第8話 空気が読めない世界でウチは砕ける
ウチは中学2年生になった。担任は1年生の時と同じだった。ある意味話は早いかもしれない。
だが、今回はとてつもない早さでいじめられる事となった。
去年から他クラスでやんちゃしまくってるヤツと同じクラスになってしまった。
9クラスもあれば噂というのは届かないもので、陰キャラの極みであるウチは存在すら知らなかった。
だが、コイツのいじめ方がタチが悪い。
遠距離から「死ね」と連呼する。授業中に大声でいじる。先生をも上手く巻き込むやり方。乗ってこない先生=止めないので、どっちに転んでもいじめは加速した。
ここまでやって何故どの先生も止めないのか。それには理由があった。
いじめっ子である奴は公立中学校だが、電車を使い、学区外から越境通学している。
その理由は部活だ。
全校生徒1000人を超える我が中学校、それ故に部活の種類も豊富で、中学にはありそうでない男子バレーボール部がある。
奴の住んでいる区にはどこの中学校にも男子バレーボール部が無いため、ここに来ているのだ。
それだけで越境通学の許しが出るのか、もちろんそれだけでは無い。
このいじめっ子は、ジュニアオリンピックの強化選手に選ばれるほど、とんでもなく上手いのだ。
私立校のスポーツ推薦に近いものがある。
こんな経緯なために、先生も強くつっこめないのだ。
最早日常化したいじめ。既に心が荒んでいたウチは不登校にはならなかった。親に相談などしなかった。無駄だと分かっていたから。
当然毎日が辛かった。家にも学校にも居場所が無い。
だがそれでも精神は保った。冬には百人一首がある。
それだけがウチを支えた。一時足りともウチはウチを否定しなかった。
そして耐えに耐え、ついにやってきた。
まずはクラスでの練習。
ウチが奴の悪評を知らなかったのと同じで、向こうもウチが百人一首を強い事を知らない。
ここでまた無双して、間接的にアピール出来れば、この瞬間だけいじめが止む。グループは今は別だが、いずれ知ることになる。
そう信じて目の前の試合に挑む。
……負けた。
目の前に立つその少女はウチの2倍以上の速度で取り、最終枚数はウチの3倍以上。
手も足も出なかった。この女は何者だ…今まで全く目立つ事なんて事が無かった大人しいその少女は、ウチから自信と居場所を音もなく奪っていった……。
百人一首大会の結果は7位だった。パッとしないにも程がある。
ウチは惨敗だった。強いと信じていた力は、あまりにも矮小だった。
ウチは百人一首で力を見せつける事は出来なかった。
ウチに対するいじめは、1年間消えることは無かった。
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