入るときもある。

 今のはそれの成功例だ。

「なるほどね………本気出してきたって訳………望むところよ!」


 ───5分後。


「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁっ!」

 スパパカキンカキンカキンカキン!

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!」

 スパン!カキン!スパン!カキン!スパン!カキンカキンカキンカキン!

 ぐっ……!中々やるな!

 点数は……51対51!

 点差ゼロだ!

『ビーーっ!!残り10秒』

 ファイナルラウンド、残り10秒のブザーが鳴った。

 つまり、残り10秒でこのパックを相手のゴールに叩き入れた方の勝利!!

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁっ!」

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!」

 スパン!カキン!スパン!カキン!スパン!カキン!カキンカキン!!

 ………残り5秒………!

 ………まずい……。

「えいっ!」

 ギャルの最後の攻撃だ。これを打ち返してゴールに入れれば俺の勝利。

 落ち着け……ギャルの死角を狙うんだ。

 ………見えた!

「おらぁっ!」

 スパン!カキン!ゴト。

『ブーー!!ゲームセット!』

「て、点数は!?」

 俺対ギャル。

 点数。

 52対51。

「よっしゃぁぁぁっ!!」

「うわ~!負けたぁ………!」

 ど、どうにか勝った………。

 これも小学校の頃に愛音とエアホッケーをやりまくってたお陰だな。

 いや、しかし相手も強かった。恐らく俺と同じでエアホッケーを極めた者なのだろう。

「ぶぅー……男のくせに!大人げないぞ!」

「いや、大人げないって……しかも男女関係なくね?」

 トクン……。

 あれ?このやり取り。

 何だか既視感があるような。

 ───へっへっへー!!また俺の勝ち!

 ───もぉ~!りょっ君ずるい!大人げない!

 ───いや、同い年じゃん!

 ───それにあたし女の子だよ!ちょっとは手加減して!

 ───関係ないもんね~!!

 そうだ。愛音だ。

 まだ明るかった頃の愛音とエアホッケーをしてた時もこんな感じだった。

 俺が勝つと何かと文句をつけてくる愛音。

 そんな幼い頃の愛音に、このギャル、そっくりなのだ。

「うん?どした?」

「……い、いや何でも」

 好きな子との思い出を思い出したなんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。

「ふ~ん……まぁいいや!次あれね!」

「アリオカートか……よし!やろう!」

「あれ?何かノッてきた?」

「べ、別に」

「ふ~ん……!」

 ギャルはうでを組んで、ニヤリとしながら俺を見る。

 ………まぁ、楽しいのは本当だが、認めるのは何だか悔しいから、知らないふりをする。

 とりあえず今は楽しめるだけ楽しんでおこう。


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