第4話

 その日の放課後。

「ねぇ、これから一緒に遊ばない?」

 女が公園のベンチに座る僕に話しかけてきた。

 派手な化粧をして、胸元までボタンを外し、スカート丈も短い。

 黒髪であるが、いかにもギャルっていう感じの女だ。

 こういう人の遊ぶってだよな。お金取られたりするやつだ。

 もちろん答えはノー。僕は今、愛音を待っているんだ。

「いや、人待ってるんで。ごめんなさい」

「え、人?………あぁ、そっか」

 彼女は納得したのか、小さく2、3回頷く。どうやらやり過ごせそうだ。

「じゃあさその人来るまで一緒に話さない?どうせ暇でしょ?」

「は?」

 謎の女は俺の返事も聞かずに僕のとなりに座ってきた。

「え………?」

 予想外すぎて頭が回らない。

「り………と、とりあえず、名前教えて?」

「り、龍です………『龍』って書いてりょう………」

 ん?何でこうなった?

 俺は放課後、愛音に「学校近くの公園で待っててくれる?」と言われて、その通りにしていたのだが。

 何だろう。告白かな?まさか~。なんて想像したりしながら待ってたんですが。

 なぜ、俺は素性の知れぬギャルと席を隣にしているのだ?

「龍か~じゃあ、りょっ君ね!」

「りょっ君!?」

「あれ?ダメ?」

「い、いや別に……」

 まさか、愛音が命名したアダ名と同じアダ名で来るとは思わなかった。

 俺ってりょっ君顔なのかな?

 って、そんな事はどうでもいいんだ!

「お、俺に何か用?ですか?」

「いや、何か寂しそうにしてたからさ。声かけちゃった。後、タメ口でいいから」

 ………まぁ、確かに寂しそうにしてたっていうのは当たっているかもしれない。

 愛音がなかなか来なくて少しばかり寂しく感じていたのは本当だ。

 ギャルに心配されるほど表に出てたのか?それは恥ずかしすぎる………!

「あ!あたしちょっとトイレ行ってくる!あたしがいない間にどこかに行ったりしないでよ!」

 そう言うと彼女はてくてくと併設されている体育館へと歩いていってしまった。

 この公園は体育館と併設されており、利用者は公園で遊んでいる時にトイレに行きたくなったら体育館のトイレを使うのだ。

 それを知っているという事は、ここら辺が地元の高校生ということになるな。少なくとも遠くから来たって訳ではなさそうだ。

 そんな事を考えているとピコン!とズボンのポケットから通知音が鳴った。

「ん?」

 携帯を見ると、そこには愛音からのメッセージを知らせる通知があった。

「………えーと『ごめん。用事が出来たから待たずに帰っててくれる?』ね。うん、なるほどなるほど」

 ほわっつ?

 もしかして、愛音来ない?

「………よし。帰ろう」

 泣きたい気持ちを抑えてスッとベンチから立ち上がる。

 ………そういえばあのギャル、どうしよう。待っててとか言ってたな。

 う~ん。

 ま、いっか!無視しよ!

 そう決めて俺は歩き始める。

「あっ!!」

 ギクッ。

 こ、この声は……。

「今帰ろうとしたでしょ~。ひどいな~?」

 例のギャルだ。

 帰ろうとしたことがバレたら(もうバレてる?)面倒な事になりそうだ。

 ここはどうにかして、弁解せねば……!

「ち、違う違う。遅いから心配になって様子を見に行こうかなって!」

 完璧!

「女子トイレに?」

 詰み!

「すいません。帰ろうとしました」

 正直に話そう。もう王手をかけられた。どこに駒を動かそうと逃げ場はない。

「あ~あ~!いけないんだ~!人の約束破る人はいけないんだ~!」

 笑いながら指をさしてくるギャル。

 黙れ小学生。そう言いたくなったがグッと堪える。

 今はこちらが劣性にある状態だ。それにギャルにそのような暴言を吐いたら後が怖い。

「……すいません」

「これは罰が必要ですな~」

「罰?」

「うん、罰」

 え?俺、罰受けるの?

 何、罰って。怖いんだけど……。

 ギャルの罰って何!?靴なめろとか!?地べたに這いつくばれとか!?

 あぁぁ……俺はただ愛音を待っていただけなのに……。受けるなら愛音から罰を受けたい。あれ?俺って変態?

「ば、ばばば罰って何ですか?」

 恐る恐る聞く。

 踏ませろってか?

 ってか?

「う~ん………よし!じゃあ、私と遊ぼう?」

「は?」

「どうせ待ち人は来なかったんでしょ。だったら一緒に遊ぼうよ!」

「遊ぶ………?」

 遊ぶって………ホテルか?

 イイコトしましょ?的な?

 絶対そうだ。いきなり男を遊びに誘うようなギャルは大抵ホテルに決まってる!そうに違いない!彼女は童貞狩りをしてるんだ!

「遊ぶって………お金は?」

 いや、お金の心配じゃないだろ俺。断れ。

「それぞれで」

「なるほど」

 なるほどじゃない。

 断れ、俺。

「因みに断った場合は?」

「………聞きたい?」

 彼女から笑顔が消える。

 あっ(察し)。

 これ、ボコボコにされるやつだ。

 童貞を捨てるか、ボコボコにされるか。選択は2つに1つ。

 くそっ………俺の童貞は愛音に捧げるつもりだったのに………!!

 まさか、こんなところで邪魔が入るとは………!!

「で、行くの?行かないの?どっち!!」

「あ、行きます」

 彼女の気迫にあっさりと負けた。ごめんよ愛音。僕は君以外の女に抱かれてしまうようだ………。

「よし!じゃあ、行こっか!」

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