第3話

「あ、愛音………おはよう」

「あ、うん………おはよう」

 教室に着くと、愛音が隣の席で本を読んでいた。

 皆が友達と楽しく会話しているなかで一人本を読む姿はあまりにも寂しい。

 席について、早速昨日考えたプランを進める。

「あ、愛音?」

「………え?な、何?」

 話しかけられるとは思っていなかったようで、愛音は昨日と同様驚きの表情を見せる。

「あ、いや………昨日の話の続きっていうか。ほら、話しかけてチャイム鳴っちゃったから」

「あ、あぁ……」

 愛音は理解したらしく、本を閉じて、体をこちらに向ける。

 どうやら、嫌そうではない。

「あのね……連絡先交換しない?」

「あぁ……連絡先ね……連絡先!?」

 ………なんということか。

 人と関わろうとしなかった彼女からまさかの連絡先交換を持ちかけられるとは。

「………ダメ……だった?」

 愛音は悲しそうな顔をする。

 そんな顔をする必要ないのに。ダメな訳あるか?逆にずっと欲しかったよ。

「い、いや!全然!むしろ嬉しいよ!」

「そ、そっか。よかった……」

「じゃ、じゃあ早速」

 俺は携帯を取り出してRAINを開く。愛音も同様に鞄から携帯を取り出してRAINのアイコンをタップした。

「えっと……こういうのってどうやるんだっけ………私あんまりやったことなくて………」

「えっと………じゃあ、QRコードでやろう。ちょっと貸して」

 俺は彼女から携帯を受けとる。その時、微かにだが彼女の指に俺の指が触れた。

 その一瞬の出来事で心臓がドクンドクンと波打ち始めるのが分かる。

 まずい。体が熱くなってきた。顔も熱い。これはもしかして赤くなっているのではないか?

 悟られてはまずいと思い、RAIN交換の手順をさっさと進める。

「は、はい!出来たよ!」

「ありがとう………」

 今度は指に触れないように気をつけて彼女に携帯を返す。本堂は触れてしまいたかったが、これ以上顔が熱くなると、本当に顔に出てしまいそうなのでグッと抑える。

「あ………そうだ。私ちょっと用事があるからこれで………」

「あ……うん!」

 愛音は席を立ち廊下へと出ていってしまった。

 ………プランとか必要なかったな。

 机に両腕を置いて顔をうずめる。

 今自分はニヤケが止まらない状態だ。どうにかして抑えたいがどうにも口角が緩む。

 一人でにやける人は大体ヤバい奴と相場が決まっているのだ。眠たい訳ではないが顔を見られないようにするためにはこうする他ない。

 まさか愛音から連絡先を聞いてくるとは………!もしかして本当は俺を含め、皆と関わりたかったのでは?

 いや、さすがに考えすぎか。

 たまたま同じ高校に進学した幼なじみが、たまたま隣の席で、たまたま声をかけてきたから連絡先ぐらい聞いておこっかな?ぐらいの熱量かもしれない。

 ………これこそ考えすぎだろうか?

 何はともあれ、好きな人の連絡先をこうも簡単に手にいれてしまったのだ。

 理由とかの問題ではない。ただただ嬉しい。これで家に帰っても愛音と話が出来る。

「エヘヘヘ………」

 おっと。

 つい声が。

 誰かに聞かれただろうか。

 だが、今はそんな事どうでもいいくらいに嬉しさが勝っている。

 ………というか何か静かすぎるな。

 俺は不審に思い、顔を上げる。

「あれ?」

 教室から皆いなくなっていた。

 そして、それを確認して前を向いたとき、俺に絶望を与える文字が黒板に書かれていた。


『朝、全校集会』


 はい。遅刻確定。

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