第2話
「………やっちまったな」
俺は自室のベッドにボフン!と飛び込む。
結局、その後も愛音と話すことはなく下校の時間となった。
初対面ではないが、俺と愛音は長く離れすぎた。
第一印象ではないが、久しぶりの相手に対する愛音から俺への印象は最悪だろう。
ただのやべぇやつって思われたかもしれない。
「………はぁ。せめてRAIN(メッセージアプリ)くらい聞いとけばよかった」
ナンパに失敗した男みたいな言葉だが、強ち間違いではない。
俺は愛音に逃げられたのだ。
授業の準備という最もな言い訳をされて逃げられたのだ。
「………明日。せめて明日はまともにいかなければ………!まともだってことを証明しなければ………!!」
俺は自分に言い聞かせる。
逃げられたとはいえ、まだ挽回のチャンスはある。
何せ、俺と愛音は席が隣なのだ。話すチャンスくらい腐るほどある。
それに、これは悪口ではないが愛音は休み時間に誰かと話すような人間ではない。よって誰かに話を邪魔される事はない。
こんなに条件が揃った舞台があるだろうか?
否!ない!
これは神が俺に対してゴーサインを出しているからに違いない。
攻めろ!
応えてみせましょう!
となると、今日のような失敗は許されない。
緻密にプランを建てていかなければ。
まずやりたいこと、目標を立てよう。
「………やっぱりRAINゲットだよな」
ひとまず連絡先の入手が最大の目標となるだろう。
どうやってそこまで行くか。
いきなり「連絡先交換しない?」と言うか?
いや、それではただのナンパと何ら変わりないのではないか?
「どうにかRAIN交換までの流れを作らないと………」
話の流れで交換に至らなければならない。
うーん………。
まず今日愛音が言いかけていた話題について触れるべきだよな。
俺、ちゃんと覚えてるんだアピールをする訳ではないが、話せなかった話題に触れるのは割りと好印象だろう。
その話題で盛り上がるとして。
その後は何を話すべきか。
「………連絡に繋がる話題。そんな話題あるか?」
思い付かない。
しかし、考えるしかない。
う~ん………………あっ!
悩み相談!
それなら長引く問題だし、家でも話を聞いてもらいたいという事で連絡先ゲットに繋がるのではないか?
「悩み………悩みか………」
そう。となると、悩みは何か。
今本当に持っている悩みは愛音との仲についての事だ。それを本人に名前を伏せて相談するか?
────実は好きな人がいてさ。
────え?そうなの?
────その人は昔からの友達なんだけど………最近うまくいってなくて。
────そうなんだ………。
────そこで悩み相談に乗ってくれないかな?
────え?私でいいの?
────もちろんだよ!幼なじみだし!
────わ、私で良ければ………。
────そこでさ、家でも悩み聞いてほしいから連絡先交換してくれないかな?
────………うん、いいよ。
あれ?これいけるな。
脳内シミュレーションでは滞りなく物事が進んでいるぞ?
「よしっ!」
さぁ、後はどうやってその話題を切り出すかだ。
いきなり「好きな人がいてさ」とは行くまい。
────ちゃんと話すの久しぶりだよね。
────そ、そうだね………。
────久しぶりついでに少し悩み相談とかしていい?
────………いいよ。
あれ?余裕じゃん。
俺の脳内に存在する愛音は快く悩み相談を受けてくれた。
後は実践あるのみである。
………ちゃんと話さすの久しぶりだよね、か。
長かったな。
3年間一言も交わさずとまではいかないけど、関わらずに過ごしてきたもんな。
中学入学と同時に何故か変わってしまった愛音。
今まで友達だった女子とさえも言葉を交わさずに静かになってしまった。
眼鏡をかけて、短かった髪も長くなってしたこともないであろう三つ編みをするようになった。
ザ・地味女子に変身した愛音を心配する声も多かった。しかし、愛音は「何も」「大丈夫」それだけしか言わない。
話しかけられれば今日のように普通の受け答えをするが、必要最低限の会話しかしない。
自分から話題を出そうとはしないだろうに、何故か今日は自ら話題を持ちかけてきた。不発に終わったが。
気まずかったとはいえ、そんな場面今までたくさんあっただろうに。
高校に進学して、何か心変わりがあったのだろうか。
「でも……覚えててくれたな………」
何にせよ、愛音が俺の事を「りょっ君?」と呼んだときは心が跳ねた。
懐かしい響き。彼女が毎日のように呼んでいた俺のアダ名。
嬉しかった。もう忘れてしまっていたと思っていた。アダ名どころか、俺自身を。
だからこそ、気持ちを抑えられる訳がなかった。
だけど明日は気持ちを抑えて冷静に行かなければ。
例え、今日のように嬉しい事があっても一回落ち着く事が肝となる。
落ち着いてプランを正確に進めるのが第一だ。
とりあえず、連絡先をゲットするのが最優先。
「よしっ!」
俺は逸る気持ちを抑えながら眠りについた。
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