第16話 空気も文字も読めないウチはテレビに出る

時は3月。ウチは2回目の4年生を過ごす事が決定した。

とは言っても、卒業に必要なのは2単位だったので、前期卒業を目標に頑張っていた。


そんなある日、ウチに1通のメールが届いた。


差出人の名前には「ザ!世界仰天ニュース スタッフ」と書いてあった。


番組の企画として、詳しく話を聞きたいとの事だった。


実は就活に落ちまくった時期に、精神が参っていて、誰かにこういった状況を知って欲しいという気持ちで、自分自身で応募していたのが、偶然番組プロデューサーの目に止まったのだ。


正直ウチはびっくりした。まさか採用されるとは……。


番組としては、字が上手く読めない人間が、どのようにして競技かるたで活躍したかを撮りたいとの事だった。


ウチは出演を快諾し、早速プロデューサーとお会いする事に。


生い立ち、人間関係、競技かるたとの出会い、色々と話した。プロデューサーはしっかり話を受け止めて聞いてくれた。


ウチだけでなく、母にもプロデューサーは話を聞いた。親目線からの描写も入れるためだろう。


そしてこの時、母の気遣いを色々と知った。

陰ながらウチのいじめを気にして学校に相談していたり、字が読めないとポロっとこぼしたウチを気にして、独自に障害について調べたりしていたのだ。


少し母に申し訳なくなった。ウチは何にも気づいていなかった。


その数日後、競技かるたのシーンの撮影等も行った。


後のオンエアで、6時間ぐらい撮影したが、使われたシーンは計10秒程で、テレビの恐ろしさを感じた。


テレビの反響はそれなりにあった。後日かるたの練習会で会う人会う人に、「テレビ観たよ」と言われた。


その時に「そういう障害あったなんて気づかなかった」とか、「字が汚いといじってごめん」と言ってくれる人もいた。


傷付いていたウチの心は少し回復した。

理解し、受け止めてくれる人間がいる事がとても嬉しかった。




そしてウチの就活にもついに動きが出てくる。


とある会社でパートとして雇ってくれる事が決定したのだ。


そこは、ウチと同じく発達障害を抱えた子供が、学校終わりに過ごす場所、 いわゆる放課後等デイサービスだ。


緊張しながら現場に入る。本当に色んな子がいた。


運動神経や言葉がとんでもなく達者な子、めちゃくちゃ記憶力の良い子、発語は難しくとも、作動記憶の優れた子。


様々なカラーの子供がいる。その子たちに集団行動や社会ルールを教えていく。

ウチはそこの指導員として入る事となった。


最初は中々上手く行かず、子供の機嫌を損ねてしまったり、上司の指示を上手く理解出来ず、すれ違う事もあった。


それでも、せっかく拾ってもらった場所。

どうにかここでこれからも働き、卒業したら正社員になろうとウチは奮起した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る