第17話 同じ世界にいるウチは考え始める

ウチは前期でどうにか大学を卒業出来る事になった。


仕事の方も徐々に慣れてきて、子供たちとの関係性も、少しづつ作れていった。


しかし、仕事は中々に厳しく、ダメ出しをされる日々が続いた。


そして、ウチはいつの日か仕事に疑問を持ち始める。


それは、この事業所のやり方だった。


もちろん、それぞれの企業理念があってこその、事業所の運営なので、別に間違っていると根本から思った訳では無かったが、それでも少し引っかかる事があった。


この事業所では、皆が同じ行動を取るようにしつけている。


始まりの挨拶、いただきます、ごちそうさま、帰りの挨拶、これを皆で同時にやる。ここだけ聞けば、特におかしい点は無い。


ウチが疑問に思ったのは、出来る子が放置されてしまっている状況だった。


ここでは学校よりも、子供たちの個々の能力のアンバランスがより濃く出る。


皆で同じという事は、やや苦手な子を、出来る子は待たなければならない。それも訓練の1つだが、ずっと毎回それでは、始めからやるのが馬鹿馬鹿しく感じてしまい、わざとふざけたりするのだ。


工作や料理でも、手先の器用な子は、他の子が終わるまで何も出来ず、ただ座っている事しか出来ない。すると段々、積極的にやらなくなってしまうのだった。


「どうせ先にやっても…」という精神が生まれて来てしまい、集団行動というものが、逆に意欲を削いでしまっているのでは無いかと、子供たちを見て思うようになった。


もちろん上司はそれに気付かない訳はない。だが、企業理念がある故に、そう簡単には変えることは出来ないのだ。


また、上司は正社員が2人、パートさんが1人であったが、関係性が上手く行ったのは正社員の上司1人だけで、残り御二方とは、毎回何とも言えない空気が流れ、ダメ出しの日々だった。


今でも納得出来ないのは、仲の良くなかった上司が放った「頑張ったかどうかは他人が決める」というものである。


どうして1人で陰ながら頑張ったものもいちいち他人に評価してもらわなければならないのか。頑張ったかどうかは自分が1番分かっているはずなのに。


また、パートの先輩が言った一言でイラッと来たのは、ウチが休みだった日の翌日、普通に入ったら、

「他の社員に『昨日は休んでご迷惑お掛けしました』の1つぐらい入った時に言うべきだと思うよ」である。


ウチが仮に急な病欠だったらそれは言わないといけない事だが、シフトで普通に休みだったのに言う必要があるのかと思った。


ちなみにそのパートさんは自分がそうなった時に言ってない事も多かったので、自分が言われたいだけなのかと歪んだ捉え方をしてスルーした。




中でも地獄だったのは、上司から子供たちの前で絵本を読み聞かせをしろという無茶ぶりだった。


字が読めない事を知っているはずなのに、何故こんな事を、ウチは焦りに焦った。


その時近くにいた読み書き、発語に何も問題が無い子供に目がはいり、その子に「一緒に読んでくれない?」と声をかけ、何とかその場を切り抜けた。


この日のウチはストレスが溜まりまくった。


そして、自分の頭の柔軟さと、回転の速さを自分で褒めまくった。







そんな中、突然転機が訪れる。


ウチの持病である潰瘍性大腸炎が悪化したのだ。


こまめな通院が必要になってしまい、現在家から職場まで2時間かかっているウチは仕事を続けるのが難しくなってしまった。


そして、前から職場の人間関係に悩み、事業所のやり方に疑問を持っていたウチは、思い切って転職を決意した。


転職をするにしても、ウチはまた放課後等デイサービスで働きたいと思っていた。


同じ世界に生きてる者として、こういった子たちとこれからも関わりたいと思ったからだ。


家や病院から近くて、子供たちの個性をより活かした伸び伸び活動している事業所を探し、見つける事が出来た。


そして面接を受け、あっさりと合格した。





月日は少し経ち、現在の事業所の最終勤務日。


最後の仕切りを任された。最後に子供たちに1人1人連絡帳を渡す時、ウチは涙が流れた。


この子たちと別れることが何よりも辛かった。

号泣を堪えながら最後の挨拶を終えた。


その後、上司達からは激励の言葉がかけられたが、子供たちと別れた後は、この職場から早く去りたいという気持ちばかりだった。


ウチはウチなりに同じような障害を持つ子供たちがそれぞれ楽しく過ごせると思う環境で、これから新しく生活をスタートする事になった。

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