第6話 普通と呼ばれている世界でウチは耳を塞ぐ

ウチは小学6年生になった。担任は新しく入ってきた若い男性教師。学校の現状を何も知らない。ウチにとっては寧ろありがたい状況かもしれない。


幼なじみの存在もいつしか気にする事がなくなった。

ウチにとっては、そんな事はもうどうでも良くなっていた。


いじめっ子は別のクラスになった。前年の不幸をここで取り返しに走ってきたのかもしれない。とりあえずそういうことにしておこう。


この年は本当にびっくりするほど平和だった。多少のいじられはあった。だが、去年と比べたら数倍マシで、ほとんどダメージは感じなかった。本来あってはいけないダメな慣れかもしれない。


それでもウチはある程度の平穏に安堵していた。そしてこの時は、また4月から週2で朝に百人一首をやることとなったのだ。


つまり、毎週2日間、ウチのターンが炸裂するのだ。

6年生になってもウチは百人一首だけは無敵で、誰も寄せ付けなかった。


このお陰もあり、ウチは学校内でも、ある程度の居場所の確保が約束された。






そんなある日、ウチの生活習慣に変化が訪れた。


ウチは塾に通うことになった。

電車に乗り、隣の駅に学校終わりに行くことに。


1人で電車に乗る事自体まだあまり無かったが、さほど気にしていなかった。

だが、電車が近づいてきた瞬間、ウチは耳を塞いだ。


とてつもない轟音が耳を襲う。除夜の鐘に縛り付けられた状態でそのまま鐘をつかれたかのようだった。


ウチはどうして周りの皆がそんな平気な顔をしていられるのか分からなかった。


そして、ウチ自身も大の外出嫌いなため、いつも1日中カーテンを閉めた真っ暗な部屋で過ごしてきたため、経験していなかったから気づかなかった。





ウチには聴覚の過敏があったのだ。





思い返せば色々あった。

・パスタをフォークで巻き、その手助けとしてスプーンを使うが、そのフォークとスプーンがぶつかり、擦れる音に非常に強い不快感を覚える。

・リビングでテレビを見ていても、離れたキッチンで話す母の声で目の前のテレビの音が全く聞こえない。

・店員の元気な声が常に飛び交う居酒屋で音にびっくりして泣いてしまう。






ウチは人より音が大きく聞こえるらしい。そして、聞きたい音だけを選別する事も出来ないらしい。聞きたくもない音がガンガン入り込んでくる。それも爆音で。地獄以外の何ものでもない。


この時ウチは、この事実に気づいたのと同時に、この塾通いを続けなければいけないのかという現実に絶句した。


それでも親には逆らえなかった。逆らったところで無駄だという諦めの領域に入っていた。


ウチは色々考えた。どこなら電車の音が聞こえないか。

考えに考え抜いた結果、駅に着いた後少し待機し、電車が来るアナウンスを聞いてから改札を通るという方法を思いついた。

これが当時のウチにとっては、1番画期的なアイデアだった。


ウチは学校とは全く違うベクトルの苦しみにぶつかり、同時にスルーしてきた自分の特性に改めて気づいたのだった。


あんな爆音を毎日聞いているサラリーマンはどんな神経をしているんだと、本気で考えた。

正気の沙汰じゃない、あれが普通と呼ぶのであれば、この世界は狂っている。











この考えは、今でもさほど変わってない。













次からは中学生編です!!

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